先日、某政党から寄稿のお願いをいただき、ザーッと書き下ろしました。原稿が完成し、文書をブログでも公開する許可を頂きましたので、ハフィントンポストでも公開いたします。テーマが「政治参加」でかつ政党機関紙なので漢字をゴリッゴリに使って書いてみました。
(読みにくいと感じる人は、元のブログ記事では見出しを入れるなどして、ちょっとブログ調にして読みやすくしてありますのでこちらからどうぞ。)
若い力で民主主義を支えるスウェーデン
国は予算、制度から政治参画を促す体制整備を
若者の8割が投票するスウェーデン
2014年衆院選での20代の投票率が約33%となり、若者の政治への関心がかつてなく低調になった現実に世間は震撼した。こうした中、その翌年に18歳選挙権への引き下げに関する法案が衆院を通過し、今夏の参院選から導入される見通しとなった。これに伴い、文部科学省が高校生の政治活動に関する通達を46年ぶりに改定。教育現場で「政治教育」や「主権者教育」の必要性が一層注目を浴びている。さらに、政治教育に限らず、若者の声を政策に反映していく実践も各地でちらほらと見受けられるようになった。
例えば、欧米の事例を参考に設立された「日本若者協議会」は、各主要政党と若者が若者向けの公共政策(以下、若者政策)について協議するプラットフォームを提供してきた。公明党に限っていえば、この協議会を経た後、夏の参院選の公約の重点政策として「若者政策担当大臣」「部局の新設」「審議会への若者の登用」「被選挙権年齢引き下げ」などを盛り込むなど、日本の将来の若者政策に大きな希望をもたらす政策を打ち出した。このように、これまで少子高齢化などの人口動態の変化で政策対象のマイノリティとされていた「若者層」が、次第に社会的に影響力を発揮できる環境が、日本でも整いつつある。
こうした日本の社会状況も重なり、近年、若者参画の先進国としてよく引き合いに出されるのがスウェーデンである。スウェーデンでは14年に総選挙が実施されたが、30歳以下の若者の投票率は81%という結果であった。これは全世代の投票率85・8%と大差なく、10年の総選挙と比べても2%上昇している。戦後から02年までの17回の平均投票率は87%という統計的データからも、恒常的に高い投票率を維持しているのは明らかだ。また、選挙投票に限らず、政党活動に参加する若者、社会現象を変えられると思う若者の割合の多さ、署名活動参加率の高さなども各種社会調査を通じて日本のそれと比較すると、大きな開きがある。
さらに、スウェーデンの16歳から25歳の若者について、次のような興味深いデータがある。
・40%が政治について話すことに興味がある
・56%が社会に関しての問題について話すことに興味がある
・29%が月に数回知り合いと社会の問題や政治について議論する
・40%の若者が自分の地域に影響を与えることに興味があり、17%が政治家に意思表明する機会があると感じている
これらだけを見てもスウェーデンの若者の社会への関心の高さがうかがえる。(Unga med Attityd 2013, Ung Idag 2012)
しかし、スウェーデンでも若者の投票率が低迷した時期があったことは知られていないだろう。保守党が1976年の総選挙で40年ぶりに実権を握った頃だ。全世代の投票率は過去最高の92%を記録したのに対して、若者の投票率は上がらなかった。
そこで、98年秋から初回投票者(初めて投票する若者)の投票率の低さについて議論が始まったのだが、投票率が低下した理由としては「社会を変えるための手段としての政治家や政治制度への不信」が挙げられた。政治家らは若者の政治活動への関わりが減少していたことを指摘したが、一方で新たな組織が政治的な影響力を強めていた点も指摘された(とはいえ、18歳から22歳の投票率は日本よりはるかに高い74%を維持していた)。
では、若者の投票率が復調したのはどのような背景があり、今日のように若者が国政をリードする状況はどのようにして実現されたのか。以下では、筆者による数々のスウェーデンの若者団体・施設への訪問や、専門である比較教育学の見識に基づいてスウェーデンの若者の政治参加と、そして、それがもたらす社会的な影響力について論じたい。
なぜスウェーデンの若者は社会への意識を高く持ち、政治参画に積極的なのだろうか。
端的にまとめるなら、若者が民主主義的な意思決定の機会に参画し、影響力を政策的かつ実践的に行使できる機会が、民主主義政策の一環として保障されているからといえよう。スウェーデンの若者政策は対象年齢が13歳から25歳で、若者政策を担当する省庁が教育庁とは別で存在している。若者政策の目標は二つだ。
・若者が、政治的影響力への実質的なアクセスを持つこと
・若者が、福祉への実質的なアクセスを持つこと
この二つの目標を教育、余暇活動、住宅、犯罪、医療、労働市場などの広範な分野を横断的に包括することで実現している。
若者の社会的な影響力を保障するのは、若者政策自体が「民主主義政策」の一環であり、それは「個々の権利」として当然だからだ。ある層の市民の社会的影響力が低下すると、その人達は社会政策の対象から排除される可能性がでてくる。これは近代福祉国家における共通の課題といえよう。例えば、日本では少子高齢化という人口動態の変化により、福祉政策は高齢者寄りとなり、その結果として若者が政策の外に置かれる構図が深刻化している。スウェーデンは、こうした社会全体の政治バランスに与える影響を踏まえつつ、ただの権利としての参加の保障から若者の「影響力を高める」政策転換を進めてきた。では、実際に若者の影響力を高める上で、実際にどのような政策を打っているのだろうか。
日本では若者の社会参加を促進する政策といえば、自治体でも国の政策でも「若者の意見表明の機会の確保」に留まることが一般的だ。反対に、スウェーデンの若者参画政策は「実質的な影響力確保」を目的にしている。実際に社会へ若者の声を届け、反映させることで若者の影響力を高めているのだ。
スウェーデンは、選挙権年齢と被選挙権年齢がともに18歳なので、地方自治体・国政選挙の両方で18歳から投票が可能であると同時に出馬もできる。同国では高校を卒業する時点で、友人に政治家がいるのはありふれた風景だ。16年3月現在で、国会議員の最年少の議員は穏健党青年部所属の22歳のヤスペル・カールソン(Jesper Skalberg Karlsson)である。スウェーデンは、アントン・アベレに代表される史上最年少の18歳の国会議員も輩出している。日本のように出馬の際に必要な供託金はなく、これまでの仕事を兼務しながら政治家になることができる。
また、選挙制度が比例代表制であるため、若者が政治に挑戦するための参入障壁が低いことも若い政治家を増やす成功要因といえよう。当然、出馬する若い政治家は、若年世代を代表する存在として若者政策を打ち出し、若者にとって意味のある政策を誰が提示しているのかを選挙戦を通じて競い合う。
次に、政党青年部の動きをみていこう。政党青年部は政党内の青年組織であり、主に、若手の議員で構成される。スウェーデンのほとんどの政党に青年部があり、スウェーデン若者市民社会庁(MUCF)から活動のための補助金などを受けている。スウェーデンにおける16歳から25歳の若者の青年部所属率は3・5%で、その所属率は過去10年間に大きな変化はなく相対的に安定し、他の欧州諸国よりも高い水準を保っている。
例えば、スウェーデンの中道左派政権、社会民主党青年部の支部は全国に26あり、2年に一度の総会では全国から249人の党員が集まる。基本的には13歳から30歳であれば誰でも党員になることが可能だ。青年部の活動は多岐にわたり、若者が政治について気軽に話せる対話の場を設けたりしている。
私は昨年の夏、日本の若者支援団体の視察の通訳としてスウェーデンの人口規模33万人程度の地方都市・ヨンショーピン市にある青年部を訪問したことがある。日本でイメージするような「政党青年部」とは異なり、スーツで身を包むこともなく、カジュアルでフランクな若者感を出して活動をしているのが印象的であった。ヨンショーピン市の中道右派、穏健党の会員は全体で2500人で、うち青年部は350人だ。青年部は、全体をまとめる本部の他に「大学生部」と、「基礎学校から高校生の部」の二つに分かれている。青年部の会費は年間約560円程度で、本部の会費の約2100円と比べて払いやすく工夫されていた。
インタビューに応じた穏健党青年部のメンバー。中央の穏健党の国会議員を除けば、党員の年齢は15歳から23歳で、うち2人がヨンショーピン市で実際に政治家をしている。
基本的な活動は、お茶を飲みつつ、気軽な雰囲気の中で政治的な対話を楽しむことだ。日常会話から市政や国政の課題まで内容に制限はない。その延長として、話し合いから生まれた政策アイデアを毎年実施される青年部の党大会で意見表明する機会もある。
そして、スウェーデンでは政党青年部が青年会員を増やすため、学校に訪問するキャンペーン活動が認められている。学校長の許可さえあれば訪問が可能で、穏健党青年部はこれまで月に1回程度学校を訪れているが、断られた経験は一度もないという。さらに選挙中には学校から招かれ、政治討論の場にも参加している。一般的に選挙中に学校内で行う討論は、スウェーデン議会に議席を持つ8政党のすべてが参加することになっている。ここで私が興味深いと感じたのは、穏健党青年部の政策内容が母体である穏健党本部と必ずしも同じではないという点だった。
青年部というと政党本部の「出先機関」とのイメージがあるかもしれないが、スウェーデンでは他の政党青年部も党本部から政策的に独立して活動することが尊重されている。仮に、本部と青年部で方針が異なった場合は、青年部として本部と協議し、採用の是非を検討するとのことであった。このように、青年部が若者の声を代弁し、それを本部にアドボカシーすることでより若者に優しい政策の実現を可能にしているのである。
若者の声を国政に届けるのは、何も政党青年部だけではない。全国の若者団体の利益を代弁する圧力団体として、スウェーデン若者協議会(LSU)という組織がある。スウェーデン若者市民社会庁や欧州連合(EU)の若者政策の会議へ出向いて、スウェーデンの若者の利益を代表して意見陳述をすることで若者政策の反映に努めている。この団体は、公明党も関わった「日本若者協議会」もモデルにしたことでも知られている。
また、中学校や高校の生徒会自らが政治参加に果たしている役割も無視できない。スウェーデンの全ての高校の生徒会を束ねる連合組織「スウェーデン学生自治会(Sveriges Elevkårer)」は、生徒の権利を擁護するため、総選挙の年には選挙ディベートの集会で教育大臣などの政治家を各学校に招待している。学校事務を補佐することが役割になってしまっているような日本の生徒会とは異なり、学生が積極的に民主主義の一翼を担っているのは注目すべき点ではないだろうか。
同学生自治会は、首都ストックホルムの郊外に本部事務所を構え、年間約3億円以上の予算で運営される組織だ。運営費の9割が政府からの助成金で45人の常勤の職員を雇っており、職員の平均年齢は22歳。ほとんどが高校の元生徒会長だ。生徒自身が団体活動を通じ、生徒の権利を守る活動をすることが、民主主義自体について学び実践する政治的なチャンスと捉える考え方がスウェーデンには根付いている。
若者の民主主義的な社会参加を支えるチャンネルを、財政的に支えるバックアップ体制も充実している。その一つが、先程も出た若者政策を管轄する政府機関のスウェーデン若者市民社会庁だ。14年には約30億円の助成金を106の子ども・若者団体に拠出している。ちなみにスウェーデンの人口規模は16年1月現在で約986万人程度、つまり日本の10分の1未満であり、13歳から25歳の若者の人口は約160万人程度にしかすぎない。これを考慮すると、若者向けの予算がいかに豊かに確保されているかが理解できよう。
また、若者団体は助成金を用いて事務所を構え、人を雇うことが可能だ。補助金を得るためには、申請する若者団体の構成員の割合が「16歳から25歳までが6割を占めること」などを満たす必要がある。さらに、現在、欧州大陸全体で大きな課題となっている難民問題について研究・政策提言するプロジェクトチームをEUの他国の若者と共同で取り組む国際的な政治活動も非常に盛んだ。
こうした国境を越えたプロジェクトを立ち上げる際には、EUの若者政策部門から助成金を得ることが可能だ。スウェーデンだけでなく、EUとしても助成金という実質的な政治活動に必要な資源を配分することで、団体の政治力の若さを支えて、活動の運営基盤を保障している。
いよいよわが国で18歳選挙権が実現することになり、政治教育が注目を浴びていることは喜ばしいことである。主権者教育、模擬選挙、シティズンシップ教育など「教育」的なアプローチで生徒・学生の政治的素養を養うことによって、いち「市民」として民主主義社会への参加意識を高めることは今の成熟社会に不可欠である。
一方、教育的なアプローチによってしか若者の政治的リテラシーを養うことはできないと考えるのは短絡的だ。気づいた読者もいるだろうが、スウェーデンの例では一連の活動を「教育」という言葉で位置付けていない。
つまり、民主主義的な社会参加を促進するには、学校教育の授業で政治を教えれば全て事足りるとは考えていないことだ。言うならば、若者が政治的な参加を実現していくには、若者を取り囲む環境や制度を変革していくことが重要ということである。
そして、それを実現するためには、政治教育のみならず、若い政治家を排出するための被選挙権年齢の引き下げ、供託金の廃止や、政党青年部の活動を学校においてもできるようにする規制緩和が必要だろう。政治的な討論を日常なものとし、さらには政党青年部に加わらない若者を巻き込むためには生徒会、若者団体やサークル活動などの多様でインフォーマルなチャンネルを設けていくことが必要である。18歳選挙権の実現を真に生かすためには、こうした普段の取り組みが欠かせないのではないか。
もろずみ・たつへい
1988年、長野県生まれ。静岡県立大学卒。ストックホルム大学国際比較教育修士課程在籍。専門は比較教育学、シティズンシップ教育。NPO法人Rights理事。静岡県立大学にて若者の社会参画を促進する学生団体・若者エンパワメント委員会を設立し、内閣府の子ども若者育成支援点検評価会議などに関わる。ブログ「Tatsumaru Times」を運営、BLOGOSなどに記事を配信。
--
ちょっとだけ加筆修正をしました。PDFの原稿は、元記事を掲載してるこちらのぼくのブログからからどうぞ。
今回は、お題が「若者の政治参加」についてだったので本当に政治参加だけにフォーカスしました。
ぼくはもともと余暇活動支援の出身なので、本音は政治参加の促進も、その裏にある「パワー(権力)」の保持者がそれを本当の意味で所持しない、つまり解放しない限り、本当の意味での「参画」へ結びつかないと思っています。
それは、若者を「若者」とみるのではないということです。
また、政治参加と余暇活動参加も「民主主義社会への参画」という大きな枠組みの中で、再解釈していくことが重要と考えます。主権者教育も、政治教育もシティズンシップ教育も、学校間の教育格差が大きい日本の現状では、それらが一部の「エリート」生徒にしか供給されないのではないかという点から、局所的であり、根を持った広がりにつながるかどうかが課題と考えます。