Apple初の仮想現実コンテンツはU2のミュージックビデオ

Appleはヴァーチャル・リアリティ体験に対し、これから継続した取り組みを行う予定なのかもしれない。

Appleは仮想現実の取り組みに関して表立った行動はしてこなかったが、今回Vrseアプリから体験できるU2の360度ミュージックビデオを公開した。

このミュージックビデオは、Apple MusicとU2がパートナーシップを組んで製作した「The Experience Bus(体験バス)」の一環として製作された。ここでは、OculusのヘッドセットとBeats Solosを装着して「Song for Someone」のミュージックビデオを他のファンと体験できる。コンサート会場がいるような体験が味わえるのだ。

バスにはU2とApple Musicが提携していると明記されている。バスの中は、iPadやMacが並び、ミュージックビデオとそれに伴う大々的な体験を宣伝している。ミュージックビデオは、U2がステージで繰り広げるセッションの360度動画だ。世界中のミュージシャンが自宅やアパートから楽器を演奏しているシーンもある。一般的なVR体験で、典型的とも言える。しかし、動画の最初に際立つApple Musicのブランディングは興味深いものだった。

Appleがこの仮想現実を始めるパートナーとして選んだ相手はやはり彼らだった。Appleの10年来の恋仲であるBonoとその会社だ。U2はAppleのiPodのコマーシャルにシルエットで登場した時からAppleの音楽関連の取り組みに深く関わっている。その後、赤と黒のデザインが施されたU2スペシャル・エディションのiPodを発売し、それには彼らのサインが刻まれていた。

またAppleは、Bonoの(RED)チャリティーの主要なサポーターでもある。このチャリティーはAppleのような企業パートナーの力を得て、3億2000万ドル近くをエイズの治療と予防のために募った。

Tim CookとU2が昨年の9月にステージ上で無料で配布すると発表した「Songs of Innocence」のアルバムリリースは不人気だった。U2のファンはこのアルバムを歓迎したが、このアルバムをダウンロードした2600万人の大部分の人にとってこれは迷惑だった。なぜなら、iCouldの設定が有効になっている場合、ユーザーが知らないうちにアルバムが彼らのライブラリにダウンロードされてしまうからだ。多くの人を巻き込んだこの失態を受け、Appleは「Songs of Innocence」アルバムをユーザーの音楽ライブラリから削除するための専用ツール までリリースした。

このVRのミュージックビデオの曲もそのアルバムに収録されているものだ。つまり、AppleとU2はしばらく前からこれを製作することを話し合っていたのだろう。U2はAppleにとって安心して新しい取り組みを共にローンチできるパートナーであることは明白だが、今後Apple MusicがVRコンテンツを製作するのに他の選抜したアーティストと協力することもありうるだろう。

Appleがどの程度VRの分野への参入を真剣に考えているのかはまだ分からない。数ヶ月前、Appleが拡張現実のヘッドセットを製作しているというが流れた。彼らは、夏頃にARのスタートアップMetaioを買収した。個人的にこの買収は噂のApple carのためのAR技術の開発のためなのではないかと考えている。

また、特許の取得も噂の火種となった。Appleは2月に、Gear VRの競合製品になるようなiPhoneと連携するヘッドセットの特許を取得している。

現在、iPhoneからVRコンテンツを視聴するための良い方法はあまりない。Google Cardboardが今ある唯一の「没入」できるタイプのものだが、物理的なケースの多くは使うに耐えないものだ。まだましな選択肢も近い内に出てくるようではある。

このミュージックビデオを見るのに必ずしもヘッドセットは必要ない。ユーザーは動画をフルスクリーンで、端末を動かして視点を変えながら動画を楽しむことができる。

Appleがこの体験を提供するのに使用しているアプリはVrseというもので、App Store、Google Play Store、Gear VR StoreとGoogle Cardboardアプリからダウンロードできる。このアプリはサードパーティーのコンテンツ制作者が視聴体験を提供できるようにするもので、The New York Times、Vice News、NBCなども製作者として参加していた。

Appleが外部のアプリで開発を進めたことは興味深い。AppleがVR機能をApple Musicのアプリ内に構築したり検証を進めたりする前に、コアなファンがお気に入りのバンドのVRコンテンツを見たがるものなのか確かめる意図があるのかもしれない。

AppleがU2との取り組みがこれで最後になったとしても、AppleはまだVR体験を試し始めたばかりで今後も継続した取り組みを行う予定なのかもしれない。

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

(2015年10月30日 TechCrunch日本版「Apple初の仮想現実コンテンツはU2のミュージックビデオ」より転載)

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