"日本は遅れてない" ブロックチェーン推進協会が設立。同団体の「5つの狙い、4つの理念」とは?

日本国内におけるブロックチェーン技術の普及啓発、研究開発推進、関連投資の促進、海外ブロックチェーン団体との連携を目的とする。

「日本は世界に比べて遅れていない」「議論を振り出しに戻さず、前に進めるようにする」──いろいろな何かを見てきた人でなければ出てこない言葉だと思う。2016年4月25日に開催された「ブロックチェーン推進協会(Blockchain Collaborative Consortium, BCCC)」の設立記者会見で聞いた言葉だ。

この団体は日本国内におけるブロックチェーン技術の普及啓発、研究開発推進、関連投資の促進、海外ブロックチェーン団体との連携を目的とする。

発起メンバーは34社だ(会員企業の一覧)。年内には100社集めることが目標だ。理事長はインフォテリア代表取締役社長の平野洋一郎氏、副理事長はカレンシーポート代表取締役CEOの杉井靖典氏、テックビューロ代表取締役社長の朝山貴生氏が就任する。理事として、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏、日本マイクロソフト エグゼクティブプロダクトマネージャーの大谷健氏が就任する。事務局は、FinTechスタートアップのインキュベーション施設FINOLABに置く。

参加企業、特に理事を務める企業の顔ぶれが興味深い。インフォテリアはデータ連携ミドルウェアと開発環境のAsteria Warpの開発元だが、自社ではブロックチェーン技術そのものを開発していない中立的な立場にある。カレンシーポートは、ブロックチェーン上のミドルウェアDeals4の開発元で、金融機関、証券会社などによるブロックチェーン実証実験に数多く関わっている。テックビューロはプライベートブロックチェーン技術mijinと各種ユーザー企業との提携合意発表を連発している(関連記事)。

特に先日公表された住信SBIネット銀行での実証実験は世界的に見ても先駆的なブロックチェーン事例だ。プライベートブロックチェーン技術mijinが高負荷、障害、攻撃に耐え「勘定系に使える」と報告された。ただし、同団体は特定のブロックチェーンに特化する訳ではない。「異なるブロックチェーンを連携する経験を積むには、様々な会員企業に参加してもらう必要がある」とも話している。

このほか、ブロックチェーンの潜在的ユーザー企業となる幅広い分野の企業が参加している。ブロックチェーン技術Ethereumの事業を推進する米ConsenSysの名前もある。日本で活躍しているブロックチェーン・スタートアップのコンセンサス・ベイスNayutaの名前もある。

ブロックチェーンニュートラル、プラットフォームニュートラル、アンチ・ガラパゴスを理念に

記者発表で、平野氏は同団体の5つの狙い、4つの理念を挙げた。5つの狙いとは、情報共有、普及啓発、領域拡大、海外連携、資金調達支援である。4つの理念とは、技術や製品に中立な「ブロックチェーンニュートラル」と「プラットフォームニュートラル」、「グローバルに連携しガラパゴス的活動をしない」、それに「反社会性力、反市場勢力の排除」である。

例えば情報共有について、副理事長の朝山氏は次のように語った。「日本はブロックチェーンへの取り組みで遅れているわけではない。銀行の実証実験などで実用性が認められている。ただ、なにぶん情報が少ない。詳しい技術者どうしが意見交換をしているうちに、議論が1年も2年も前に通り過ぎたはずの振り出しに戻ってしまう」と堂々巡りの議論で時間が浪費されてしまう現状を憂えた。「BCCCに加入してもらうと、もう振り出しに戻る必要はない。後ろを見るのではなく、(ブロックチェーンのように)つながって前を向いていこう」と呼びかける。

技術面での取り組みも進めていく。副理事長の杉井氏は「日本の研究所や大企業は、秘密分散ストレージや秘匿計算の技術では世界的に見て進んでいる。これらの技術をブロックチェーン技術とうまくインテグレーションできれば、世界に貢献できる」と訴える。

「例えば、このような先進的な技術をプログラミングの柔軟性が高いEthereum上で実装し、NEMにも統合し、その実績をテコに(新技術を仕様に取り入れてもらうことが)最も難しいビットコインに統合することを狙うといった草の根活動も考えられる」。このように、杉井氏は日本の研究者、開発者らが蓄積してきた技術を主要ブロックチェーン技術に貢献できる可能性を示唆した。なお、このような技術を研究中の大企業にも「声をかけている」段階とのことだ。

同団体の理念として「反社会勢力、反市場勢力の排除」はちょっと気になる項目だ。聞いてみた範囲では、仮想通貨やブロックチェーン技術をめぐる資金調達案件(クラウドセールなど)や、個人向け投資商品(仮想通貨と称するコインなど)などで、詐欺性が疑われる案件が出始めていることを意識している模様だ。

「会費は工夫している」と平野氏は説明する。年間売り上げ1億円未満の企業は年会費1万円など「スタートアップが参加しやすいよう工夫した」(平野氏)。

なお、同団体設立の2日後の4月27日には「日本ブロックチェーン協会」の設立発表が予定されている。こちらは仮想通貨に関わる法整備のロビー活動を進めてきた団体である一般社団法人日本価値記録事業者協会(JADA)が改組するものだ。ブロックチェーンの名を冠した団体が複数並ぶことになるが、それぞれの狙いは異なる。平野氏は「競合するというより、補完的な団体だと思う。活動計画が明らかになった時点で、いろいろな話ができると期待している」と話している。

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