私たちのデジタルの未来は、中国からやってくる

「中国は歴史的に、模倣品と海賊版で溢れた市場だと思われて来たが、しかし時代は変わったのだ」
TechCrunch Japan

【編集部注】著者のMichael JaconiはButtonの共同創業者兼CEO。かつてはRakuten LoyaltyのCEOを務めていた。

インターネットの黎明期以来、業界の大物たちは、ユーザーたちがオンライン体験を始める入口である「ポータル」を奪い合って来た。要するに「ブラウジング」を開始する場所だ。ダイヤルアップ時代が到来したとき、America OnlineはCDを米国の全家庭に送り付けた。そのバトンはYahooに渡されてカテゴリー別リストとなり、やがて全世界の情報をインデックス化するGoogleの野望に飲み込まれた。「ポータル」を制することが全てだったのだ。

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モバイル革命が世界中で拡大し続けるにつれて、ポータルを巡る戦いが激化している。しばらくの間、人びとはそれを制するのはハードウェアだと考えていたが、やがて本当に大切なのはソフトウェアであることが明らかになった。その後、論争はオペレーティングシステム(AndroidかiOSか)へと移行し、やがて人びとがほとんどの時間を費やすソーシャルならびにメッセージングアプリケーションへと移行した。個人的には、現在それはアプリとオペレーティングシステムの間のどこかに漂っていると考えている。とはいえ、インターフェイスレイヤは常に進化していくだろう。

ロケットの発射台と同様に、ポータルはそのあとに続くものがあるから重要なのである。その切望された場所を巡る戦いは、しばしば他の理由が並べ立てられていることも多いが、要するにコマースのためのポータルになるための戦いなのである。

Google哲学には、利用者をなるべく早く「Googleのページから立ち去らせる」というものが含まれている...このことによって利用者たちに利用習慣をつけてもらい、繰り返しポータルに戻ってきて貰おうということだ。まあ私の考えでは、本当の(しかしやや隠された)目標は、ユーザーに買いたいものを検索させ発見させることだ。

もちろん、Googleは世界の情報を集約する一方で「悪いことは行わない」(do no evil)のだが、その代償として売上を、Priceline、ExpediaAmazon、その他のデジタルエコノミーに渡してしまっている。

一方Facebookは、利用者の時間、注意、データを独占することでポータルとなった。この努力によって、四半期ごとに記録が破られる広告ビジネスが打ち立てられた。

GoogleとFacebookという2大独占企業が、2017年に新しく支払われた広告費の89パーセントを占めているのである。彼らの優位性は他に類をみない...今のところは。

だが現在、消費者の習慣の変化、広告主のコストの耐え難い上昇、米国のデジタル経済を支配している広告モデルへの普遍的な不満などから寄せられる市場の力によって、急速な変化が求められているのだ。そのすべてがモバイルによって加速されている。オンライン上でのユーザーにとっての手酷い経験はいまでも存在し、そのことが広告主にとっての効果を下げ不正行為を蔓延させている。過剰な広告から逃れようとする動きを、象徴的に示しているのが、広告ブロッカーの爆発的な普及である。「この壊れた業界の是正の必要性」を示すさらなる証拠は、Oracleが広告を追跡監視する企業の買収に8億5000万ドルを喜んで支払ったということだ(おそらく私が知る最も優れた起業家がこの会社を経営しているので、この事は驚くようなことでもないが)。

起業家の1人として、私の仕事は未来を予測することだ。これまでの経験を通して学んだことを熟考することで、私たちのデジタル未来についての、よりスマートな意思決定を導いてくれる真理があることが明らかになった。

小売業者、広告主、ブランド、マーケティング担当者たちは、日々スマートになっている。このことが意味することは、ユーザーたちのために彼らが頼るプラットフォーム、パートナー、そして場所を、彼らが日々「パフォーマンス中心」にしていくということなのだ。より多くの商取引を目指して。

宣伝のためにビューを買ったり、ボットやその類のものに対して支払いをする行為は、時間と共に廃れていくだろう。(私見だが)世界で最も強力な企業であるAmazonが、そのアソシエイトプログラム(自社開発によるパートナーシップとアフィリエイトプラットフォーム)に大きく依存していることは秘密でもなんでもない。実際このチャネルは小売業者にとってもっとも効率の良い有償獲得手段であり、実際Amazonアフィリエイトプログラムの成功が、パートナートラフィックの急増となり、AWSの開発に繋がったのだという噂もあるほどだ。

Chinese flag overlooking cityscape, Shanghai, China (Photo: Rolf Bruderer/Getty Images)
Chinese flag overlooking cityscape, Shanghai, China (Photo: Rolf Bruderer/Getty Images)
Getty Images/Blend Images

私たちのデジタル未来を考えるときには、視線を落とし、そして東を見よう。まずは視線を落として手元の電話を眺めて感心してみよう ―― これは今後10年にわたるあなたのデジタル世界へのポータルとして機能するだろう。そして私たちのそれへの依存度はますます大きくなっていく。この大きさのデバイスの爆発的な普及は、これまでの歴史におけるあらゆる技術潮流の速さを凌駕し続けている。

さあ、では東を見て、中国で起きることが、最後にはここ西洋でも起きることを確認しよう。中国市場はPC主導のデジタル革命をスキップして、スマートフォンを使ったデジタル時代に突入している。本当にスマートな投資家の中には、この命題に基く戦略を立てて、静かにその先見の明を通した報酬を受け取っている者たちもいる。

中国は歴史的に、模倣品と海賊版で溢れた市場だと思われて来たが、しかし時代は変わったのだ。ここ10年の間に、世界で最も大きく、そして最も革新的な企業のいくつかが中国から出現した。中国の起業家精神(最近それは、おそらく世界で最も偉大な投資家であるMichael Moritzによって賞賛された)、その革新のスピード、そして十分な人口に素早く拡大して到達できる能力によって、中国企業は多くの米国のライバル企業の時価総額を飛び越えてきた。

中国のデジタル経済の成長における最も興味深い要素は、それらが米国の市場よりも基本的に「純粋」であるということだ。私はその要因として、中国市場が本質的に「取引中心」であることを挙げたいと思う。Andreessen Horowitzが書いているように、(中国で最も価値のある会社であるWeChatは、すべてのユーザー行動の「ポータル」でありハブとなっている。彼らの収益の多様性は、"Google"や"Facebook"よりもはるかに"Amazon"的であり、ずっと純粋だ。彼らはプラットフォーム上での取引でお金を稼いでいて、広告は戦略上それほど重要ではない。

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2年前、テクノロジー産業がWeChatを複製しようとする執念に駆られたことがあった。そして見当違いの何らかの理由によって、誰もが優れたメッセージボットを作る必要があると考えたのだ。

忘れてはならないことは、中国で創造されているビジネスの純粋さと強さに対する、私たちの執念だ。中国のデジタル経済を結び合わせ、無限にみえる成長を育んだ基本構造は、コマースとモバイルの不思議な組み合わせである。中国版ブラックフライデーであるシングルズデー(独身の日)には、Alibabaでの売上は250億ドルに達した。そのうち90%がモバイルだった。

これまで米国と中国の両方で学んだことは「消費者がお金を使うこと」が、最も永続性のある消費者ビジネスを作り出すということだ。(様々な先進技術や英雄的ステートメントは脇に置いておくとして)結局Googleとはショッピングエンジンを搭載した「ポータル」なのである。もし納得いかない場合には、彼らの収益がどこから来ているのかを見て欲しい。

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Googleが最近発表したShopping Actionsの発表と、その「1トランザクション毎の支払いモデル」への移行の動きは、デジタルエコノミーの風景を永遠に変えてしまう可能性のある転換点を示している。

Googleによる、Apple、Facebook、そしてAmazonに対する多方面の戦いには、重み付けが施されている。Amazonは最も脅威的だ。そのビジネスは4者の中で最も永続性のあるものだ。そしてそのモデルは2つの点で青天井である。(1)人びとがオンラインで買い物をすると、その売上の中からAmazonが過剰な手数料を抜いていく、そして(2)企業がさらなるクラウド計算パワー(さらなるサーバー)を必要とすると、その売上の中からAmazonが過剰な手数料を抜いていくのだ(私の知る人たちは皆ここに挑戦しようとしている)。

そして傷口に塩を塗るように、Amazonはポータルという意味でもGoogleを脅かしている。商品検索の55%が今やAmazonを起点としているのだ。わずか1年前には、これは30%に過ぎなかった

消費者の行動がモバイルでは変化した(検索が減った)こと、そして永続性と成長の観点でAmazonと比べたときに、自身のモデルが劣っていることをGoogleは認識し、対応する必要に迫られたのだ。Googleは、無限の成長をサポートするモデルと、Amazonとその販売業者との関係に似た広告パートナーのために「ウィン・ウィン」の関係を構築できるモデルを必要としていたのである ―― つまり自分自身の検索トラフィックの独占を利用して、小売業者の負担を引き上げ続けるモデルではないものということだ。

Googleは、Google.com、Google Apps、そしてAndroidなどの、ポータルとしての地位が、長期的に勝ち抜くためには、取引の一部とならなければならないことに気付いている。モバイルユーザーは、広告を少なくしてより多くの機能を要求する(ルック&フィールとして中国で普通に見られるような体験を要求する)、何はともあれGoogleは視線を落とし東を見る必要がある。取引の一部となるために、そしてその一部を得るために。

このままでは、Googleと彼らが収益源として頼っている小売業者との利害が衝突する日が近付いていたのだ。ユーザー1人あたりの検索アクティビティはモバイルで減少し、ユーザー獲得コストは四半期毎に増加していたからだ。これまで多くの企業がAmazonとの競争に敗退してきた。もしGoogleが小売業者たちにとって、経済的に成功の見込める成長モデルを作り出すことができなければ、コマースの圧倒的巨人に立ち向かえる者はいなくなる、小売業者たちもGoogle自身も。

私が長い間信じてきたように、取引の一部となることは、すべての当事者にとって最も望ましいビジネスモデルである。小売業者が物を売った時に関係者に収益がもたらされる。そして最も大切なことは、お金の発生がユーザーが欲しいものを見つけたとき「だけ」に起きるということなのだ。

その意味でShopping Actionsは関係者全て(売り手、買い手、仲介者)を満足させるためのGoogleの最初の野心的なステップなのだ。

よくやった。サンダー(GoogleのCEO、サンダー・ピチャイのこと)。

(翻訳:sako)

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