貧困、栄養失調、伝染病...マニラのスラム「ハッピーランド」は悲しみに包まれる場所

「断つことができない貧困の連鎖です」

「断つことができない貧困の連鎖です」TEDMCDONNELL/SIPAPRESS

明らかに、マニラの日常生活は改善している。何十億ドルもの資金が投資され、空を背景にクレーンがそびえ立ち、海外からの観光客が増えている。少なくとも、マニラのフィリピン人は幸せだ。多くの人が明るい未来を思い描き、非常に低いレベルからではあるが、フィリピンは経済的な繁栄を取り戻そうとしている。

大半の人々は、ドゥテルテ大統領の政策に満足し、欧米のメディアが伝える麻薬密売人の射殺のニュースを「フェイクニュース」だとか、欧米のニュース視聴者のために誇張されたものだととらえている。

しかし少し踏み込んでみれば、過去20年間にわたってマニラを苦しめている問題の多くは未解決のままだ。

フィリピンの人々が直面する最大の問題は、依然としてマニラの広大なスラム街の貧困とホームレスだ。繁栄するマニラ首都圏から数キロ離れた郊外の街トンドに行けば、何十万人ものフィリピン人が置かれている絶望的な状況に衝撃を受けるだろう。

ゴミが散乱しているハッピーランドの通り。TED MCDONNELL/SIPAPRESS

マニラのスラム街、トンド地区には60万人以上が暮らしている。 NGOによると、ドゥテルテ大統領の圧倒的な勝利から12カ月、トンドの状況は改善していないという。

悪臭を放つスラム地区の住民にとって、貧困、極度の栄養不足、伝染病は日常的な現実だ。

「麻薬犯罪者のいわゆる超法規的な殺人よりも、病気や栄養失調が原因で死亡するほうがはるかに重い問題です」と、あるNGO職員は言う。

ラスベガスに本拠を置くアメリカの非営利団体「Kilos Bayanihan」の創立者アラン・ナイワルド氏によると、トンドの問題はハッピーランドで拡大し、何世代にもわたって抜け出せない罠になっているという。

「フィリピンでは教育が極めて重要ですが、ほとんどの子どもたちは学校に通うことができません。なぜなら、両親は子供に食事を与えるか、食事を十分に与えられなくなるが学校に行かせるか、どちらかを選択しなければならないからです。それは厳しい選択です。

彼らの人生を改善する機会が失われているのは明らかです。生活を向上させる行政プログラム、地域再生プログラムが提供されるべきです。また、ほとんどの雇用主は年齢制限を設けています。これも、仕事が見つからない原因です。ほとんどのホームレスは、より良い人生を目指して田舎からマニラに出て来たのに、ホームレスになってしまった人たちなのです」

状況が最悪なのは、トンドのハッピーランド BRGY105地区だ。ここの人口は2006年に約3500人だったが、今では1万2000人以上に増加している。

ハッピーランドは1つのゴミ捨て場、あるいは多くののゴミ捨て場の周囲にスラムが作られる。毎日、人々は何か金になるものを見つけようとしてゴミをあさる。大量の鶏肉のゴミが、ファストフードのごみ袋から回収され、煮沸され、リサイクルされる。 それは「パグパグ」と呼ばれ、スラム街でお腹をすかせた家族に数ペソで売られている。

ゴミの山を選り分ける男。TED MCDONNELL/SIPAPRESS

悪臭、高温、嵐は、伝染病になる有害な組み合わせだ。政府の保健サービスは不十分で、最悪のスラムと化したトンドの人々は病気になっていくことを意味する。

ローズマリー(41)の家族のように、一部の人々はトンドのスラム街で一生暮らす。彼女には5人の子どもがおり、10歳から20歳まで、全員男の子だ。彼女には可愛がっている2頭の犬と1匹のカメがいる。彼女の夫ジェリーは日雇いの建設労働者だ。彼はフルタイムの仕事を熱望しているが、ありつけるのはすべてが日雇いの仕事だ。

家族はハッピーランドの回廊にあるワンルームの掘っ立て小屋に住んでいる。バスルームはない。小屋には、重ねて作られたベッドルームが2つある。プライバシーはない。

ハッピーランドの掘っ立て小屋から見つめる小さな男の子。TED MCDONNELL/SIPAPRESS

地域社会の人々を支援するためのNGOで働いているローズマリーは、通訳を通じ、自分たちは抜けられない罠にはまっていると語った。

「断ち切ることができない貧困の連鎖です。私の両親は、トンドのスラム街に住んでいましたが、今、私と私の子どもの状況も変わりません。私たちは現状を変えたいと望んでいますが、夫の仕事は見つからず、学校に通わせ、家族全員を食べさせるためのお金は、ひと月に4500ペソ(約9900円)しか稼ぐことができません。

しかし、ローズマリーは、ハッピーランドに住む多くの人々と同様に、希望を見いだしている。

「私の子供たちは全員学校に通っています。それこそが、ハッピーランドから抜け出す方法なんです」

ナイワルドは、貧困の連鎖を断ち切るのは難しいと言う。

「スラム街に住み、教育を受けていない15歳の母親の下に生まれた子どもを想像してみてください。彼女には学校に通わせるためのお金がありません。その子どもは13歳か14歳で妊娠します。そして、かつての母親と同じ状況に置かれます。サイクルは繰り返し続けます。

貧困に関する私の好きな言葉があります。それは『貧困は人格の欠如ではない』ということです。貧困は、お金と機会の欠如です。社会が背を向け、目につかなくなる――まさに、ハッピーランドの状況を言い表しています」

ナイワルドによると、ドゥテルテ政権は最も助けを必要とする人々に背を向けているという。

「この1年で、ドゥテルテは何も現状を変えようとしていません」

ナイワルドは、変化をもたらしたいと望み、政府の介入なしに支援を提供することができる国際NGOの活動を拡げている。

Kilos Bayanihanと、地元のコミュニティ・ボランティアに携わった看護師アーリーン・シラオは毎日、栄養失調や伝染病にかかった人たちに対応している。しかし、彼女は母親や子供たちに、悲惨な世界でも楽しみになるものを与えようと、日々、栄養補給プログラムを地道に実施している。彼女は、母親には希望を失わないように、子どもたちには逆境に負けず微笑むようにと励ましている。

「私たちは決してあきらめません。未来のため、彼らの生活のため、闘い続けます」と、彼女は重度の栄養失調の子どもにスプーンで食べ物を与えながら語った。

ハッピーラントで半日バスケットボールに熱中する若者たち。TED MCDONNELL

ドゥテルテは、就任1年を迎える前夜、すべてのフィリピン人に「快適な暮らし」を与えたいと宣言した。しかし、ドゥテルテは、日々悪夢のような暮らしをしている、忘れ去られたハッピーランドの人々にそれを伝えるべきだ。

ローズマリーと彼女の家族は、Kilos BayanihanのようなNGOの助けを借りて闘い続け、自分自身よりさらに不幸な人たちを助け続けている。

米を食べた後、スプーンを舐める栄養失調の幼児。TED MCDONNELL/SIPAPRESS

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テッド・マクドネルは現在「A Life in Happyland」という本を執筆中。すべての収益はハッピーランドで活動するNGOに寄付される。

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