集団的自衛権閣議決定の裏で変貌を遂げる岩国基地

集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、日本の安全保障政策が大きな転換点を迎えた週末、私は山口県の岩国市にいました。

集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、日本の安全保障政策が大きな転換点を迎えた週末、私は山口県の岩国市にいました。

2年ぶりに訪れた岩国基地では、拡張工事がかなりのスピードで進んでいました。まもなく沖縄の普天間飛行場から空中給油機KC130の移転がはじまります。そのための格納庫はすでに完成し、さらに2017年までに米海軍厚木基地から移転する空母艦載機部隊(59機)のための施設も建設中。街を見下ろす愛宕山に目を移すと、大規模な米軍のための住宅や福利厚生施設の建設が予定され、こちらも工事の真っ最中。まさに海側の基地にも、山側にもクレーンが林立しているのが岩国の今です。

「現実的には集団的自衛権を実践するのは岩国だと。そういうふうに私たちは身近に脅威を感じますね」

岩国市議会議員で基地監視団体「リムピース」共同代表の田村順玄さんにお話しをうかがいました。

お話しを聞いた田村順玄さんと岩国基地にて

「岩国は本土で唯一の海兵隊の基地なんですが、今度厚木から海軍の基地が来る。さらに沖縄からの海兵隊部隊も来る。海上自衛隊もいますから、入れ乱れて日本の防衛の根幹をなす各部隊が全部岩国に集まってきちゃう」

今後3年で米軍機の数が今の倍以上、127機に膨れ上がることになる、極東最大の米軍基地に変貌中の岩国基地は、海上自衛隊と共存していることもあり、まさに集団的自衛権という概念の象徴のような存在になりつつあるのです。実際、集団的自衛権の議論が進むのに合わせるかのように、拡張工事のスピード感や規模の拡大を感じるという田村さん。

「これまでの投資額に比べれば毎年、毎年、額が大きくなってきている。1年間に903億円というのが今年の基地の事業費ですよ。岩国市の年間予算が630億ですからね。街はほとんど建設ラッシュで、全国から基地を建設するために業者さんが来ていますね」

変わりつつある岩国基地を日々目の当りにして、集団的自衛権というものをより切実に、身近に感じるようになってきたという田村さんがもっとも心配しているのが、有事が起きたときに巻き込まれるのではないかということです。

「これから、どんどん岩国を活用されるのではないかという恐ろしさがあって。米軍が岩国を使って次の作戦をしていくとか、軍備拡大とか。戦前に軍都であった、呉とか、広島とかね、原爆落とされましたね。そういう街の人は、本当に自分の思う思わざるにかかわらず、戦争の悲劇の巻き添えを食ったわけですよね」

だから基地の街に住む人間として、声を挙げていかなくてはと活動を続ける田村さんですが、市民の声は賛成・反対に分かれていて、なかなか大きな声になりにくいのも現実です。

岩国基地の正面ゲートから延びる商店街を歩くと、その多くがシャッターをおろし、人通りもなく、閑散としています。70年代、80年代は米兵を相手にするバーや商店で大変な賑わいだったということですが、4年間から施行された海兵隊員の外出禁止令によって、周辺では4軒が閉店に追い込まれました。今も年金を切り崩しながらバーを続けているという男性は、「集団的自衛権とか、基地の拡大とかどうでもよい。それで米兵が外に出てきてくれるならいいよね。とにかく外出禁止令をなんとかしてほしい」と話します。医療費や子供の支援についても防衛費から補助がある。こうした背景を受けて、沖縄の負担軽減策も軍備増強についても、唯一実現可能な方法は、岩国にもってくることになっていると田村さんは言います。

「市民はあきらめが半分と、恩恵もあるのでどうしても根本的に基地に反対するという動きは出てこないというのが現実ですね。でも、だからといって、何も声をあげないと、一体どうなってしまうのかわからないくらい、今の岩国の変化のスピードはものすごくて。政府のいろいろな動きと合わせてみていくと、本当に、その縮図のような街になっているように感じます」

報道ステーションSUNDAY」では、集団的自衛権について都内100人にアンケートを行いました。「行使すべき、わからない、行使すべきではない」という三択の中で、最も多く、約半数近かったのが「わからない」という答え。内容がわからない、正しいことなのかわからない。ナゼ今なのかわからない。そして、現実に基地が拡張され、他の基地からの部隊が集結し、日々目に見えて変貌を遂げている岩国基地周辺に生活する方たちへのアンケートで多かったのが「この先、何か不測の事態、有事があったとき、いったいこの街がどうなってしまうのかわからない」という答えです。

閣議決定を受け、秋の臨時国会から周辺事態法や自衛隊法など、約17~18本の法改正や新しい法整備のため議論が行われることになります。国民も「わからない」ままではよくないわけで、国会ではぜひ透明性のある丁寧な議論をしてほしい。さらに、国民の理解を深めたうえで、やはり「他国が攻撃を受けた時にも反撃に出られる。海外での武力行使を可能にする」という解釈は憲法の根幹にかかわる問題ですから、憲法改正手続きを経ないというのであるなら、少なくとも新しい法制定の前に、民意を問うべきなのではないでしょうか。

【追記】 2014/07/07/23:15

政府・与党は集団的自衛権を行使するための法整備について、秋の臨時国会への提出は見送り、来年の通常国会で審議する方向を示しました

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