「個別的自衛権でやれますよ。防衛官僚の常識」元内閣官房副長官補・柳澤協二氏に聞く【集団的自衛権】

安保法制懇メンバーの岡崎久彦氏に続き、今回は元防衛官僚で、第一次安倍政権では安全保障担当の内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏に、集団的自衛権の行使容認についてご意見を伺いました。

安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)メンバーの岡崎久彦氏(「自衛隊は戦争する軍隊になりますよ」安倍首相のブレーン・岡崎久彦氏に聞く集団的自衛権)に続き、今回は元防衛官僚で、第一次安倍政権では安全保障担当の内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏に、集団的自衛権の行使容認についてご意見を伺いました。

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長野 与党協議が始まりました。議論される15事例では、例えば邦人を輸送中の米艦の防護、とか米国に向かう弾道ミサイルの迎撃などがあります。公明党の山口代表は、これらの事例は個別的自衛権で対応できるとしていますね。

柳澤 個別的自衛権でやろうとすればそうなんだけど、そもそも本当にそんなことがあるの? ていう。たとえば、邦人輸送の米艦防護でも、邦人とか民間人を輸送するっていうのは、基本的には軍艦なんか使わないわけですよね。

私もずっと防衛庁から防衛省、官邸にいる間、いわゆる朝鮮半島の有事への対応でいろんな形のことを考えてきたけど、このケースなんかは考えたこともなかったんですよね。

本来、私は安全保障の議論っていうのは、メリットもあるし、デメリットもある、プラスマイナスもある。しかし、全体としてどう評価するのか、という議論をしなければいけないのに、あの、赤ちゃんとかおじいさんとかおばあさんとかこういう人たちが襲われているときに、助けなくていいんですかって。そりゃ助けるのは当然でしょ。ただ、助け方は、助けたければアメリカの船なんかに乗せずに、もっと違う、退避の仕方をするんだろうと。そういう背景を議論しないで、そういう場面だけ切り出して議論している。本来、広い観点からいろんなメリットデメリットを考えて理性的に議論しなければいけないところを、感情に訴えて、支持を得ようとしていると。

だから、それは別に国際的な安全保障の環境変化からきている話というよりは、今、支持率が高いうちにやらないとチャンスを失ってしまうという、むしろそっちの理由だろうと私は推測しますけどね。というのは、前回の第一次安倍政権のときも、同じようなことを言っていたわけですから。

長野 当時、柳澤さんは総理とどんな話をされたんですか。

柳澤 総理には、こういう事例であれば、別に個別的自衛権でもやれますよ、ということは申し上げたんですよ。もう私ら防衛官僚の常識でしたから。

たとえば米艦護衛、日本近海にいる米艦守るんだったら今でもできますよと。それからアメリカに飛んでいくミサイルっていうのはね、物理的に撃ち落せないんですよって話はしたんですけれど。

長野 そもそもアメリカに向かう弾道ミサイルを撃ち落せない。

柳澤 それは常識的に。

長野 技術的に?

柳澤 技術的にというよりは、まあ、技術的といえば技術的になんですが。つまり、アメリカまで飛んでいくようなミサイルっていうのは、日本のイージス艦がとらえて、狙いをつけるころには、もうずっと遠くに行っちゃっていて、とてもあとから打ったって追いつけるような、そういう状況にはないわけなんで、物理的に不可能なんですよと」

長野 総理はなんと?

柳澤 それはそれとして、考え方として、懇談会で議論してもらいたいというようなことは仰っていたと思いますよ。

長野 そのとき、総理の身近にいらして、集団的自衛権への総理の強いこだわりというのは感じましたか?

柳澤 当時、総理がお書きになった本なんかを読んでいるとね、日米関係を完全な双務性にしていくとか、同盟というのは血の同盟だから、アメリカがやられたら日本も血を流さなければ対等の同盟ではない、とおっしゃっているのを読んで、ああそうか、そういう思いがあったんだなと。ところが、今度の記者会見を見ると、どうもそういう思いもどこ行っちゃったんだかよくわからないという感じですよね。

だから、本来ならばそういうご自分の理念があるのであれば、そこをもっと出していればいいんだけど、そこをどっちかというと、国民ウケしやすいような、なんというか、割と非常に特殊なケースを挙げているわけですからね。対等な日米の完全な双務性とか、対等な血の同盟とかいうスローガンにあうような事例ではとてもないわけですよね。

とにかく何とか集団的自衛権という形を作りたいということなのかなと。ただそれでは集団的自衛権を使えるようになった日本が、将来的にどういうことをやっていくのかということをちゃんと説明しなきゃいけない。

長野 将来的にという点でいうと、今回わかりづらいのが、必要最小限の行使容認とか限定容認という表現。どういう意味なのかと。

柳澤 私はそこは全く理解できないんです。今まで政府が言ってきたのは、日本が攻撃された場合に、それを排除するための必要最小限度の自衛権というか、武力行使はできると。

長野 それが個別的自衛権。

柳澤 個別的自衛権。ところが集団的自衛権は、我が国が攻撃されていない場合ですからね。だからその必要最小限度を超えると言っているわけですけどね。同じ必要最小限度という言葉を使っても、目的が全く違うわけですから、私は今までの政府の解釈の延長線上にはまったくない話だと思うんですよね。

私がよく言うのはね、例えばその、子供がお母さんに向かって「お母さん、必要最小限度でいいからお小遣いちょうだい」っていうけど、お母さんは聞くでしょ、「あんた何に使うの?」って。そこの部分が議論されなきゃいけないわけですよね。それはゲーム機を買うための必要最小限度とね、学用品を買うための必要最小限度と、おのずと違うわけで、目的がまったく違うものを必要最小限度と言われても、そこは全然話が違うものになっていると思うんですよね」

長野 憲法の改正をするべきだと?

柳澤 うん、もしやるのであればね。そうしないと、それだけ自衛隊もリスクの高い仕事をしなきゃいけないわけですから、自衛隊がちゃんと仕事ができるというのは、背後に国民のしっかりとした支持があるという、それが支えになるわけですからね。国民の支持ってどうやってわかるんですかというと、それは憲法が、憲法改正をしろという憲法上の手続きがあるわけですから。

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テレビ朝日「報道ステーションSunday」より

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