小学生も飼ってるカイコ 遺伝子組み換えで生物工場に?

6月に群馬県の富岡製糸場が世界文化遺産に選ばれました。そこで 115 年間、糸の原料を供給し続けてきたのはカイコ。絹の産地を中心に小学校で飼う例が意外と多い虫ですが、あなどるなかれ。別の生物の遺伝子を体に入れ、新しい性質を持たせる遺伝子組み換え技術によって「生物工場」になるのではと注目を集めています。

6月に群馬県の富岡製糸場が世界文化遺産に選ばれました。そこで 115 年間、糸の原料を供給し続けてきたのはカイコ。絹の産地を中心に小学校で飼う例が意外と多い虫ですが、あなどるなかれ。別の生物の遺伝子を体に入れ、新しい性質を持たせる遺伝子組み換え技術によって「生物工場」になるのではと注目を集めています。

暗やみで光る赤、白、オレンジのまゆ(飯塚哲也さん提供)

●捨てるところがない虫

ふたのない箱からも幼虫が逃げずにおとなしくまゆをつくり、成虫になっても飛べない。これがカイコの特徴です。祖先は野生で自由に空を飛ぶクワコというガ。5千年前の中国を皮切りに、人が扱いやすくする改良が行われてきました。 カイコを研究する農業生物資源研究所の飯塚哲也さんは「捨てるところがない生き物」と表現します。絹がとれるまゆだけでなく、残ったサナギは魚のエサに。カイコが食べる桑の葉には血糖値の上昇を抑える効果があり、アジアではふんをお茶として飲む習慣もあります。

●光る糸に薬、人工血管も作る

この虫が「遺伝子組み換え技術」の導入で注目されています。代表例は暗やみで光るカイコ。下村脩さんが研究し、2008 年にノーベル化学賞を受賞したオワンクラゲなどの遺伝子を卵に注射して生まれます。農業生物資源研究所が 2000 年に世界で初めて作出し、2007年にはく糸を光らせることにも成功。現在は、まゆを2万個ほど使う「光るドレス」作りまでこぎづけました。

まゆは一般的に熱湯でほぐして糸をとります。しかし、成分であるタンパク質の性質が熱で変わってしまうため、光るまゆではこの方法がとれません。そこで、真空にして低い温度でほぐすなど、何年も工夫を重ねてきました。

他の生物の遺伝子を入れることも可能で、カイコの体内で薬や化粧品、再生医療で使う人工血管などを作らせる研究も進んでいます。

●養蚕農家の救世主に?

絹の世界的な需要は大きく減っていないものの、大量飼育が大変なことから、日本でカイコを育てる農家は昭和初期の 220 万戸から現在、500 戸を切る状態に。群馬県の農家などは生き残りをかけ、遺伝子組み換えカイコの飼育を始めようとしています。

自然界に存在しない遺伝子組み換え生物の取り扱いは「カルタヘナ法」という法律で規制され、外に逃げないよう、密閉された場所でしか飼えません。カイコも同じ扱いでしたが今年5月、場所や期間は限られるものの、開放された環境でも飼えるようになりました。動物では国内初の事例です。

今後データを集めることにより、遺伝子組み換えカイコを大規模に育てる道が開けるかもしれません。飯塚さんは「質のいいまゆを安定して大量にとるには、農家の高度な飼育技術が不可欠。遺産で終わらせず、産業としてつないでいくことが必要」と話します。

【研究者が考えるカイコの3大癒やしポイント】

・逃げない、飛べない、人を刺さない(ただし病気にめっぽう弱い)

・ほかの幼虫が体の上に乗っても、嫌な顔一つせずじっとしたまま

・まゆを作る時だけわざわざ、人が捕まえやすい場所まで上ってくる

【もっとくわしく知りたい方に】

・カイコの飼い方 (高原社のサイト)

・ オ ワ ン ク ラ ゲ の 光 る タ ン パ ク 質 「 G F P 」( 国 立 国 会 図 書 館 の サ イ ト )

・ カ ル タ ヘ ナ 法 ( 農 林 水 産 省 の サ イ ト )

・ 養 蚕 農 家 の 現 状 ( 蚕 糸 ・ 絹 業 提 携 支 援 セ ン タ ー の シ ル ク レ ポ ー ト )

※この記事は週刊「朝日中学生ウイークリー」8月3日号に掲載しました。試し読み(1

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