農家が経営するイタリアの宿泊施設は、アグリトゥリスモと呼ばれ、自然志向が強いヨーロッパ人の間で人気がある。

イタリア北部・リグリア州。パオラ・マリーニさん(仮名)は、ジェノバ湾を見下ろすゴルレリ村で、ワイン農園を営んでいる。

古都インペリアで生まれ大学で勉強したが、現在は自然の中で働いている。

地中海の陽光が燦燦(さんさん)と降り注ぐ斜面に、整然とぶどうの木が植えられ、緑色の実がたわわに実っている。ワイン畑の向こうには、真っ青な地中海が広がっている。農園は小高い丘の上にあるので、ときおり吹く風が心地よい。マリーニさんは、4年前に農園の敷地に観光客を泊める部屋を作り、ホテルも経営することにした。台所もあるので、北欧やドイツからの家族連れが長期間バカンスを楽しめる。プールも作って、子供連れの家族が1日中のんびりできるようにした。

このような農家が経営するイタリアの宿泊施設は、アグリトゥリスモと呼ばれ、自然志向が強いヨーロッパ人の間で人気がある。特にインターネットが発達してからは、人里離れたゴルレリ村まで、北欧の人々が車でやってくるようになった。ネットがなければ、ここにホテルがあることは、なかなかわからないだろう。

農園とホテルの経営は、重労働だ。朝から晩まで休む暇がない。週末には、海を臨むテラスで、地元料理のコースを提供する。農園で作ったワインを5ユーロ(700円・1ユーロ=140円換算)で飲み放題の大盤振る舞い。ゴルレリ村に住むコックさんが腕をふるう。時には、近くの都市インペリアから知人たちがやってきて、誕生日のパーティーなどを催す。このような時には、約40人分のテーブルが満席になる。

マリーニさん自身、ワインや食事を運ぶほか、夫や父親もせっせと給仕を手伝う。仕事が終わるのは、全ての客が帰った後の、深夜だ。

彼女がゆっくりできる唯一のひとときは、昼食の時だ。子どもたちを含めて家族全員がテラスで大きなテーブルを囲む。「ロジャー」、「モカ」と名づけた大きな犬たちも、お相伴する。

1日中PCの前に座ったり、原稿の締め切りに追われたりせずに、地中海の陽光を浴びながら田園で働く人生を選ぶ人々もいるんだなあ。しかし私は都会での生活が必要だ。

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

(文と写真・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

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