先鋭化する亡命申請者問題

ドイツは、日本とは比べられないほど、様々な民族、様々な文化が共存している社会だ。

ドイツは、日本とは比べられないほど、様々な民族、様々な文化が共存している社会だ。

*移民国家ドイツ

朝の通学時間帯のバスには、様々な民族の子どもたちが乗ってくる。トルコ系、アフリカ系、インド系、アジア系・・・・外見に違いはあっても、みんな流暢にドイツ語で話している。この国に移住してきた外国人たちの子どもたちだ。ドイツが移民国家であることは否定できない事実である。この国が将来米国のような「民族のサラダボウル」に近づいていくことは、確実だ。

私の知り合いを見渡しても、スロベニア人とドイツ人の息子、米国系ユダヤ人、アフガニスタン人とスロバキア人の娘、ポーランド人、シンガポール人など実に様々な背景を持つ人々がいる。みんなドイツ語を使って、一生懸命働いている。

日本と同じように高齢化・少子化が急速に進んでいるドイツでは、将来働き手が不足する。このためドイツ連邦政府は、社会保障制度に依存せず、自分の力で生活できる外国人の移民や帰化を奨励している。特にITなどドイツが必要とする技能を持った外国人は、通常よりも簡素化された手続きで、滞在許可や労働許可を取ることができる。

*急増する亡命申請

だがドイツの庶民の間には、「ドイツ社会に溶け込まない外国人が増えると、ドイツがドイツでなくなってしまう」と不安を抱く人々がいる。その不安感は、ドイツ語のÜberfremdung(外国人が増えることなどによって、自分の祖国が、あたかも外国であるかのように、よそよそしいものになること)という言葉に象徴される。

一部の人々の不安や不満をかきたてているのが、ドイツへの亡命申請者の増加だ。ドイツ連邦移住・難民局(BAMF)によると、2014年にドイツに亡命を申請した外国人の数は、約20万3000人。前年に比べて約60%も増えた。

亡命申請者数の増加の原因は、シリアでの内戦が激化していることだ。亡命申請者の内、26%にあたる約3万3000人が、ジュネーブ難民協定に基づき、ドイツへの亡命を認められた。亡命申請の33%は、却下されている。

今年1月には2万5000人がドイツで亡命を申請したが、その内シリア人が約25%で最も多かった。これまでにドイツは、約6万5000人のシリア難民を受け入れている。さらにコソボ、アルバニア、セルビア、アフガニスタンからの難民も多い。中でもコソボでは、「ドイツへ行くと、誰でも住む所と滞在許可をもらえる」という根も葉もない噂が広がっているため、亡命申請者が増えているのだ。

シリアやトルコ、コソボには、出国希望者からお金を取って、ドイツへ輸送する「運び屋」がいる。彼らは、ドイツが豊かな国である上に、亡命申請者の受け入れについて比較的寛容であることを知っている。シリアからの難民は船でイタリアへ着いても、そこで亡命を申請せず、バスでドイツへ行って亡命を申請するのだ。ドイツの地方自治体は、スポーツ競技場や使われなくなった兵舎などに亡命申請者を住まわせているが、食事代や暖房費などの負担が重くなりつつあるため、連邦政府やEUに資金援助を要請している。

*中には「経済難民」も

ドイツは「戦争や政治的迫害から逃れてきた難民は原則として受け入れるが、イタリアなど他のEU諸国に到着した難民は、そこで亡命を申請するべきだ」と主張している。欧州にはダブリン合意という原則があり、難民は危険な地域を脱出して到着した最初の国で亡命を申請する決まりになっている。また、政治的迫害を受けていないのに、生活保護など社会保障サービスだけを求めてドイツにやってきた「経済難民」は、強制送還する。だが、実際には強制送還には人道的な見地から問題点も多いため、亡命を申請する資格がないと判断されても、すぐに強制送還されるわけではない。

BAMFでは、中東やアフリカの政治的混乱が続いていることから、今年の亡命申請者数が30万人に達すると予想している。これまで最も亡命申請者の数が多かったのが鉄のカーテン崩壊直後の1992年で、43万8000人に達した。その大半は、東欧からのシンティ・ロマ(いわゆるジプシー)だった。

当時ドイツでは、極右勢力が亡命申請者の増加を理由に、外国人に暴力をふるう事件が多発した。1992年に極右勢力が引き起こした暴力事件は1990年に比べて8倍も増加し、2285件になった。スキンヘッドなどによる暴力によって、外国人ら17人が、殺された。特に旧東ドイツのロストクでは、極右勢力が亡命申請者の住宅に放火、投石し、周辺の住民が喝采を送る模様がテレビで放映された。

1992年11月には、旧西ドイツのメルンで極右の若者がトルコ人の家族が住む家に放火し、女性と子ども3人が焼死。1993年6月にも旧西ドイツのゾーリンゲンで、極右思想を持つドイツ人が民家に火をつけ、トルコ人の女性と子ども5人を殺害した。

*PEGIDAへの共感は残っている

旧東ドイツでは、亡命申請者の流入規制を求めるポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への人気が高まりつつある。ドレスデンでは、去年秋に「欧州のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(PEGIDA)」という市民団体が結成され、デモの参加者の数は、一時2万人に達した。政府は難民問題の舵取りをうまく行わないと、有権者が右派ポピュリストに流れる危険もある。ドイツ政府は、「亡命資格のある難民は暖かく迎える」ことを基本原則としている。だがPEGIDAに対する潜在的な共感が、一部の庶民の心に残っていることも、否定できない。

今後ドイツ社会で外国人を見る目がどう変わっていくか、我々は注視していく必要がある。

ドイツ・ニュースダイジェスト掲載の記事に加筆の上転載

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

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