ミュンヘン・ふくろうの森

ミュンヘンの魅力は、人口が100万人を超える町でありながら、自然に恵まれていることだ。地元住民でなくてはわからない、ミュンヘンの自然に関するエピソードをお伝えしよう。

ミュンヘンの魅力は、人口が100万人を超える町でありながら、自然に恵まれていることだ。私はここに25年住んでいるが、その豊かな自然には今も感嘆する。

地元住民でなくてはわからない、ミュンヘンの自然に関するエピソードをお伝えしよう。

ミュンヘンの愛鳥家たちは、ニュンフェンブルク宮殿の広大な森で「フクロウ観察ツアー」を実施している。5ユーロを募金すれば、誰でも参加できる。私が参加した日には、年配の女性を中心に約50人が集まった。

みな双眼鏡やデジタルカメラを持っている。ガイドは、「鳥類保護連盟」に所属するという初老の男性。彼によると、ニュンフェンブルク公園の森には、フクロウが住んでいる木が少なくとも10本ある。

ニュンフェンブルク宮殿の広大な森に住むフクロウ「カジミール」(筆者撮影)

参加者は、公園の南、かつてヴィッテルスバッハ家の王族たちが使った浴室付きの邸宅へ向かう。この建物に近い橋のたもとに、枯れかけた木がある。

「いたいた!」木の洞の開口部に、白と明るい灰色の羽毛に覆われたフクロウが鎮座している。ガイド氏は、このフクロウに「カジミール」という名前を付けている。

ガイドと助手は、三脚の上にライカ社製の倍率が大きい望遠鏡を据えつける。すると、ファインダーいっぱいに、フクロウの顔のアップが映った。羽毛の細かな模様から、つぶらな瞳をまばたいたり、顔を横に向けたりする様子まで見える。

小さな嘴(くちばし)もはっきり映っている。参加者は列を作って、望遠鏡をかわるがわる覗き込む。やがて、カジミールは「今日は人間がいつもよりもうるさいな」と思ったのか、木の洞を下の方へ降りて、姿を隠してしまった。(まるでエレベーターで下降していくかのように見えた)

ニュンフェンブルク宮殿の森は、都会のオアシスだ。(筆者撮影)

ガイドの男性は、この木から50メートルほど離れた所にある枯れ木のてっぺんに、カジミールの「妻」がとまっているのを見つけた。こちらは、羽毛がやや茶色がかっている。

私もカジミールは毎週のように見かけるが、彼の「配偶者」を見たのは初めてだ。ガイドの愛鳥家は、毎日のように公園内で観察をしているのだろう。この日は「不在」だったが、他のフクロウが住む木の洞も教えてくれた。

彼は、これまでに超望遠レンズで撮影したフクロウの写真も持っていた。中には、6羽のフクロウの子どもが仲良く木にとまっている写真もあった。カジミール夫妻が、仲良く木の洞から顔を出している写真も。

自然を見世物にしているようにも思えるが、フクロウが住む木の洞は、やはり「観察のプロ」に教えてもらわないとわからない。そう考えれば、5ユーロの授業料を払う意味もあるかもしれない。

(文・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de