灼熱の太陽が、超高層ビルのガラスに反射する。3本のビルのてっぺんに船を載せたような奇抜なデザインのホテルが、水面に姿を映している。人口わずか530万人の都市国家シンガポールは、アジアの金融センターとして、欧米、アジアから多くの企業を磁石のように惹きつけている。正にアジアの昇竜である。

灼熱の太陽が、超高層ビルのガラスに反射する。3本のビルのてっぺんに船を載せたような奇抜なデザインのホテルが、水面に姿を映している。まるで空港のターミナルのように巨大なショッピングセンターには、西欧のトップブランドのブティックがずらりと並ぶ。人口わずか530万人の都市国家シンガポールは、アジアの金融センターとして、欧米、アジアから多くの企業を磁石のように惹きつけている。

正にアジアの昇竜である。

魅力の1つは、低い税率だ。法人税率はわずか17%、個人の所得税も最高20%にすぎない。株式売却などによって生じるキャピタルゲインには、税金がかからない。

国際通貨基金(IMF)によると、2013年のシンガポールの国民一人あたりの国内総生産(GDP)は、6万4584ドルで、世界第3位だ。これは日本を75%も上回っている。2010年のGDP成長率は15.2%、2011年は6.1%と高かった。

空港や地下鉄、バスの車内などは東京よりも清潔で、整然としている。地下鉄やバスに乗ると、様々な民族がこの町に住んでいることに気がつく。シンガポールの人口の約77%は中国系、14%がマレー系、8%がインド系である。人口の約23%が外国籍である。中国語、英語、マレー語、タミル語の4ヶ国語が公用語して使われる、多民族国家だ。

日本よりもグローバル化が進んでいる。

興味深いのは、民族や宗教に関わるヘイトスピーチやジョークが厳しく罰せられること。今年オーストラリア人の銀行マンが「XX人たちと地下鉄に乗るよりもフェラーリで通勤した方が快適だ」とブログに書き込んだところ、ネット上で非難が殺到し、新聞に名前や顔写真だけでなく勤め先の名前まで公開された。彼は銀行から解雇され、事実上の国外退去措置となった。その意味でヘイトスピーチには日本より厳しく対応しているのだ。

シンガポールでは1965年の独立以来、人民行動党(PAP)による事実上の一党支配が続いており、政権交代は一度もなかった。メディアやブログで首相や閣僚を批判すると、政府から名誉毀損で民事訴訟を起こされる危険がある。その意味で、欧米流の言論の自由はない。ブランド商品と美味しい食事、快適な生活を与える代わりに、市民の政治への介入を許さないのは、中国や香港にも共通するアジア的資本主義の特徴だ。

熊谷 徹(ミュンヘン在住) イラストも筆者。

筆者ホームページ:http://www.tkumagai.de

(保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載)

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