これからの時代の行政の予算の組み方とは?

行政はまちづくりの大半を担っています。でも、その項目を一つ一つ洗い出してみると、それは必ずしも行政が担う必要はないのではないか、と思えるものがたくさん見つかります。

先日、港区議会では予算特別委員会が開かれ、新年度の予算が決まりました。

インフラの整備、社会福祉、環境問題から放置自転車やポイ捨てごみをなくそうといった身近な課題に至るまで、行政はまちづくりの大半を担っています。でも、その項目を一つ一つ洗い出してみると、それは必ずしも行政が担う必要はないのではないか、と思えるものがたくさん見つかります。

たとえば、まちの清掃。それは、行政が委託した事業者が年間数億円かけて行う仕事ではないかもしれません。もしかしたら、行政はポイ捨てごみをなくすための啓発団体が生まれる土壌を整備するだけで、あるいはまちで暮らす人たちが、ごみのポイ捨てをしない空気をつくり出せば済むかもしれません。高齢者の見守り事業ひとつとっても、民生委員や民間の介護事業者、宅配業者、学生ボランティア、NPOなど多くの人の力を借りれば、より効果的に実施できるでしょう。

これまで、行政は社会福祉の基本的なサービスに加え、その時代、時代の要請を受けて様々な施策を実施してきました。多くの自治体では、積み上げ式で予算が組まれ、サービスの領域がどんどん拡大していきました。最近では、スクラップ・アンド・ビルドの原則を持つ自治体が増えてきてはいますが、現在のように行政にほとんどを「お任せ」状態、すなわち「サービスで時間を買う」状況は、住民側からしてみると、知らず知らずのうちに、自分たちがまちで活躍できるチャンスが奪われているともいえるのではないでしょうか。

僕が代表を務め、国内外の70近くの拠点でごみ拾いやまちづくりのサポートをしているNPOグリーンバードの活動は、(自画自賛で恐縮ですが...)とても楽しいです。でも、たまに行政に雇われた人に「この領域はやらなくていいですよ」と言われると、少し寂しい。僕たちがボランティアで清掃活動をすれば、その分税金は減るし、僕たち自身は「やりがい」を手にすることができる。こうしたことはごみ拾いにとどまらず、数多くあると思うのです。

「みなとフューチャーセンター」――自分たちの力でまちの課題を解消するための場

そんな思いを持って僕が実践しているものの一つが、住民同士によるセッションを通じて、身近なまちの課題を解消する「みなとフューチャーセンター」という取り組みです。

全国各地の自治体や企業で、その手法が導入されている「フューチャーセンター」は、さまざまな人が集まり、アイディアを出しあって未来のあるべき姿を描いていく場。出てきたアイディアをもとにプロジェクトをつくり、みんなでまちの問題を解決していくのが目標です。

課題解決をすべて行政任せにしてしまっては、時間も予算も足りません。そこで、「自分たちでできることは自分たちの力で解決してしまおう」とつくったのが、この企画です。長尾彰さん、玉川幸枝さんという素敵なファシリテーターのもとで、月1〜2回のペースで運営されているこのプロジェクトは、「1人のスペシャリスト」よりも「10,000人の考える素人」の力で、まちをよくしていこうという試みなのです。

現在行われている話し合いの場からは、住民や広告会社勤務の方、建築士、弁護士、学生などが協力して、「子育て世代が楽しめるイベント」づくりや「自転車シェアリング」「港区を楽しむ自転車観光ルートづくり」など様々なプロジェクトが提案され、動き始めています。参加のための条件はなく、「地域を愛する気持ち」が唯一の持ち物です。サラリーマンはもちろん、学生、役人、お坊さんに至るまで、さまざまな職種の方と話をしながら、まちの課題を解決する場になっています。

みんなの強みを活かして、まちの課題を解消する

この企画のポイントは、プロジェクトを実施するまでに一切のお金がかからないことです。まちの人が、まちのためにできることをみんなで考え、自分たちで解決してしまえば、たとえそこに行政が関与していなくても、多くの課題を解消できます。そこで僕がやることは、一緒にやりたい人に呼びかけて仲間を集めること、そして企業や行政などにお願いして場所を借りることだけです。

たとえば、自転車が放置されるのは「みんなが置きたいと思ったときに、近くに駐輪場がないからだ」という仮説を立てたとします。この問題を解決する方法は二つ。まちの人や企業が、自分の敷地内にちょっとした駐輪スペースを設けてあげる。あるいは、Googleなどの企業がマップを提供し、近くの駐輪場の位置をナビしてあげるだけでも、ずいぶん役立つと思います。

防災対策にしても、同じロジックで行うことができます。首都圏直下地震がいつ起こるか分からない状況のなか、行政がやることには多くの時間がかかるのだとしたら、民間でお互いに助け合えるコミュニティづくりをしたほうが有効かもしれません。有志が集まって、防災の情報を集めたり、より実践的な防災訓練を企画したり、コミュニティづくりのアイディアを出すためのワークショップをしたりすることは、別にお金のかかることではないのです。

前述したように、これまで行政はほとんど自前で様々なサービスを提供してきました。しかし、少子高齢化の時代にあって、また「やりがい」が人生の豊かさの一つとなっている時代にあっては、必要最低限のサービスは維持した上で、住民や企業、NPOなどが活躍できる「場」や仕組みを提供すること、そしてそこに大きく予算をつけていくのがいいかもしれません。では、「必要最低限」とは何か。それは次の議論としましょう。

先日僕が発表した、「港区を良くする20の新アイディア」もぜひご覧下さい!

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