「情熱と冷静の間で何度も行き来しながら、自分に嘘のない伝え方をイベントなどの場で表現しています」

お茶、梅干し、お米。どれも日本の食卓に欠かせない食べ物です。この3つの分野で新境地を開拓しているブランドとご縁があり、私たちファクトリエが毎年開催している『工場サミット』にそれぞれの代表者をお招きしました。

今年開催した『工場サミット2018』のプログラムの1つ、「異業種のチャレンジャー」というセッションに登壇していただきました。
今年開催した『工場サミット2018』のプログラムの1つ、「異業種のチャレンジャー」というセッションに登壇していただきました。

(写真右から)

◆オリジナルの自然栽培茶を作っている【つきまさ】の土屋葉さん

◆梅干しを起点に様々な企画を生み出している【バンブーカット】の竹内順平さん

◆おにぎりを通してお米の魅力を広めている【ごはんとおとも】の橋本英治さん

アパレルと食は業種こそ違うものの、私たちがアパレル工場の "伝え手"として活動しているように、3人も"伝え手"として食の価値を伝えています。3人の話には、同じ"伝え手"として参考になるヒントがたくさん詰まっていました。

■伝えたいことを、伝えない

無肥料・無農薬の自然栽培で茶葉を育てている【つきまさ】。昭和53年に日本茶喫茶店を下北沢で開業し、静岡県の島田市に工場を構えています。無肥料・無農薬ということは太陽と土壌だけで作ることであり、もちろん大量生産はできません。しかも【つきまさ】では、既存の機械では従来と同じレベルの茶葉しか栽培できないと考え、自分たちの理想を実現できる旧式の機械を工場に置いています。

栽培している職人もこだわりを持っていますが、その内容をあまり話したがらないそう。自分の感覚に信頼を置いているため、味や旨みなどをチャートで表すことにもあまり肯定的ではないと言います。しかし、マーケットとの橋渡しとなる"伝え手"としては、こだわりを把握しておきたいところ。土屋さんは、話したがらない職人の気持ちに寄り添いながら、内側の声を少しずつ引き出しています。

手間暇をかけた工程、たくさんのうんちく、そして職人の細かいこだわり。販売する際にはお客さんに伝えたくなる話題が山盛りですが、土屋さんは「まずはお茶に語ってもらうこと」を常に心がけています。

「本当は話すことが好きなのですが、逸る気持ちを抑えて、丁寧な作法でお茶を出しています。最初はまっさらな状態で私たちのお茶を味わってほしいんですよ。情報を伝えるのは、味を楽しんでもらってからです」

お客様からの、お声がけ待ち

【バンブーカット】は、伝えることをプロデュースする企画会社。『にっぽんの梅干し展』を国内外で企画したり、『立ち喰い梅干し屋』や『お茶メでポップなUMECha Shop!』などの店舗を立ち上げたりと、独自の企画力で梅干しの魅力を発信しています。

1粒1粒に個性際立つ梅干しには語りたくなる要素が詰まっていますが、店頭のお品書きには説明が書かれていません。なぜなら、お品書きやポスターなどに説明が書いてあるとお客さんはそれで情報を理解し、スタッフとの間に対話が生まれないから。竹内さんも店頭に立つときはお客さんとの対話を大切にしていると言います。

「最初は我慢ですよ。自分から声をかけるとあざといので、お声がけをじっと待っています。早く話しかけてっていうオーラを出しながら」

お客さんとコミュニケーションを取りたい理由の1つに、作り手に感想をフィードバックしたいという意図があります。農家の人たちはお客さんとの接点がないため、感想を知る機会はほとんどなく、成功体験も得られていません。竹内さんは伝え手として、「こんな意見がありましたよ」というリアルな声を作り手に届けています。

もちろん、作り手のこだわりやエピソードも、独自に編集・翻訳してお客さんに伝えています。エピソードを挙げると、提携先の農家の1つに、自分では梅干しを食べられないおばあちゃんがいるそう。にもかかわらず、最高の梅干しを作るそうです。こういった小話で盛り上がれるのも、対話ならではのメリットです。

輪を広げるなら、フックが必要

「出張おにぎりスタンド」を通して、おにぎりやお米の魅力を届けている【ごはんとおとも】。寝言でもお米のことを呟いてしまうくらい、橋本さんは好きを通り越してお米を愛していると言えます。

橋本さんがお米の魅力を広めたいと思ったのは、東京で暮らす中で、同世代の友人たちが美味しいお米を食べられていないと感じたことがきっかけです。なぜお米の魅力が広まらないのかを考えたところ、同業者の中だけでコミュニケーションが完結していることに気づきました。

農家の人たちはSNSでこだわりを伝えているものの、いいねを押すのは同業者だけ。発信している情報も、お米の製法などのマニアックなトピックがほとんどでした。

大衆の心を掴むためにはフックが必要だと感じた橋本さんは、企画の切り口を色々と模索します。例えフックがあったとしても、それは自分が本当にやりたいことなのか、アイデアが浮かんだ達成感で満足していないか。情熱と冷静の間で何度も行き来しながら、自分に嘘のない伝え方をイベントなどの場で表現しています。

「とは言え、全ての企画が成功するとは限りません。以前、レトルトカレーでお米を食べ比べするイベントを開催したときは、お客さんが2人だけでした(笑)。失敗しても挫けないのは、それだけお米への想いが強いんだと思います」

3人の話を聞いていて感じたのが、各ブランドの伝え方は、各ブランドのアイデンティティと密接につながっているということ。ブランドの中に伝え方が位置づけられるのではなく、伝え方こそがブランドを構築しているのかもしれないとさえも思えるセッションでした。

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