落ちこぼれが挑む、「服」革命

叶えたい未来に向かって足を動かし続けていれば、光は少しずつ見えてきます。
(2016年の熊本地震時には県内の小学校を訪問)
factelier
(2016年の熊本地震時には県内の小学校を訪問)

子どもの頃からやっぱり不器用だったんだな。

自著の出版にあたって過去を回想しているとき、失敗したエピソードばかりが次々と脳裏をよぎりました。それと同時に、失敗を積み重ねてきたからこそ今があるのだと、過去を少し誇らしくも思いました。

3年前に共著を出版したことはありますが、単独での著書は初めてです。出版社は日経BPで、タイトルは『ものがたりのあるものづくり』。幼少期や学生時代の出来事、起業した理由、そして今抱いているリアルな思いを赤裸々に綴っています。

出版のきっかけは、私のこれまでのチャレンジを編集者の方に話した際、その方が「落ちこぼれでも夢に向かってチャレンジできることを多くの人たちに伝えたい」と感じられたことです(笑)。落ちこぼれという言葉は決して誇張ではなく、小学生のときには塾に入るのを断られるほど頭が悪く、陸上部時代の競技会では他の選手から2周遅れでゴール、社会人1年目でも同期から遅れを取ったりと、エピソードを挙げていけば切りがありません。

そんな私がファッションブランドを立ち上げ、こうしてチャレンジできているのは、努力はいつか実を結ぶという希望を常に持ち続けてきたからです。

■六畳一間に差し込んだ光

(ファクトリエ創業当時の自宅。部屋が倉庫と化していました)
(ファクトリエ創業当時の自宅。部屋が倉庫と化していました)

あれは確か小学校高学年の頃だった思います。一緒に使っていた勉強部屋の兄の机に置かれていた本をたまたまめくっていたとき、ある言葉を見つけました。「上手、昔より上手ならず。下手、いつまでも下手ならず」。武者小路実篤の『愛と死』に記されているこの一節は、何をやっても上手くできなくて絶望していた私の救いになりました。

速度は速くなくても、一歩、二歩、三歩と、足を前に進めていれば、いつかは目標にたどり着くことができる。これは私の行動原理であり、ファクトリエが今に至るまでの道のりも小さな一歩の積み重ねでした。

ファクトリエを立ち上げた当初、六畳一間の自宅を倉庫として使っていたため、大量の段ボールが窓を塞いでいました。商品が売れるに連れて少しずつ段ボールは減り、ある日窓から差し込んだ一筋の光に目を細めたことを今も覚えています。その光は徐々に太くなり、やがて部屋の中を明るく照らし出してくれました。

特別な才能や潤沢な資産がなくても、叶えたい未来に向かって足を動かし続けていれば、光は少しずつ見えてきます。それは壮大な夢であっても同じです。私の夢は、「作り手の想いで買う」という購買軸を確立させること。これまで洋服は、デザインやトレンドなどの「ファッション性」もしくは、価格という「経済性」の2軸で買われていましたが、そこに新しい軸を加えたいのです。

スリにあったことがきっかけで、グッチ・パリ店で働く

(20歳の頃、地下のストック整理から店頭へ)
(20歳の頃、地下のストック整理から店頭へ)

大学在学中にフランスへ留学したのですが、空港から市街地に向かう地下鉄の中でスリに遭い、いきなり一文なしに。大学で出会ったフランス人の友人に泣きついて、「日本語ができます。どんな仕事もするので雇ってください」とフランス語の手紙と履歴書(フランスではCVと言います)をつくるのを手伝ってもらいました。30件ほど送って、面接承諾の返事が戻ってきたのは1 社だけ。それが、イタリアの高級ブランド「グッチ」だったのです。ファッションの中心地であるパリ・サントノレ通りのグッチの旗艦店で働けたことはとても貴重な経験で、今につながる重要な転機にもなりました。

グッチでは、そこに並ぶ商品の一点一点が、「自分たちの工房から生まれた自信作である」ということに誇りを持っていました。どこで誰がつくったのか分からない服ではなく、自分たちが一から責任を持って携わるものづくりによって生まれた服だけを並べる。それはルイ・ヴィトンやエルメスも同じであり、ヨーロッパを代表するメゾンブランドは工房から生まれています。そのため、自慢の工房での研修も頻繁に企画されていました。20歳の私は、服の売り手がものづくりを伝える文化を目の当たりにしたのです。

「ものづくり」にある「ものがたり」

(創業100年、老舗洋品店の息子として育つ)
(創業100年、老舗洋品店の息子として育つ)

私の実家は熊本で100年以上続く洋品店を営んでおり、日本製の高品質なものづくりは幼き頃からすぐそばにありました。ファクトリエの立ち上げから今に至るまでに600以上の工場をまわってきましたが、作り手の技術にはいつも驚かされてばかりです。そして何よりも私の胸を打つのは、技術が生まれた背景や技術を磨き続ける職人さんにある「ものがたり」。「ものづくり」には、面白い映画を観た後のように、思わず誰かに伝えたくなる「ものがたり」が詰まっているのです。

しかし、自国のものづくりにプライドを持ち、買い手からもリスペクトされる海外と比べ、日本では「誰がどんな想いで作った服なのか」にあまり目を向けられていません。海外の一流ブランドがこぞって評価する技術を持っているのにもかかわらず、異様な低価格競争に巻き込まれて多くの工場が憂き目を見ています。

(私にとって工場訪問は趣味のようなもの。今も工場には頻繁に足を運んでいます)
(私にとって工場訪問は趣味のようなもの。今も工場には頻繁に足を運んでいます)

クラフトマンシップが尊敬される文化を生み出し、「作り手の想いで買う」という購買軸を確立させる。この夢を実現させるためには一筋縄ではいかないこともたくさんあると思います。これまでの道のりもそうでした。しかし、愚直に足を踏み出し続けた結果、六畳一間の自宅に一筋ずつ差し込んでいった光のように、大きな束が徐々に形成されつつあります。

本書は成功譚ではありません。今はまさにチャレンジの真っ最中であり、今しか書けないリアルな葛藤も生々しく綴っています。本書を通じて私が伝えたいのは、「世界を変えるための行動は誰でも起こせる」というメッセージです。これだけの落ちこぼれでも出来るなら、自分もやってみようか。誰かにそう思ってもらえるだけで、本書を上梓した意義はあると思っています。

(発売日は11月8日です。書店で見かけた際はぜひ手に取ってみてください)
(発売日は11月8日です。書店で見かけた際はぜひ手に取ってみてください)

HPのブログでも裏話を綴っています。

http://factelier.com/contents/detail.php?product_id=13101

■出版記念トークイベントについて

大変ありがたいことに、各地の書店にてイベントを開催していただけることとなりました。ご都合が合いましたら、ぜひお気軽にお越しください。

《東京》

11月19日(月)19:00-中目黒蔦屋書店(お申し込みは電話受付:03-6303-0940

12月17日(月)19:00-代官山蔦屋書店(お申し込みは電話受付:03-3770-2525

《関西》

大阪

12月14日(金)19:00-梅田蔦屋書店(お申し込みは電話受付:06-4799-1800)

京都

12月15日(土)13:00-京都岡崎蔦屋書店(お申し込みは電話受付:075-754-0008)

《九州》

福岡

11月9日(金)19:00- 六本松蔦屋書店(お申し込みは電話受付:092-731-7760)

熊本

11月10日(土)16:00- 長崎書店(お申し込みは電話受付:096-353-0555

12月22日(土)17:00-三年坂蔦屋書店(お申し込みは電話受付:096-212-9111)