1か月でワイシャツ100枚販売した地方の紳士服テーラー

街の小さなテーラーでも価値の高い製品を作る術は持っているのです。「そんなテーラーがなくなってしまって良いのか」、単純にそう考えています。
山田敏夫

平成25年3月に中小企業庁が発表した「平成24年度 商店街実態調査報告書」によると、最近3年間に商店街から退店(廃業)した店舗数は、「3店(8.0%)」、「2店(7.6%)」、「1店(6.1%)」の順となっており、1店から3店までで全体の21.7%を占めています。

(平成24年度 商店街実態調査報告書 より)

紳士服を販売する「テーラー」も商店街でよく目にすると思いますが、大型店が出店するなどして、客足が遠のき、どんどん衰退しています。

テーラーの商店数は近年減少してきており、当時の通商産業省の統計によると、1994年には1万店を割り込み、1997年には7,747店。(1997年以降、同調査は行なわれていないようです。)多くのテーラーが開業した1965年前後においてはビジネススーツのほとんどが注文服でしたが、現在では、既製服が市場のほとんどを占有。こうした市場の変化や、経営者(手縫い職人)が高齢化し廃業が相次いでいることが、注文服店の減少の背景にあります。あるテーラーさんの話によると、現在は1,000店ほどではないかと言われています。

テーラーの高齢化も進んでいるため、このままでは地元のテーラーは消えてしまう可能性が高いのが実情です。

しかしながら、テーラーはお客様の要望に応じて服地を選び、デザインを決定し採寸し、オーダーメイドで紳士服をつくるわけですが、紳士服の仕立ては婦人服や子供服よりも難しいとされ、パターンを作り、生地を裁断し、仮縫い、縫製するための高い技術が要求されます。そのため経験も知識も技術も必要。つまり、街の小さなテーラーでも価値の高い製品を作る術は持っているのです。

「そんなテーラーがなくなってしまって良いのか」、単純にそう考えています。

もちろん、テーラーを含め地方の商店街や商店を盛り上げるために、中小企業庁を中心にさまざまなことが実施されています。詳細はこちら( http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/ )をご覧いただければと思いますが、実はファクトリエとしてできることとして実験的に行っていることがあります。

■個人商店(テーラー)に商品を展開

ファクトリエの主力商品であるワイシャツ。百貨店などへの一か月程のポップアップストアを除くと、基本的にはネット通販のみで商品を提供しています。

このワイシャツは熊本県人吉市のワイシャツ工場で作られているという点を踏まえて、ファクトリエのワイシャツを工場のある地元の「シャリバリメンズ」という人吉市のテーラーで販売してみました。

この「シャリバリメンズ」は、写真でご覧いただいてもわかるように、皆さんが個人商店ときいてイメージするようなお店です。

この店の周りには、特に目立ったお店や集客力のある大型店もないため、一見すると経営もきつそうに見えます。

■1か月で100枚!大手セレクトショップ1店舗と同等の売上を記録

ただ、これは私も驚きましたが、先月(2014年6月)この店舗で販売されたワイシャツは実に100枚。人吉市の人口は3万人。他県からも購入に来ているお客様もいらっしゃいますが、人口で見た場合は300人に一人が購入している計算になります。ちなみに月100枚というこの数字は、アパレル大手セレクトショップ1店舗あたりで販売されるシャツ枚数と同じレベルです。

これほど売れる理由としては、

・地元人吉の工場で作られたワイシャツだから。

・ワイシャツ自体の評価が高く地元メディアが取り上げてくれた

・ネット上で発信し、集客につながっている

などいろいろ考えられますが、大事なことは売れた理由よりも、個人のテーラーでもお客様に来店していただくことができれば、経験と知識でネクタイやその他の商品を提案することができ、売上をさらに上げることもできるし、リピートにもつなげられる。さらにテーラーへの来店がきっかけで、近隣商店や飲食店に送客でき活性化につなげられるかもしれないということ。実際に近所の「うえむら」という地元の人が好きな鰻屋さんには、こちらでシャツを買ったお客様が多数来店されるとのこと。

ビジネス視点で見た場合、「地元で名の知れた百貨店などに出店するほうが定石」とおそらく言われそうですが、消えてしまおうとしているテーラーや商店の活性化につながるのであれば、仕組みとして取り入れて展開していくべきではないかと考えています。(もちろんブランディングは忘れず)

残るべき、残すべき工場を支えたいというファクトリエの理念と同じように、テーラーや商店にも目が向けられるように事業を展開していきたいと思います。

(ファクトリエを通して、NHKに取材されるシャリバリメンズ)

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