若者失業率が通貨危機レベルの韓国で『働くドラマ』が流行る理由  イェソン(SUPER JUNIOR)出演の「労働問題ドラマ」が上陸!

今年韓国の若者の失業率が過去最高となる。韓国の6月の若者の失業率が10.3%となり、同月基準では1997年のアジア通貨危機直後に次ぐ高い数値を記録したのだ。

ショッキングな大手広告代理店の24歳女性の過労死、正規非正規の格差、ブラック企業、長時間労働、マタハラなど、日本の若手が働く環境は、人手不足といわれているのに、厳しい。

お隣韓国の若者の働く環境もさらに厳しいようだ。先日7年ぶりにソウルに行き、韓国の20代女性たちの声を聞いてきた。集まってくれた4人はみな、大卒でさらに留学している。日本への留学経験者もいて、日本語はみんな流暢。英語ももちろんできる。3カ国語を話し、留学経験もある女性たちなのに、外食産業、コンテンツ業界など、働く環境はひどく過酷だ。

  • 「結婚したくない。結婚して働くのは難しいんです。でも働かないと生活できない」
  • 「妊娠した人は働けない会社。産休育休はあるけれど、使えるのは大企業だけ。小さな会社ではできないんです。でも『マタハラ』と言う言葉は聞いた事がない」
  • 「良い大学を出てもいい会社に入るのが難しい」
  • 「仕事はメディア関連。昨日は朝の5時まで仕事でした。最近ずっと徹夜で寝てない。結婚できるか心配。出会う機会がないし、お互い忙しくて恋愛するヒマがない。仕事をしている時間がいちばん長い」
  • 「男性も結婚したくないんです。仕事で精一杯。仕事も大変なのに恋愛までは無理」
  • 「30代の兄は新人が来ない職場で5年目でも下っ端。毎晩12時過ぎの帰宅で、まったくすれ違い」
  • 「営業は飲み会も多いし、結婚して夫も一緒に子育てをできる感じはまったくしない」
  • 「今の世代はそうでもないが、私たちの親世代は男が家を用意するのが当たり前。私は二人で家賃を払ってもいいけど。30代には結婚したい。でもその前に転職が先かな」

彼女たちのおしゃべりを聞いていると、日本の働く女性座談会と似ている。

しかしひとつだけ違うのは「大学時代につきあっても、彼が徴兵にいくと、だいたい別れる」という点だ。

近くて遠いお隣の国、韓国の若者の恋愛や結婚、仕事の状況は、常に同じく少子化の道を進む日本としては気になるところだ。韓国の若者たちも、結婚や子育てに踏み切れないさまざまな事情がある。

そして、厳しい環境の背景には、韓国の若者の状況がある。今年韓国の若者の失業率が過去最高となった。韓国の6月の若者の失業率10.3%となり、同月基準では1997年のアジア通貨危機直後に次ぐ高い数値を記録したのだ。

「若者層の失業率は2カ月ぶりに2桁台になり10.3%、6月基準では、アジア通貨危機の影響が色濃かった99年6月の11.3%に次ぐ高さとなった。若者の失業者数は前年同月から1万8000人増加、失業率は0.1ポイント上昇した。全体の失業率は前年同月から0.3ポイント下落し3.6%。20代の失業者が増えたのに対し30~50代では減少、全体で4万6000人の減少となった。

「韓国ネットでは「会社で働いていても毎日が不安」 などの声が上がっている。」

(韓国 若者の失業率がアジア通貨危機時に次ぐ最高値を記録

2016年7月14日 14時40分 ライブドアニュースより)

そんな世相を反映してか、韓国では「働く」ドラマが熱い注目を集めています。

つい先日終ったフジテレビの日曜9時枠ドラマ『HOPE(ホープ)~期待ゼロの新入社員~』(主演:Hey! Say! JUMP中島裕翔)は、韓国ドラマ『ミセン-未生』のリメイク作品。『ミセン』は、学歴差別の激しい韓国社会で、がんばる高卒の主人公を描いたドラマ。しかしどんなにがんばっても正社員になれない。そんな葛藤と成長を描き、ケーブルテレビとしては異例の大ヒットを記録。

イケメン主演のドラマといえば恋愛コンテンツの本場なのに、一切恋愛要素はなく、原作のコミックは「サラリーマンのバイブル」と呼ばれるほどだ。

そんな韓国からまた一本、社会派の「働く」ドラマが日本に上陸した。チェ・ギュソク作の人気WEBマンガをドラマ化した「錐(キリ)」。(10月16日より アジアドラマチックTV★So‐netで公開)

「錐(キリ)」主演:チ・ヒョヌ

2003年に実際に起きた大手外資系スーパーの労働争議を、チェ・ギュソクが描いた人気WEBマンガを忠実にドラマ化した。

人気K−POPグループSUPER JUNIORのイェソンが、連ドラに初出演ということでも注目を集めている。

イェソン(SUPER JUNIOR)

ソウルで出演者の一人、イェソン氏にインタビューする機会があった。SUPER JUNIORはすでに12年活動しているK−POPグループ。韓流スターとしてステージで輝いている彼が、しがないスーパーの若手主任として、パートのおばちゃんたちと働く若者を演じている。

ドラマは平和に暮らしていた大手外資系スーパーの従業員たちが、突然の解雇騒動に巻込まれるところから始まる。気の弱い主人公イ・スイン(チ・ヒョヌ)が、マネージャとして首を切る立場を捨て、仲間たちと会社の理不尽な扱いに抵抗するという硬派な社会派ドラマ。労働運動や作品に対する共感はあるのだろうかと、イェソン氏に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「個人的に共感できるんです。父親も会社が倒産して一銭ももらえず退職したことがある。貧しくて、お小遣いももらえなかった子どものころの経験があるので、今回の役柄に感情移入できました。貧しい環境と自分の生い立ちへのやるせない気持ちを重ねて表現した」

アジアのセレブである人気スターにこのような背景があったとは。

彼は1984年生まれで30代の入り口。アジアの通貨危機のときは12、3歳。家族の経済的な危機が進路選択に影響をおよぼす年齢だ。

彼がまだ当時は今ほど有名ではなかったSMエンターティメント(韓国最大手の芸能事務所)に入ったことも、そんな時代という背景があったのかもしれない。2001年に開催された「SM青少年ベスト選抜大会」での歌唱部門で1 位を獲得しオーディションに合格したことがデビューのきっかけ」とネットにあるので、当時は17歳。

韓国駐在の日本人記者によると、韓国では「30歳ぐらいの若者で、アジアの通貨危機で家族が崩壊して以来、苦労しているという人はたくさんいる」という。

その経験を内包する韓国の人たちだからこそ、この「錐(キリ)」という硬派なドラマが、タイトルの錐(キリ)のように韓国社会の肺腑をえぐるドラマとして、

1話あたり1万件の書き込みを超え、トータルで150万件を超える書きこみがされるほどの社会現象となったのだろう。

主演のチ・ヒョヌ氏も「フィードバックの中で、ドラマはいいけれど、仕事の延長のようでみていて辛いという感想があった」と言うほど、大手企業のマネージャである主人公へのパワハラの描写は、半沢直樹ばりにリアルだ。

原作の漫画家チェ・ギソク氏は「2003年から労働問題への関心があった。その理由は自殺する組合幹部が多かったからだ。追跡していったら、重要な問題がある事に気がついたんだ。10年かけて取材してマンガに描いた。わたしの父親は日雇いの肉体労働者だった。給料の不払いで孤軍奮闘している姿も見た事がある」と作品を語る。

原作者のチェ・ギュソク

しかし漫画家として生計がたてられるのかという不安もあったという。なぜなら韓国は2000年代に紙の漫画出版が崩壊していたからだ。

しかしウェブトーンという縦型マンガプラットフォームができて、そこでさまざまな作品が展開され、「錐」はラブコメの多いウェブトーンの中でも、絶大な支持を受ける人気コンテンツとなる。ウェブで人気となり、その後コミックとしても出版され、ドラマ化されたのだ。

「今韓国だけでなく、全世界的に働く人の当然の権利が奪われつつある。奪われないためには、組合などの制度が整うことや、個人の意識が高くなることも必要です」

韓国の女性たちと、このドラマの取材を通じて、「雇用」「両立できない環境」「大手と中小企業の待遇の格差」「正規と非正規の格差」など、さまざまな問題が日本の若者の状況に似ていることを改めて感じた。仕事が不安定、両立に不安がある、結婚できない、子どもを持てないという20代30代の状況は、少子化の国の風景でもある。

韓国の女性たちは口々に「大手なら女性が子どもを産んでも制度が充実しているけど、中小はだめ。嫌がらせされたり、やめさせられたりする」「大手に就職できないと辛い」と言う。

「通貨危機の後、女性も働かないと生活できない。でも、家事もしっかりやって、仕事もしっかりやってと、両方はやりこなすのは無理」という彼女たちの悲鳴はそのまま日本の「両立への不安を抱える女性」たちと重なる。

日本のほうが制度としては恵まれているが、女性の働く意欲という意味では、「女性も働かないと生活できない」という女性たちの覚悟が、1997年通貨危機以来韓国にはあると思う。私が知る韓国女性たちも「通貨危機であれほどいばっていた男性たちが、あっさりと失業していく姿をみて、女性も仕事を持たなければと思いました」と言っている。

一方日本は、やっと出産後も働き続ける女性が過半数の52%になった。今の日本は人手不足ではあるが、状況が変われば雇用調整も起きる。

新卒一括採用の制度も徐々に変わっていくかもしれない。韓国の20代30代の姿は日本の若者の明日でもあるのかもしれない。

変化の早い韓国と、ゆっくりと変わる人口規模の大きな日本という違いはあれ、日本の『働く』も今大きな転換期にさしかかっていることは確かだ。

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