3月17日に開催された第9回働き方改革実現会議のご報告です。
労働時間の上限に対する政労使案、そして3月末にとりまとめる「実行計画の骨子」が会議に提出されました。
この政労使案は「連合」と「経団連」が合意したものがベースになっています。
懸案の時間外労働の上限720時間(月平均60時間)の中身をどうするか? 繁忙期は何時間まで・・・というところが焦点でした。結論として労使が受け入れた「100時間未満」が政労使案になっておりました。
下記をご覧ください。
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<原則>
○ 週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とし、違反には次に掲げる特例を除いて罰則を課す。
<特例>
○ 特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とする。
○ かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限を設ける。
○ この上限については、
1)2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないとする。
2)単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。
3)加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。
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マスコミでは「100時間未満」というところだけが注目されてしまいますし、また「結局100時間残業させてOKなんですね」という謝った解釈をする雇用者はもちろん「経営者」までいます。
今回のポイントはこれが強制力のない「大臣告示」ではなく、罰則付き上限として法律に書き込まれることです。
「週40時間を超えて労働可能となる時間外労働時間の限度を、原則として、月45時間、かつ、年360時間とし、違反には次に掲げる特例を除いて罰則を課す。」とあります。
これは経営者にとってはたいへん重いことです。年間720時間を超えたら罰則です。罰則とは具体的には何か? それは実際に違反をした電通の例を見れば明かです。上司、社長も書類送検され、また社会課題としての問題が大きく、最終的には社長の辞任となりました。
ぜひ、「100時間なんだ」というところではなく、「罰則付き上限」であり、あくまで時間外労働は基本「45時間年360時間」であることを注目してほしいと思います。ここで「100時間なんだ。何も変わらないね」と社会が受け止めるのか?それとも「もう労働時間に関してルーズなことは許されない。罰則があるから」と受け止めるかで、まったく先が違ってきます。
ぜひマスコミでは「労使が何時間で繁忙期上限を結んだか?」などを、横並び特集してほしい。人材獲得競争の中、働き方改革の加速が促されます。
100時間未満が良いか悪いかといえば、海外の反響などを考えると、もう少し下回る数字であってほしかった。しかし、「ゼロ」かそれとも「日本初の働く時間の罰則付き上限が入るのか」と言われたら、まずは入る方が良い。ここが第一歩と思っています。
これがきっかけに「時間外労働の基本は45時間」というのが各企業に浸透してほしい。なぜなら、女性活躍や少子化にまで効果があるのは、やはり45時間だからです。
最終局面までくると「働き方改革実現会議」とはよく名付けたと思います。「実現しなくては意味がない」のです。
この合意の前には、前2回の実現会議での総理発言がありました。
「特に、労働側、使用者側には、しっかりと合意を形成していただく必要があります。合意を形成していただかなければ、残念ながらこの法案は出せないということになります。」
平成29年2月14日第7回「働き方改革実現会議」
「罰則付きの時間外労働上限規制の導入についても、長年、労政審で議論してきましたが結論が出なかった問題でございます。ということは、一度ここで何か強引な結論を出したとしてもこれは労政審に出していくわけでありますから、そこでまた結論が出ないということになるわけでございます。
そこで私が議長という責任を持つ形で本会議を設置して、議論していただいているわけでございます。
労使ともに働く人の実態を最もよく知っているわけであり、現場に対してどれくらいの時間外労働時間の上限が実効性があり、かつぎりぎり実現可能なのかということを考えていただきたいと思います。
本日も榊原会長、そして神津会長からもお話があり、またお二人が合意に向けて大変な御努力をしていただいていることに改めて敬意を表したいと思いますが、私も力を尽くしていく決意でございます。これまでの努力が水泡に帰すことのないよう、しっかりと合意形成に努めていただきたいとお願いを申し上げます。」
平成29年2月22日第8回「働き方改革実現会議」
なかなか合意の報道がなく、このままダメになってしまうのではとハラハラする局面もありました。規定路線と言われましたが、今回は本当に「ガチ」の調整があったと思います。
そして「働き方改革」は誰に向けてのものか? それは「働き手ががんばって生産性をあげよう」という程度のものではありません。生産性をあげるのは「経営者」の責任です。
労働時間の改革に手を付けた企業は、どこに取材しても最終的には「評価」「報酬」の改革までいきつきます。ヤマト運輸の例を見てもわかるように、労働人口が豊富で、また「正社員の時間は無限の資源」とされた時代のビジネスモデルは改革しなければいけません。
この労働時間に関わる施策はどうみても「経営戦略」の改革です。現に「経営企画室」が「働き方改革担当」になっている会社もあります。しかし経営者としてはたいへんな覚悟ですし、やりたくない。そもそも経営者は「人事」や「労務」に興味がない人も多い。そこをやらざるをえなくなるのが、今回の「罰則付き上限規制」です。経済界の抵抗がそれだけ強いのは当たり前です。
前回の発言はある先駆企業の経営者の言葉をひきました。経営者の覚悟が問われるのが働き方改革なのです。
「時間外労働の上限規制等に関する政労使提案について
政労使一体となった努力で、ここまでの合意にいたったことを評価する。特に「インターバル規制」が入ったことを評価する。努力義務ではあるが、過重労働を防ぐ効果が高い施策として知られている。努力義務から法律になった「男女雇用機会均等法」の例もある。施行後5年の見直し時期に、インターバル規制についても導入例における効果を検証し、法律になる可能性があることも書いてほしい。ANAなど「人の命を預かる」現場ではすでに何年も実行されており、シフトを組むシステムなども充実しているので、やれないことはない。
今後の実効性を高めるための提言をいくつか行いたい。まずは国民の理解、そして使用者である経営者への働きかけが重要である。
1) 報道について
マスコミの報道としては「100時間」という数字だけが注目されてしまうだろう。本気度を示すためにも実行計画に「罰則」つきの「罰則」が何か、例などを交えて書き込み、労政審での審議をすると明記してほしい。「今までは大臣告示だったが、今後は例えば99時間を超えたら罰則がある」と周知徹底することが必要だ。
2) 経営者
労働時間に関する法改正は「残業を前提とした無制限な働き方をベースにしたビジネスモデル」の見直しを迫るもの。ヤマト運輸の例を見ても、すでに長時間労働ベースのビジネスモデルが立ち行かないことは明らかだ。
働き方改革先進企業の社長のインタビューで以下の提言をうけた。
「かなりの覚悟が問われる労働時間の施策。経営者にはリスクが高く、やらなければと思わせることが必要だ」。過労死やサービス残業の賃金不払いなどが出た企業は、「「不正会計」と同じく経営者の責任を遡っても追求するような強い姿勢が必須」だという。経営者に「やらなければ」という気を起こさせるためにも厳しい罰則は必要だ。
また改革の努力を示す経営者は人材を集められるよう、「女性活躍推進法サイト」に「労使の結んだ繁忙期の労働時間上限」を公表することが、健全な競争をもたらすだろう。
3) 「実労働時間の把握義務」
実労働時間の把握義務が使用者側にあると法律に明記してほしい。1月に出たガイドラインはあるが、ガイドラインは通達と同レベルで、軽視する使用者もいる。 通達から法律になった例もある。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)
4) 対中小企業向け「まちひとしごと」の交付金の活用
中小企業は「労働時間を減らしたくても、やり方がわからない」という声がある。ブレア政権の中小企業向け支援策には学ぶところが大きいので、「まちひとしごと」の「地域の実情に即した「働き方改革」の実現」のための交付金などを活用し、中小企業の「労働時間」への取り組みへ支援してはどうか?」
(2017年3月28日「Yahoo!ニュース個人(白河桃子)」より転載)