セクハラ通報窓口にセクハラ体質の男性を置くメディアと霞ヶ関は、世界から40年遅れている

30社から学ぶ効果的なハラスメント対策とは?
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「#MeToo」がついに日本でも大きく動きだしました。

テレビ朝日の女性記者のハラスメント告発で財務次官が辞任し、財務省が公式に「セクハラ行為は被害女性の人権を侵害する行為で、決して許されるものではないと考える」と謝罪。「セクシャル・ハラスメント」という言葉が新語・流行語大賞になった1989年以来の大きな分岐点、それが次官が辞任した4月18日です。

4月18日をもって、「セクハラはするけれど仕事はできる人」が「セクハラで企業にリスクをもたらす仕事ができない人」になったのです。

では今後、日本企業はハラスメント問題にどう対峙していけばいいのでしょうか?

5月1日付日本経済新聞に、以下のような記事が掲載されました。「働く女性1000人を対象にセクハラに関する緊急調査を実施。被害に遭った女性の6割超が『我慢した』と答え、その多くが『仕事に悪影響を及ぼすから』と相談もできずにいる実態が分かった。女性活躍の推進には、働きやすい環境が欠かせず、防止対策と併せ意識改革が求められる」

企業には「安全配慮義務」があります。 今回の財務次官による問題についても寺町東子弁護士はハフポストにコメントしています。

「社員である記者に対する安全配慮義務として、取材対象者からのセクハラやパワハラなどの嫌がらせや暴力に対し、会社としてしかるべき対応をとる義務を負っています」(記事『「報道機関にも記者を守る責任がある」福田財務次官のセクハラ疑惑、寺町弁護士が指摘』より)

最近、会社が社員を守ったハラスメント事例としては日本ハムの社長辞任事件があります。航空会社が、日本ハム役員が自社の社員に対してセクハラをしたことを正式に抗議。ハラスメントした役員と一緒にいた社長も責任をとるかたちで辞任となりました。日本ハムは航空会社にとっては有力なお客様ですが、会社は社員を守ったわけです。

日本企業は世界の動きから20年遅れ

先日、約30社で「イクボス企業同盟ハラスメント対策研究会」を実施しました。登壇したハラスメント対策の先進企業は4社。なるべく企業が本音で話し合えるように非公開としました。

「日本の企業にきてみたら、20年タイムスリップした感じでした」と語るのは外資系企業勤務が長く、日本企業に転職してコンプライアンス担当となった女性。メディアのハラスメント問題の話になると、多くの日本企業の人たちが「メディアは遅れている。うちの企業はセミナーも窓口もある」と言います。しかしその日本企業の対応すら、グローバルから比べると20年遅れだというのです。そして、メディアと霞が関はもっと遅れている。その遅れは40年ほどだと私は思っています。つまりセクハラが流行語大賞を取る以前の認識のままなのです。

登壇したグローバル基準で対策をしている2社に聞いたところ、すでに「被害者が申告しなくてもハラスメントに介入できる」仕組みがありました。

「社員のメールを監視しているので、まずいことがあったら本人から訴えがなくても介入する」という米系金融機関。この会社では入社時に「セクハラやパワハラを行ったらすぐにクビになっても文句は言いません」という書類にサインをしているそうです。

アメリカでは北米トヨタのハラスメント訴訟で「総額1億9000万ドル」という高額の請求を受けています。米系企業はハラスメントのリスクを非常に重く見ています。同時に人材獲得戦略でもあります。「優秀な人材がパワハラ、セクハラだらけの企業では来てくれない」という危機感です。現に東海岸でMBA(経営学修士)を取得し、かつてならウォール街に就職したような人材が、「今はみなグーグルなどの夢のある企業に行ってしまいます」と米系証券の人事担当者も嘆いていました。

また世界的コンサルタント企業アクセンチュアは、働き方改革の項目としてハラスメント対策を入れています。四半期ごとの働き方改革の進捗度調査の項目に、ハラスメントの項目も入っており、ハラスメントは会社の生産性にかかわる問題なのです。チームや個人の生産性の調査も常に行っており、明らかにチームがうまく回っていない場合、ハラスメントの現状や原因について分析でき、対応方法を考えるベースになっているそうです。

ビザ・ワールドワイド・ジャパン代表取締役社長の安渕聖司さんはこう言います。

「ハラスメントを目撃した社員は会社に通報する義務があります。匿名でもできます。一方、報復禁止方針も徹底しています。ハラスメントフリーな環境をつくることを全社員の行動指針として位置付けています」

グローバルな企業では、すでに申告しなくてもハラスメントに介入する仕組みがあり、また企業のリスク、生産性、人材獲得にかかわる問題として重視されているのです。

30社から学ぶ効果的なハラスメント対策とは?

研究会で明らかになった日系企業、外資系企業の事例から、効果的だったことをいくつか拾ってみました。

(1)ホットラインや対応窓口について

  • 窓口は社内・社外の両方に設ける。3つの窓口があるところもある。
  • 対応する人は男性か女性かを選べる。

(2)研修について

  • あらゆる階層の研修を行う。トップ層の研修も行われる。
  • 対応窓口の担当者の研修をする。

(3)調査

  • 社員満足度調査をまめに行い、そのなかにはハラスメントも項目として入っている。

(4)その他効果的な事例

  • 相談事例の紹介。
  • 毎年ハラスメント撲滅月間を設けてトップメッセージを発信。
  • ハラスメント理解のための冊子や、上司が相談を受けた際の対応フローを作成し、配布。
  • 外部機関にハラスメント対応について評価をしてもらう。
  • 懲罰委員会で解雇処分を受けた社員がいた場合、部署名、氏名を伏せた上で社員に事実を開示。

日本企業は厚労省のハラスメント対策基準は守っているといいますが、現状を見ると、ハラスメント被害者を救済できていません。特に「社内ではなく社外が加害者、または被害者の場合の事案」については、新たな対策が必要な段階ではないかと思います。

研究会の最後に「自分の会社にハラスメントがあると思う人」と手を挙げてもらったところ、全員の手が挙がりました。しかし「きちんとハラスメントが通報されていると思う人は?」と聞いたら、先進的な対策をとっている企業ですら「すべては難しい」として、手が挙がらなくなりました。

究極のハラスメント対策とは何か?

セミナーや窓口があっても、機能していなければ意味がありません。ある新聞社の女性は「うちにも窓口はあるが、担当しているのが元記者の先輩で、パワハラ・セクハラ体質の人。とても言えない」と言います。

まずはきちんと通報制度が機能し、さらにその先には加害者が懲戒されることで、全体の意識が変わっていく。それは第一歩です。「どうせ変わらない」という絶望感――。今回メディアで働く女性たちの声を聞いて、彼女たちのなかにある「絶望」を感じました。

やはり究極のハラスメント対策とは、上層部の多様性です。「パワーのあるサイドに、女性が半分、せめて3分の1ぐらいはいる」という状況になれば、絶望に塗りつぶされた光景もかなり変わるのではないでしょうか?

企業のハラスメント対策についてハーバード大学の社会学部教授フランク・ドビン氏の研究がありますが、やはりセミナーや通報制度だけでは難しい。「何よりも効果があるのは、女性がその企業のコアの仕事にいる割合を増やし、管理職などマネジメント職の割合を増やすこと」とドビン氏は言っています。

また、シカゴ大学教授の山口一男氏はこう書いています。

「このような日本社会を変え、人々が性別にかかわらず生き生きと働ける社会を生み出すには、今後一人でも多く、政治や経済活動での意思決定の場に女性を送り出していくことが根本対策であると思う。(中略)女性の活躍推進を含む働き方改革を唱える政府自身が、それを反故にするようなセクハラ問題への対応をとったことは為政者の認識不足というより、これこそまさに男性中心社会の女性活躍推進の限界を露呈したのだといえるのではないだろうか」(5月2日付「ハフポスト」記事『女性差別とセクハラ問題―財務官僚のセクハラと麻生大臣の発言から考えたこと』より)

今後、女性活躍を成長戦略と位置づける日本政府がとるべき道はなんでしょう?

ベルギーには「職場における暴力、モラルハラスメント及びセクシャルハラスメントからの保護に関する法律(2002)」があり、フランス、カナダなども2000年代に法整備が進んでいます。日本でも早急に「ハラスメント防止法」などの法整備が望まれます。なぜかといえば「『セクハラをしてはいけない』という禁止の規定がないのです。禁止の規定がないので、禁止の対象となる行為の定義もありません」と独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の内藤忍副主任研究員はハフポストのインタビューに答えています。

また、東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンスコードの改訂により、「女性取締役が1人いること」を規則に加え、さらなる「多様性の担保」を推進することが、リスクを軽減することにつながるでしょう。

(2018年6月19日Yahoo個人より転載)

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