【地域発】国からの地方への給与削減要請で行われていること(林和弘)

地方交付税や地方自治体の財政制度、あるいは自治体の行財政改革の実情や、地方からはどう見えているのか、といったことは、あまり知られていません。まさにこの手で行ってきたことを含め、今後、書いていきます。

各地の地方自治体の9月定例議会は、そろそろ閉会を迎えています。

国からの地方公務員給与削減要請の、最後通牒は「10月1日実施」です。

これに従うためには、「給与削減に関する特例条例」を9月議会で議決する必要があるため、大方の予想通り、渋々ながら国の要請に沿う形で、10月1日からの給与削減を決める県や市町村が続出しています。

■三重県四日市市の決意

そんな中での、三重県四日市市の対応をご紹介します。

以下、7月30日の市長の記者会見要旨からの引用です。

市長:地方交付税は本来、地方固有の財源であって、国が地方公務員の給与カットと連動させて要請してきたことは、地方分権にも逆行し、地方自治体の財政自主権もないがしろにしている行為で、到底容認できない、極めて遺憾だと思っている。

もともと四日市市は新行革大綱を策定して以来、行財政改革に継続して取り組み、職員数の削減等の努力を続けてきた結果、かなり成果を上げてきた。

以前の記者会見の席でも、どういう対応をするかは7月の地方交付税の算定の結果を見てと言ってきた。注目していた交付税の算定については、当初見込んでいた予算を4億円以上上回ったことから、財源不足による市民サービスへの影響は生じない、今年度の予算の組み替えなどの必要性はないと判断した。

以上の理由により、今回は特に給与カットを行わない方針とする。

配付した資料の参考データで、全国の市町村との比較で、平成9年から平成24年の間に、全国平均15.2%の職員減であるのに対して、四日市市は23.8%の職員数を削減してきた。

国家公務員との比較では、平成14年から平成24年の比較では、国は4.8%の削減に対して、四日市市は16.2%と3倍から4倍の削減比率になっている。

人件費も、平成15年から平成24年の10年間で、217億円から168億へと49億円削減している。

質問:交付税の予算額と、決定額の差はどうして出てきたのか。

回答:予算算定時は政権がかわる時期で、交付税の額が示される地方財政計画が公表されるのが通常12月末のところ1月末となった。市の当初予算の時期との兼ね合いもあり、交付税については総務省が財務省に概算要求基準というものを行うが、その要望額の全体額の減率をもって、当初予算を組んだ。

給与費削減に関しては1月28日、総務大臣から要請が来たが、それについて個別に減額については見込んでいないが、全体の総額の中では既に概算要求基準の中で反映しているということもあり、今回予算に比べて交付税が増えてきた。

職員数を減らしたことを評価されて加算された分もあった。

給与費を減額した部分を地域の元気づくり事業費ということで、少し戻す枠もあり、その分については、基礎額プラス、これまで定数削減に取り組んできているということで、その分も増額していただいた。

質問:給与カットを行わないことによって、国の対応が変わるのか。

回答:それは特に何も聞いていない。それによるペナルティーがあるとは聞いていない。市長会でもそういう意見が出て、総務省の方が「それはありません」と答えていると聞いている。実際、総務省は総務省の考えがあり、政府はまた別の考えがあるかもしれない。

■もう変わらない交付額

この中でポイントは2つあります。

まず1つめは、「地方交付税(普通交付税)の交付決定は、もう既に(7月23日付)行われている」ということです。

地方交付税の積算は、自治体の行政サービス(需要)の費目ごとに分かれ、複雑な計算式で積み上げられているのですが、その中の職員人件費については、全国すべての自治体が、国に準じた給与削減(▲7.8%)を行うものとして、その分を勝手に減額して、今年の交付額を決定しました。

7月に決定された交付税(普通交付税)は、もう金額が変更されることはないので、例えば、給与削減を行っていない自治体が、国が再度行った、10月からの実施要請を断っても、交付税が増えることもないし、減ることもありません。

それなのに、10月1日からの実施を9月議会で決めることを求める。

まさに、国の言い分は、自分たちのメンツを守り、自治体を「要請」に従わせる、そういう意図しかないことがハッキリしています。

■不思議な現実

2つめのポイントは、「給与減額分相当の交付税をカットしているのもかかわらず、交付税の交付額が予算より増えている」というところです。

こういった例は、四日市市が特殊という訳でなく、全国の多くの自治体に見られる現象です。

遡ること今年の1月、地方交付税を給与削減相当額、全国で約8000億円削減することを、財務大臣が発表し、地方が一斉に反発を強めました。

これに慌てた(配慮した)国が、「地域の元気づくり推進費」3000億円などを積み増しして、地方交付税の総額を大きく減らさないようにした結果、こういう現象が起こったのです。

地域の元気づくり推進費は、それぞれの自治体の、過去5年間の給与削減実績や、職員削減実績、つまり、人件費にかかる、過去の行革努力を評価して、つまみで各自治体に、交付税を配分するというものです。

この配慮により、一瞬自治体側の怒りは静まりましたが、このやり方は、これまでの交付税の配分原則(交付する年度の自治体の行政需要を見積もって積算する)を覆し、しかも、遡って計算するということで、過去を自己否定するものと言えるでしょう。

さらに言えば、給与削減額に見合った事業費(約9000億円)が計上されたわけですから、そもそもの給与削減の理屈も消えてしまっています。

■雪崩打つ自治体

さて、国からの地方公務員の給与削減要請(強制)ですが、国は、来年度の交付税配分において、今年度、各自治体が、給与削減を行ったか(追随したか)どうかを評価することを臭わせています。

自治体の屈辱を含んだ怒りは、雪崩の大きさに比例して、大きくなっている。

国はそれを気がついているのか。

それとも無視するつもりなのか。

年末の概算要求(交付税を含む地方財政計画の発表)まで、目が離せません。

この問題に象徴される、国と地方のあり方について、自治体の中にいた人間として、詳しくお伝えしていきたいと考えています。

地方交付税や地方自治体の財政制度、あるいは自治体の行財政改革の実情や、地方からはどう見えているのか、といったことは、あまり知られていません。まさにこの手で行ってきたことを含め、今後、書いていきます。

注目記事