【地域発】「未婚の母」だと、シングルマザーを助ける制度が使えない?(一井暁子)

本来は、国が制度を改正するべき課題です。しかし、制度改正を待たなくても出来ることがあるなら始めよう、という動きは、現場に近く、暮らしの実態をよく知っている自治体ならではのもの。問題があるなら、できない理由を並べるより、まず行動する。この広がりが、国を動かすことを期待しています。

今回は、「本当は国の制度を変えてほしいけど、変わらないんだったら、出来ることから自治体でやっちゃいます」という事例を紹介します。

新潟県新潟市(新潟県北東部にある県庁所在地で、本州日本海側唯一の政令指定都市:人口80万7千人)の、未婚のひとり親家庭への「みなし寡婦(夫)控除」の適用です。

国には、シングルマザーやシングルファーザーの所得税の負担を軽くするための「寡婦(夫)控除」という制度があります。課税の対象となる所得から最大35万円を差し引く(控除)ことで、税金を安くする、というものです。

しかも、自治体の保育料や公営住宅の家賃などは所得税の額によって金額が変わるので、「寡婦(夫)控除」を受けることで、そういった負担も軽くなります。母子(父子)家庭にとっては、助かる制度ですね。

ところがこの制度、シングルマザーであっても、「未婚の母」だと使えないのです。

というのは、制度の対象が、「法律上の結婚をした夫と死別もしくは離婚した後、現在、結婚していない人」だけだからです。(そのため、「未婚の母」はダメだけど、過去に結婚したことがあれば、扶養している子どもがその時の夫の子どもでなくても適用される、ということも起きています。)

■シングルマザー、特に「未婚の母」の現状

国の調査(平成23年度全国母子世帯等調査)によると、シングルマザー(母子世帯)の平均年収は291万円で、児童のいる世帯全体の平均658万円の半分にも足りません。少ない収入で、苦労しながら子どもを育てていることがうかがわれます。

また、シングルマザーになった理由(同調査)は、離婚80.8%、未婚の母7.8%、死別7.5%で、初めて、未婚の母が死別を上回りました。数の上でも、未婚の母は13万2000人に上り(平成22年国勢調査)、10年前の2倍以上に増えています。

そんな現状と、「寡婦控除」の制度は合っていません。そもそも昭和26年に、主に戦争未亡人を対象として創設された制度なのです。その後何度も改正され、対象も広がってきました。その過程の中で、未婚の母も対象に含めるべきではないか、という議論はあったようですが、国は一貫して認めてきませんでした。

■新潟市の制度について

国の制度が変わるのを待つより自治体で出来ることに取り組んでいる例が、新潟市の未婚のひとり親家庭への「みなし寡婦(夫)控除」の適用です。

未婚の母子・父子家庭の保育料などを計算するときに、計算の基になる所得税や住民税に寡婦(夫)控除が適用されたとみなして、適用された場合の税額に基づいて計算することにしたのです。

保育園の保育料、放課後児童クラブ(学童保育)の利用料、私立高校の学費助成金など、子どもや子育てに関する、なんと13種類が対象です。今年8月から受付を始め、4月に遡って今年度分に対して実施しています。

■全国の自治体に広がっています

同じような動きは、全国の自治体に広がりつつあります。

岡山市が保育料について導入して以降、保育料や学童保育利用料に導入した千葉市、父子家庭も対象にした埼玉県朝霞市、県営住宅の家賃に適用した沖縄県をはじめとして、特にここ数年、大きく拡大しており、県内の半数以上の自治体が何らかの取り組みを行っているところもあります。

こういった施策によって経済的な負担が軽くなれば、その分、子どものために使えるお金が増えることになります。親が結婚していたかどうかは、子どもには関係ないことですから、どんどん広がっていってほしいですし、導入している自治体でも、対象となる制度を増やしていってほしいと思います。

本来は、国が制度を改正するべき課題です。しかし、制度改正を待たなくても出来ることがあるなら始めよう、という動きは、現場に近く、暮らしの実態をよく知っている自治体ならではのもの。問題があるなら、できない理由を並べるより、まず行動する。この広がりが、国を動かすことを期待しています。

注目記事