【地域発】乾杯条例が全国各地に広がる理由(一井暁子)

よく見ていただくと、地元にあるもの、できればよそとは違うものを売り出したい、という思いが、それぞれの条例に込められているのが感じられるでしょう。業界団体の要請を受けて、というところもあるでしょうが、それも含めて、地元にあるもの、なのです。

今回は、全国各地にどんどん広がっている条例を紹介します。

最初に制定されたのは、京都市(人口:147万1千人)の「清酒の普及の促進に関する条例」です。京都市といえば、酒どころ伏見が有名ですよね。昨年12月に市議会で可決され(全会一致)、本年1月15日に施行されました。議員発議によるものです。

条例は、4条から成るシンプルなもの。内容は、第1条の「本市の伝統産業である清酒による乾杯の習慣を広めることにより,清酒の普及を通した日本文化への理解の促進に寄与すること」に尽きる、と言えるでしょう。つまり、「乾杯は日本酒で!」です。

小正月に合わせた施行日には、記念セレモニーを行い、早速、日本酒で乾杯したそうです。酒造組合が条例を記念して作った「日本酒で乾杯」短冊もあります。来る11月17日には、伏見の商店街で、日本酒の乾杯でギネス世界記録をねらうイベントを行うとか。条例制定を受けた活動が、広く展開されています。

なお、この条例はいわゆる理念条例であって、拘束力はないものです。「とりあえずビール!」と叫んだからといって、罰則はありません。

■急速に全国に広がり中

その後、同様の条例が、急速に全国各地で制定されています。

今年に入って、3月の定例議会で佐賀県鹿島市、6月定例議会では、酒米「山田錦」誕生の地である兵庫県加東市に始まり、佐賀県が都道府県で初めて取り組むなど、10を超える自治体が制定しました。

その中には、「本格焼酎による乾杯を推進する条例」を定めた鹿児島県いちき串木野市のように、日本酒ではなく、焼酎の産地もありました。

9月議会でも動きは止まらず、清酒発祥の地、兵庫県伊丹市や、「但馬杜氏」の古里である兵庫県新温泉町などにも広がっています。

酒を飲む器である焼き物の産地でも、愛知県常滑市「常滑焼の器に注いだ地酒による乾杯を推進する条例」や、長崎県波佐見町「波佐見焼の器で乾杯を推進する条例」が制定されました。

地元で造っているのは日本酒だけじゃない、という自治体では、埼玉県秩父市(日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー)のように、地元の酒での「乾杯条例」になります。

このように、既に制定した自治体は20を超え、12月議会に向けて準備しているところもあるようです。

さらには乾杯にとどまらず、コシヒカリを学校給食や朝食で食べるよう求める「南魚沼産コシヒカリの普及促進を図る条例」(新潟県南魚沼市)や、加賀野菜や和菓子をはじめ、料理や酒、器、料亭などの振興と継承をうたう「金沢の食文化の継承及び振興に関する条例」(石川県金沢市)も成立しています。

■なぜこんなに広がるのか

同じような条例が、しかし少しずつ形を変えながら、あちこちで制定されるのはなぜでしょうか。

それは、全国の自治体が、自分たちのまちの特徴を軸にして、まちを売り出し、元気にしたい、と願っているからです。だから、京都市が「日本酒で乾杯!」という条例を定めたと聞くと、「うちにも酒蔵があるぞ」「焼酎だっていいじゃないか」「酒米の産地といえばここだ」・・と広がっていくのです。

よく見ていただくと、地元にあるもの、できればよそとは違うものを売り出したい、という思いが、それぞれの条例に込められているのが感じられるでしょう。業界団体の要請を受けて、というところもあるでしょうが、それも含めて、地元にあるもの、なのです。

まだまだこの動きは続きそうです。あとは、「条例を作って終わり」ではなく、条例で取り上げた「地元にあるもの」をそれぞれ徹底的に掘り下げ、磨き、そこにしかない魅力を作り上げてもらいたいと思います。似たような条例を持つ自治体の、そこが、分かれ道です。

注目記事