【地域発】自治体の予算編成の舞台裏(その②)(林和弘)

査定をする時には大切な税金の使い道を決めるわけですから、その責任は重く(小さい部局でも5~600億円の予算を持っています)、プレッシャーを感じながら仕事をしていました。担当する部局の事業について勉強するのはもちろん、上記のような細かい積算まで、つぶさに見ていきます。

前回からの続きです。

前回少し説明しましたが、主管課とは、保健福祉部・商工労働部・農林水産部といった本庁の部局の中心で、部の人事や予算経理、企画など、"ヒト・モノ・カネ"の権限を握っているセクションです。

警察本部や教育委員会を含め、予算を所管(要求と執行、出先機関への配分)している部局は、私がいた自治体では、大きく分けると9つありました。

その9つすべてに主管課があり、その中に「経理班」と呼ばれる組織があり、経理班長(だいたい40歳前後の職員)以下、4~13名程度(部の大きさによって様々)の職員が予算要求、予算執行(出先事務所への予算配分・支出事務・収入事務・国庫補助申請・決算など)といった、日々の業務を行っています。

■ 10月の会議室

さて今日は、財政課の予算ヒアリングの日です。最初に、出先事務所から事業課に対する要求が行われてから、既に2ヶ月が経過しています。

場所は、その主管課の会議室。

主管課の側は経理班長、そして、その補佐役の予算担当主査(30代後半)、あとは若い職員が1~2名。

財政課の側は、財政主幹(45歳前後)と財政課の若手職員(30歳前後)の2名です。

ここで少し説明しておきますが、財政課のトップは、財政課長(総務省キャリア)、それを補佐する副課長(プロパーの県職員で50歳前後)がおり、その下に財政主幹(45歳前後)と呼ばれる、いわば査定官のような職員が6名おり、それぞれ部局を担当しています。

9つの部局の予算を、6名の財政主幹が受け持っており、約6000億円の予算行方は財政主幹の「赤えんぴつ」1本にかかっていると言っても過言ではありません。

さて、会議室では、予算ヒアリングが始まりました。

経理班は班長以下、全力で(必死で)来年度に必要な予算を説明します。

10万円の予算でも、数千万~数億円でも、資料を使って同じように丁寧に説明します。

説明をしているのは、9月に部の中の各事業課から説明を受け、そしてやりとりし、自分が納得して財政課に要求(提出)した、たくさんの項目(事業)の予算です。

攻守が入れ替わって、いかにその予算が必要なのかを説明します。

朝から、夜中まで、延々と。

■ 予算要求の根拠

「なんで、この事業は必要なの」「どんな、効果があるの」

など、事業の根本に関わる話から。

「この会議室の借り上げ料の積算根拠は、どこの会議室?部屋の大きさは?借りる時間の長さは?」

「このチラシの印刷だけど、紙のサイズは? なんで両面? カラー印刷必要なの? 部数の根拠は? 何処に配るの?」

などと、財政主幹の細かい突っ込みにも、経理班長は1つ1つ丁寧に答えていかなければなりません。

質問に答えられなかったら、そこでバッサリ査定される訳ですから、どんな意地悪な質問にも、余裕しゃくしゃくで平然と答える。

そんな能力の有無が、そのままその部局の予算付け(獲得)に影響することになってしまいます。

例えば、「DVセミナーの開催」という事業を予算要求(企画)したとします。

説明資料には、名称・目的・背景・開催予定時期・場所・参加者(対象と人数など)・セミナー講師候補の氏名・簡単な式次第、そして予算要求額とその積算根拠を記載しなければなりません。

予算要求の積算(例)としては、

講師謝礼 @15,000円×2時間=30,000円(大学准教授)

講師旅費 @34,900円×1回=34,620円(東京から即日)

案内ビラ印刷 26,000円(A4版、カラー2色、片面、コート紙、5,000部)

お茶のペットボトル @150円×2本=300円

連絡調整経費(電話、郵便代)1,000円×2月分=2,000円

看板作成 @20,000円×1枚+@5,000円×2枚=30,000円

消耗品@1,000円×1月=1,000円

会場使用料@26,000円(100人、3h)×1.05(サービス料)×1.05(消費税)=29,484円

など

まだまだありますが、こういった細かい経費を積み上げて、やっと1つの事業の予算要求額ができあがっているのです。

■ 査定の根拠

査定をする時には大切な税金の使い道を決めるわけですから、その責任は重く(小さい部局でも5~600億円の予算を持っています)、プレッシャーを感じながら仕事をしていました。

担当する部局の事業について勉強するのはもちろん、上記のような細かい積算まで、つぶさに見ていきます。

それでも絶対的な基準があるわけではなく、最後は自分の判断しかありません。住民の皆さんに恥じることのない査定をするためには、最後は「人」だと、私は思っていました。

いくら経理担当者と話しても、どうしても確信を持てない時には、現場を知っている担当者に来てもらうのです。そして、目を見ながら膝詰めで聞いていくと、間違いない、という気持ちで判断することができました。

でも。

これで、予算が付いた(決まった)訳ではありません。

最後の難関、財政課長&副課長査定が残っているからです。

またまた、攻守入れ替わり、戦いが繰り広げられます。

<そのあたりは、次回に>

『事件は現場で起きてるんじゃない。会議室で起きてるんだ』

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