【地域発】自治体の予算編成の舞台裏(その3)(林和弘)

またもや、前回からの続きです。予算要求をしてきた部局を相手に、事業の必要性や、予算の積算根拠を細かく査定し、自分が納得できる金額に収め、一旦、予算を預かる形となった財政主幹は、今度は、その予算を要求する側の立場に立って(攻守が入れ替わって)、最後の難関、財政課長ヒアリング(査定)に臨みます。

またもや、前回からの続きです。

予算要求をしてきた部局を相手に、事業の必要性や、予算の積算根拠を細かく査定し、自分が納得できる金額に収め、一旦、予算を預かる形となった財政主幹は、今度は、その予算を要求する側の立場に立って(攻守が入れ替わって)、最後の難関、財政課長ヒアリング(査定)に臨みます。

自分が付けた予算は、意地と面子に賭けて、守り抜かねばなりません。

6人いる財政主幹が、それぞれ担当した部局の予算要求書や、説明資料を持って、順番に査定を受けていくという流れです。

■師走の査定室

庁内での通称は「査定室」。

財政課内を、キャビネットロッカーで仕切った、わずか1坪ほどの小部屋が、主戦場です。

財政主幹は、1つ1つの事業を順番に、その事業の概要や、査定の根拠などを説明していきます。

「何のために、この事業をするの?」

「どんな、効果があるの?」

「この単価の根拠は?」

「参加者人数の内訳は?」

財政課長から、財政主幹に、次々と質問が浴びせかけられます。

財政課長は、総務省(旧自治省)のキャリア。30代後半の若さです。

頭の回転が速く、ロジックの曖昧さや、理屈の合わないことは見逃さずに、すかさず鋭いツッコミがどんどん入ります。

財政課長が、財政主幹が査定した内容を、自分も納得して、「そのままの金額で認めるか」、もしくは、「さらに査定し、予算が削られるか」、あるいは、「財政主幹が説明できなく(財政課長の質問に即答できずに)なって、後日、追加の説明資料の提出(作成)を求められるか」。

この、3つのパターンで、事業が仕分けられていくのです。

伯仲した議論、時には口論や机を叩く音、時には和やかな笑い声に包まれ、時には、長い沈黙、ため息。

長机を挟んで、7千億の予算案が、次々と決まっていくのです。

■正しい査定はできるのか

「この事業の経緯は、そういうことじゃなかったと思うけど。」

財政課長の横に座り、黙って説明を聞いていた副課長が切り出します。

途端に、説明していた財政主幹の表情が、みるみる固まっていきます。

財政課の副課長は、50歳前後のプロパー職員。

しかも、財政主幹としての経験が、5~6年以上ある人が、その職に就いているのです。

思い違い、小さなウソ、違った視点など、財政主幹が見抜けなかったことや、過去との整合性など、国から地方へ来たキャリア官僚にはわからない事情や、経緯などは、ナンバー2の副課長が、ある程度チェックできる、仕組みになっています。

ここまでの話が、約4ヶ月にも及ぶ、誰もしらない予算編成の舞台裏。

財政課内の話です。

■予算編成はまだまだ続く

さて、この後も、庁内では。

12月中旬の、総務部長査定、12月下旬の、知事査定と続きます。

しかしその間、細かな事業の議論が行われたり、ましてや、減額査定され、予算数字(額)が変わることはありません。

約3000以上もある事業を、短い期間で議論(説明)するのは不可能なので、基本的に、知事が査定するのは、約100ほどの、新規事業だけです。

こうして12月中に、予算編成作業はほぼ終了し、年明け、1月15日に、議会や、マスコミに、予算要求額として説明(公表)されます。

その後も、議会の各常任委員会での議論や、党折衝などが行われますが、最終の落としどころは決まっているので、地方交付税の大幅な見込み違いや、よっぽどの特殊事情がない限り、12月末にはじいていた、予算案の最終数字が変わることはありません。

そのまま、2月定例議会に予算案として上程され、修正もなく、3月20日ころに、めでたく議決となるわけです。

予算の議決までの過程は、流儀や、スケジュールなど、各自治体によってさまざまですが、これまで紹介させていただいた内容は、筆者が以前携わっていた、自治体(県)の内情です。

地方財政の現場に携わる者は、いかに身の丈(歳入)に合った予算を組み、その枠の中で、いかに効率的で、効果的な財源の配分を行う(歳出予算を組む)か。

正解のない仕事に、誇りや責任感を感じながら、日々励んでいるのです。

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