衆議院議員の尾辻かな子さんインタビュー 同性カップルが子どもを持つという選択を可能に

「誰も置き去りにしない社会を作るというのが私の政治信条です」
サウザンブックス

レズビアンとしてカミングアウトし、つねにマイノリティの視点に立った活動を行ってきた衆議院議員の尾辻かな子さん。国内外のセクシュアルマイノリティに関する国や自治体の政策情報をまとめる一般社団法人LGBT政策情報センターの代表理事を務めるなど、セクシュアルマイノリティに関する施策に積極的に取組んでいる。尾辻さんにセクシュアルマイノリティや多様な家族のあり方について話を聞いた。

物議を醸した同性愛を扱った絵本

宇田川しい 尾辻さんは『タンタンタンゴはパパふたり』(※1)というオスのペンギンカップルが子育てするという絵本を翻訳されていますね。

尾辻かな子 あの本はアメリカで図書館に置かれていることを一部の人が問題視して騒動になったんです。そのニュースをアメリカのLGBT向け情報誌『アドヴォケート』で知って、これはぜひ日本でも出版したいと。自分でポット出版に企画を持ち込んで翻訳させてくださいとお願いしました。

宇田川 すごい行動力ですね! 日本で出版して反響はどうでしたか?

尾辻 一部の人から批難されました。当時の日本は今と違ってLGBTという言葉も一般には知られていませんでしたから。「こんな本を子どもに見せられない」、「悪影響だ」と。でも、最近ではセクシュアルマイノリティへの理解も進み、『タンタンタンゴ−−』を授業に取り入れてくれている学校もあります。

宇田川 時代の変化を感じさせますね。2008年の初版から版を重ね続けています。

尾辻 絵本は息が長いですからね。初版が出た時にあの絵本を読んだ子たちがもうそろそろ成人することになります。

宇田川 子ども時代にセクシュアリティや家族の多様性について、絵本で自然に身につけた世代がおとなになるのですから時代も変わるわけですね。逆に言えば教育の重要性ということがよくわかります。

セクシュアルマイノリティ特有の家族の問題

宇田川 尾辻さんは2005年に『カミングアウト~自分らしさを見つける旅』(講談社)を出版されました。このような形でカミングアウトすることは個人としても政治家としても勇気がいることだったと思うのですが。

尾辻 両親にはそれ以前にカミングアウトしていますし、なんのために政治家をやっているのかの原点ですから政治家として出版に迷いはありませんでした。

宇田川 出版して変化はありましたか。

尾辻 大勢の人から相談を受けるようになりました。そんな中で感じたのは、当事者の団体はあるけれど、カミングアウトを受けた家族や友人が相談する窓口がないということだったんです。そういう状況をなんとかしたいと、親ごさんたちと立ち上げたのが「LGBTの家族と友人をつなぐ会」でした。

宇田川 カミングアウトされた側の戸惑いを受け止めることも重要ですよね。それを言葉にするだけでも次に進めるきっかけになるかもしれない。

尾辻 他のマイノリティ、例えば在日コリアンの場合であれば、親も、子どもが民族的マイノリティであることをはじめから知っているわけです。セクシュアルマイノリティの場合はそうでないことが多いんですね。

宇田川 そういう意味でもセクシュアルマイノリティにとって家族の問題は、非常に重要だといえるかもしれませんね。

尾辻 「LGBTの家族と友人をつなぐ会」設立の際、母が理事長を務めたこともあり、神戸の実家を事務所として看板を出したんですね。そうしたらほとんどの人はLGBTという言葉を知らなくて「LPガスの販売を始めたの?」なんて勘違いされました(笑)。

宇田川 つい十数年前ですが隔世の感がありますね。

尾辻 でもね、たまたま近所に息子さんにカミングアウトされた方がいらして、その看板を出していたおかげでつながることが出来たんです。可視化することの大切さを感じましたね。

すでに進行している家族の多様化という現実

宇田川 いま『In Our Mothers' House』というレズビアンマザーの家庭を描いた絵本の出版プロジェクトをクラウドファンディングで行っているんです。

尾辻 この絵本も、セクシュアルマイノリティや家族の多様性についての理解を深めるために役に立つ本ですね。そして『タンタンタンゴ−−』のように擬人化された動物ではなく、人間が主人公ですからよりリアルだという点もいいと思います。

宇田川 レズビアンカップルで子育てをしている人というのは、一般に考えられているより多いと思うのです。ただ、その多くはレズビアンカップルだと名乗っているわけではないので実態は見えてこない。可視化されていないために行政サービスが届かないなど様々な不利益を被っていると思います。

尾辻 男女のカップルと子ども1人以上という構成世帯はすでに3割を切っているんですね。

宇田川 60年代以降、4人家族が急増したために、これを標準として国は制度設計や試算の基準としてきましたし、民間企業もこれを元にマーケティングをしてきました。しかし現在では標準世帯がすでに標準ではなくなっている。制度が実態にあっていないわけですね。

尾辻 レズビアンマザーもそうですし、たとえばシングルマザーも不利益を受けている。パートナーと離別や死別したシングルマザーは寡婦控除と言って税金が軽減されますが、未婚のシングルマザーにはこれが適用されません。

宇田川 同じシングルマザーなのに結婚のレールに乗った人だけ助けるというのはおかしな話ですね。

誰も置き去りにしない社会を

尾辻 同性カップルの場合、特別養子縁組(※2)が出来ないというのも問題です。養育里親(※3)は自治体によりますが。虐待などの理由で、施設で育てられる子どもは多いのですが、施設では愛着形成に課題があると言われます。家庭的な環境で育てられるということは子どもの福祉にかなうのです。その社会的な資源として同性カップルも考えられるべきではないでしょうか。また同性パートナーシップ制度も必要ですから党内でも法制化に向けて動いています。

宇田川 G7のうち同性婚や同性パートナーシップについての法律がないのは日本だけという状況はなんとかしなければいけせんね。

尾辻 『In Our Mothers' House』のような家族が出来る土台となる法整備に取り組んでいきたいですね。LGBTなどのカップルが子どもを持つという選択が出来る社会を作らなければいけないと政治家として思っています。

宇田川 レズビアンやゲイだけでなく、ヘテロセクシュアルでもあっても家族のありようはすでに多様化していますから、それに対応していくことが必要ですね。

尾辻 誰も置き去りにしない社会を作るというのが私の政治信条です。シングルマザーやセクシュアルマイノリティの問題もそうですし、現在、急増している単身世帯の人たちを社会的に包摂していくことは非常に重要だと考えています。そういう人たちの声を国会に届けることが私の役目だと思うんです。

【多様な家族が認められる社会を実現するためのクラウドファンディング実施中】

現在、宇田川しいが編集主幹を務めるプライド叢書ではレズビアンマザーの家庭の日常を描いた『In Our Mothers' House』を翻訳出版するクラウドファンディングを行っています。

ご賛同いただける方はご支援をよろしくお願いいたします。

クラウドファンディングのページはこちらです。

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