シリーズ「南スーダンからアフリカ開発会議 (TICAD VI) を考える」 (5)

UNITAR広島事務所は 、南スーダンの専門家たちに研修を提供することで、南スーダンの人々自身で問題を解決できるようになる支援をしています。

2016年8月27~28日、ケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が開催されます。初めてアフリカで開催されるTICADに向けて、国連広報センターでは日本の自衛隊が国連PKOに参加し、また多くの日本人国連職員が活動する南スーダンを事例にして、様々なアクターの皆さんに、それぞれの立場からTICADで議題となる課題について考えていただくという特集をシリーズでお届けします。

シリーズ第5回は、国連訓練調査研究所(UNITAR)広島事務所の隈元美穂子所長です。南スーダンでは女性の地位が著しく低く、社会参加の機会の不均衡は、国の持続可能な開発を阻んでいます。UN Womenによると、女性の非識字率は男性の2倍も高く、女性はジェンダーと性差に基づく暴力の被害者でもあります。UNITAR広島事務所は 、南スーダンの専門家たちにプロジェクトマネージメントとリーダーシップの研修を提供することで、外部からの支援に頼ることなく南スーダンの人々自身で問題を解決できるようになる支援をしています。そして隈元所長は、南スーダンに真の平和が訪れ復興を果たすには、女性の活躍は不可欠であると述べています。

第5回 国連訓練調査研究所(UNITAR)広島事務所 隈元美穂子所長~南スーダンの女性の可能性と平和構築~

隈元 美穂子(くまもと みほこ)

国連訓練調査研究所(UNITAR) 広島事務所長

福岡県立筑紫丘高校卒業。米国ウエストバージニア大学心理学部卒業。九州電力企画部国際関係担当として海外研修を企画。退社後、米国コロンビア大修士課程で開発経済を学ぶ。2001年から3年間、国連開発計画(UNDP)ベトナム事務所でジュニアプロフェッショナルオフィサーとして勤務。ニューヨーク本部に異動、アフリカ適応プログラムなど能力開発プログラムに取り組む。2011年には4か月間、UNDPサモア太平洋事務所で紛争、復興、環境、気候変動担当の事務所代表代理。2012年UNDPインドネシア事務所でシニアアドバイザー。2014年より現職

第6回アフリカ開発会議とユニタール

今年8月末にケニアの首都ナイロビで開かれる第6回アフリカ開発会議サミット会議(TICAD VI)。その準備会合のシニアオフィサー会議 (SOM) が2016年3月にジブチで、そして閣僚級会議が2016年6月にガンビアで開催され、国連訓練調査研究所(UNITAR/ユニタール)代表として出席してきました。多くのアフリカ各国政府、国際機関、2か国機関、市民団体などの代表が集まりました。議論の焦点は、サミット会議で発表予定の「ナイロビ宣言」の骨格でした。アフリカが抱える様々な問題を討議し、中でも経済、保健、社会の安定について深く話し合われました。若者と女性の社会参加の機会が限られており、持続可能な開発に彼らの貢献が必須である点に注目が集まりました。

私が勤務するユニタールは能力開発・研修を専門とした機関で本部はスイス・ジュネーブにあり、それ以外はニューヨークと広島に事務所を置いています。広島事務所は「平和拠点」としての土地柄を活かし、主に平和構築や軍縮の研修を行っています。研修の対象となる国は、アフリカ、アジア、中東など各地にまたがっており、その中でもアフガニスタン、イラク、南スーダン、サヘル諸国といった平和構築が大きな課題となっている国を多く含んでいます。ここでは、ユニタール広島事務所が実施している日本政府支援による南スーダン奨学プログラムと、社会的に弱い立場にある南スーダンの女性たちについて紹介します。

首都ジュバを着陸直前に上空から見た様子 (筆者提供)

南スーダンとジェンダー問題

南スーダンは2011年にスーダンから独立しました。大きな希望と期待がかかっていましたが、2013年12月に首都ジュバの大統領警護隊内部で衝突が勃発し、部族間の争いへ様相を変え内戦状態に陥りました。難民は220万人に上り(2015年8月)、保健、教育、所得の3つの側面から人間開発の達成度を示す人間開発指数(2015年、国連開発計画)では、188か国中169位に位置するなど、開発も遅れています。しかし、2015年の8月に最終和平合意が締結されたことで、一筋の希望の光が差し込みました。 合意の履行の重要なステップの一つが反政府軍のリーダーであるマチャー氏の第一副大統領としての擁立ですが、これも2016年4月に完了。引き続きの合意の履行が今後の安定と復興の成功の鍵と言えるでしょう。

南スーダンは男性中心社会です。社会における女性の活躍の場はまだまだ制限されています。大きな障壁となっているのが、「女性は家にいるもの」という古くからの考え方です。そこから様々な問題が派生しており、例えば女子は教育へのアクセスが制限されています。人口の半分以上が貧困層という南スーダンで、子どもたちは学校に通う事もままならないのですが、通えたとしても男子が優先されるケースが多くみられます。南スーダンでは全国民の識字率は2割程度と非常に低く、特に女性の低さは深刻と言われています。それ以外でも女性は、児童婚、性暴力の対象となることがあるほか、政治などあらゆる意思決定プロセスへの参加が限られるなど、問題が山積みです。女性は社会の中で虐げられた状況にあり、社会での活躍の場は限られています。

ジュバの文民保護区で、UNWomen(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)が提供するコンピュータトレーニングを受ける国内避難民の女性(2016年4月) UN Photo/JC McIlwaine

2015年9月に発表された「女性、平和と安全に関する事務総長報告書」も指摘するように、女性の教育、政治、社会活動を支援し活躍の場を広げることは、国の安定に大きく貢献し、平等な社会を作る上でとても重要です。 南スーダンの現状は、人口の半分を占める女性の可能性の芽を摘んでいるだけでなく、多様かつダイナミックな社会の形成を妨げていると言えます。

南スーダン奨学プログラム

当事務所が実施する「南スーダン奨学プログラム」は2015年に始まり、今年で2年目を迎えます。研修では、教育、外交、司法、ジェンダー、保健、農業など様々な分野で活躍する南スーダンの専門家を迎え、彼らがプロジェクト管理の方法やリーダーシップを身に付け、市民のニーズに沿った効果の高いサービスが提供できるようになることを目指しています。彼らの能力を強化することで、南スーダンの人々が自らの力で国を造りあげる自立プロセスを支援しています。2015年のプログラムでは、20人の研修生に半年にわたり3回のワークショップとコーチングを行いました。そのうち8人は女性でした。

ユニタール広島事務所がジュバで行ったプロジェクトマネージメントとリーダーシップの研修 (筆者提供)

この8人は、司法、外交、保健、性暴力、教育などの分野で活躍しています。 例えば、女性弁護士は研修で、刑務所に収容された女性やその子供たちをテーマに取り上げました。不当な理由で収容されたケースや、刑務所で起きた人権侵害に関して、研修で習得したデータ収集や分析の手法を使い、問題改善へのアプローチを提案しました。このように、司法の専門家であると同時に女性の視点を取り入れた提言は、社会的弱者である女性の支援に有効です。

研修に参加した女性専門家たちと筆者(右から2番目)。弁護士、外交官のほか`、女性問題、保健衛生、メディアなど幅広いバックグラウンドを持つ専門家が参加した (筆者提供)

これからの南スーダン

長年にわたり貧困、経済的格差、紛争など厳しい状況が続いている南スーダン。私が出会った人々のほとんどが親族や友人が亡くなるなど被害を受けており、「もう紛争はたくさんだ、平和を心から望んでいる」と言います。当事務所の研修は、広島視察を含んでいます。広島平和記念資料館を訪れた研修生は、71年前の焼け野原となった広島の姿を食い入るように見つめます。そして、今の広島の姿を見て「広島の復興の軌跡を見ることができとても良かった。南スーダンの平和と復興に向け、強い勇気と希望をもらった」と話すのです。

広島を視察した研修参加者。原爆ドームや平和記念公園を訪れ、被爆者と対談したり広島の復興を学んだりした @UNITAR

多民族で構成される南スーダン。彼らが自国の再建と発展のために同じ方向に向かって力を合わせて進んでいくことが重要です。そのプロセスに、女性はかけがえのない存在です。

広島平和記念資料館で被爆被害の説明を丁寧に読む研修生 @UNITAR

TICAD VIは、アフリカ各国政府、国際機関、2か国間機関、市民団体、民間企業からトップレベルが集結し、討議を行う重要な節目となります。アフリカの人々によるアフリカならではの開発の実現、そして女性たちがあらゆる分野で生き生きと活躍する社会が作り出されることを強く期待します。その実現に向け、当事務所も南スーダンを含むアフリカ諸国への支援に引き続き努力をしていきます。

文民保護区で避難生活を送る女性たち ©UNMISS Patrick Orchard

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