スポーツ×開発×平和の未知なる可能性

「スポーツ×平和×開発」について私たちができる身近なことは何なのか、まわりの人と話してみるきっかけにしても良いかもしれません。

スポーツと開発・平和が密接に関わっていることをどれくらいの人が知っているのでしょうか。国連は2014年から今日4月6日を「開発と平和のためのスポーツの国際デー」と定め、スポーツが幸福と健康を増進し、寛容と相互理解を育む側面に着目してきました。今回は、4月6日の国際デーを前に先月東京で開催された開発と平和のためのスポーツに関する国際シンポジウムの様子を国連広報センターインターンがお伝えします。

このシンポジウムは、途上国や難民キャンプをはじめ、世界各国のスポーツや開発に携わる若者を対象として実施されている「ユースリーダーシップキャンプ(YLC)」のこれまでの卒業生を中心に行われたイベントです。

YLCは日本でも2013年から東京や東北で既に3回開かれています。今回はさらにステップアップして、「開発と平和のためのスポーツ(Sport for Development and Peace: SDP)」を担う人材が更なるリーダーシップ力やマネージメントスキルを身につけるための研修が東京で実施されました。最終日に行われたシンポジウムでは、研修参加者の中から選抜された若者たちが、自らのプロジェクト提案を行い、成果を発表しました。

シンポジウムの成功を祝して記念写真 ©UNIC Tokyo

2014年のYLCでの様子 ©UNIC Tokyo

スポーツをより効果的に平和構築に取り入れるには

オリンピック出場も果たした水泳選手としてのキャリアや、数々の国で復興支援に携わった豊かな経歴を持つ井本直歩子(いもと・なおこ)さん。そんな井本さんのスカイプによる基調講演でシンポジウムは幕を開けました。現在井本さんは、UNICEF職員としてギリシャで教育プログラムチーフを担い、シリア等からの難民の子どもの教育支援を統括しています。

スポーツがその場で楽しむアクティビティーの枠を超えるために

井本さんが教育支援に携わっていたマリでは、孤児院の子ども達が通常の教育の枠から外れてしまうことも多いそうです。また、国内に異なる民族が共存していることを、多くの子どもたちが知らない現実もあります。そんな子どもたちがお互いを知るきっかけ作りとして、マリではスポーツをはじめ、演劇や対話などを有効に利用していたそうです。

井本さんは「子どもたちが互いを認め合うことや、子どもたちに起こるポジティブな変化が親の世代にまで影響を及ぼす」と、子どもからの変化の大切さについて強調し、これには私たちインターンをはじめ、会場の多くの人がそのメッセージに共感しました。

「皆が集まって、ただ楽しくスポーツをするだけでは持続可能な平和の構築は達成できません。」というオリンピアンとして、そして長年教育支援に携わってきたプロとして、双方の立場からスポーツの可能性を熟知している井本さんだからこその意見にはっとさせられました。それと同時に、こうして気づきが芽生えていくのだと実感しました。

「I am a leader! 」一人ひとりがこの世界のリーダー

マレーシア出身のDaniel Lee(ダニエル・リー)さんは、参加者代表の一人としてスポーツを通したリーダーシップ向上プロジェクトを発表しました。格差や貧富の差に苦しむマレーシアの若者のためにこのプロジェクトを発案し、「スポーツをするにはエネルギーと熱意が必要です。それはまさにリーダーにとって大切な要素でもあります。」と、熱く語りました。

自身もパワーに満ち溢れるダニエルさんは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでパラリンピアンとして活躍することを目指しています。障害がハンディキャップであると微塵も感じさせない強さと明るさを持つダニエルさんのメッセージは、参加者一人ひとりを奮い立たせるものでした。

プレゼンテーション中のダニエルさん ©UNIC Tokyo

シンポジウムでの参加者の様子 ©UNIC Tokyo

国や文化の枠を超えた絆が生まれるきっかけに

シンポジウム後の交流会では、終始和やかな雰囲気の中でこれまでYLCに参加した14名の若者やシンポジウム参加者が意見を交わしました。私たちインターンも参加者にインタビューを行い、それぞれの熱い想いにせまりました。

困難にも負けずに笑顔で前に進む力

以前YLCに参加した加朱将也(かしゅ・まさや)さんはエチオピアに青年海外協力隊として滞在し、現地では子どもたちに体育教師としてチームで協力する大切さを教えていました。「強い信念を持って、楽しみながら目標に向かっている人に人間は惹きつけられるものです。」と、困難な状況に合っても、前向きにチャレンジし続ける他の参加者をみて、新たな気づきに出会えたそうです。

実際に参加者たちは、それぞれ抱えている問題があるにも関わらず、明るく情熱を持って目標に向かって突き進んでいます。そんな姿に、国や文化の違いを超えた若者の持つ可能性とパワーを感じざるを得ませんでした。

地域開発や女性支援に関してのプロジェクトを発表中の加朱さん ©UNIC Tokyo

国々や人々の架け橋に

Asha Asaria Farrell (アーシャ アザリア・ファレル)さんの母国であるバルバドスには、昨年日本の大使館が設立されたばかりです。日本とバルバドスの交流が強まることを願い、バルバドスの学生が日本で、日本の学生がバルバドスでインターンシップをしながら文化交流を行うプログラムを提案しました。アーシャさんはスポーツは言語学習においても効果的だと強調し、スポーツや文化交流を通して「母国と日本の架け橋になりたい」と語りました。

自身のプログラムの中でSDGsの重要性についても

言及するアーシャ アザリア・ファレルさん ©UNIC Tokyo

子どもの豊かな感性に着目

スポーツを通じてインドとパキスタンの子どもたちの交流をはかるプロジェクトを発案したインド出身のRevina(ルビーナ)さんは、子どもの純粋な感受性の可能性について熱心に話してくれました。「偏見や差別は生まれながらに持つものではないからこそ、子どもたちへのアプローチが大切です。」という言葉がとても印象的でした。

交流会での参加者の様子 ©UNIC Tokyo

シンポジウム参加前は私たちインターンも、スポーツと平和・開発の関係性について漠然としたイメージしか持っていませんでした。しかし、今回のシンポジウムを通してYLC参加者の熱意に直に触れ、言葉ではなかなか越えられない壁があるときに、スポーツは誰かに歩み寄る一歩として、大きな役割を果たすのだと実感しました。子ども達とスポーツの組み合わせが差別や紛争をなくす鍵になることも、今回の取材を通して学んだことのひとつです。

なにより、スポーツを通した平和構築のため、母国の発展のために信念を持って突き進んでいる一人ひとりの参加者の姿を間近でみて、身が引き締まる思いでした。日本はオリンピック・パラリンピックを3年後にひかえています。4月6日の「開発と平和のためのスポーツの国際デー」を機に、「スポーツ×平和×開発」について私たちができる身近なことは何なのか、まわりの人と話してみるきっかけにしても良いかもしれません。

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