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2018年03月26日 13時23分 JST | 更新 2018年03月26日 13時23分 JST

シリーズ:モルディブで、サステナビリティーについて考えた

1週間の短い滞在でしたが、痛感したのはモルディブの人々が直面する「水」の課題です。

国連広報センターの根本かおる所長は、2018年3月10日から16日、インド洋の島国モルディブを訪問し、気候変動対応の最前線での国連の活動などを視察しました。温暖化による異常気象や海面上昇が人々の暮らしに影響を及ぼしているモルディブで、サステナビリティーについて考えたことをシリーズでお伝えします。

UN Photo Shoko Noda
モルディブには26の環礁が

連載第1回 モルディブの離島での水事情 - きれいな水確保の最前線

白い砂浜、青い海、エメラルドグリーンのサンゴ礁に代表される「地上の楽園」というイメージの強いモルディブは、インド洋に「真珠の首飾り」の形状に1200もの島々が南北800キロメートルにわたって散らばる群島国家です。東京23区の半分程度の面積に人口40万人が暮らし、国の人口のおよそ3分の1が首都マレに集中していますが、一つ一つの島は100平方メートルから2平方キロメートルの大きさしかありません。一方、一年に人口の3倍に相当する120万から140万人もの観光客が訪れ(うち日本からの訪問者はおよそ4万人)、観光業は国の基幹産業となっています。

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マレ島には面積約2平方キロに10万人以上が暮らす。手前は空港島で、マレ島と結ぶ橋が建設中

1週間の短い滞在でしたが、痛感したのはモルディブの人々が直面する「水」の課題です。私たちの身体の60パーセントは水から成り立っているものの、世界人口の36パーセントに相当する25億人が水不足の地域に暮らし、21億人が安全な水が飲めません。さらには水が関わる自然災害のリスクが世界的に高まっています。水はまさに私たちの生死を左右する問題になっていますが、モルディブの人々はその最前線にさらされています。

UNIC Tokyo Kaoru Nemoto
マーメンドホー島

離島の暮らしを知りたいと訪れたモルディブ南部のラーム環礁のマーメンドホ―島は、人口およそ1000人、長さ1キロ・幅330メートルで面積がわずか33万平方メートル、港から島の反対側までが見通せてしまうぐらいの小さな島です。首都マレから小型飛行機でラーム環礁の飛行場まで1時間弱。島々を形成する環礁は国内に大小合わせて26あり、これらは日本の都道府県に相当します。マーメンドホ―島は飛行場から車で10分の港からさらにスピードボートでおよそ30分と次々に乗り継いでようやくたどり着ける遠隔地です。水は基本的に地下水と雨水に頼っているため、民家には雨水をためる貯水タンクが備え付けられ、コミュニティー用の貯水タンクが 気候変動などのリスクへのコミュニティーのレジリエンスを促すための国連諸機関による統合型の支援プログラム(Low Emission Climate Resilient Development Programme)を通じて設置されています。

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国連がコミュニティー用の雨水貯水システムを支援

モルディブの離島では電気は基本的にディーゼルでジェネレーターをまわして発電していますが、国連からのサポート を受けてマーメンドホ―の学校の屋根にはソーラーパネルが、そして港にはソーラー街灯が備え付けられています。ラーム環礁に11ある学校にソーラーパネルを設置した結果、年間に電気代を5万3000ドル(およそ550万円)、ディーゼル消費を84万リットル削減できる見込みです。

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ソーラー街灯を国連の支援で離島の港に設置

島民議会の副議長の案内で島をまわっていた時のこと。港の建設などの開発で潮の流れが変わったことや気候変動に端を発する地球温暖化で海面が上昇し、その影響を受けて海岸がどんどん浸食されています。国の海抜は平均で1-1.5メートル、最高でも2.4メートルですから、海面上昇や激しさを増す高潮は大きな脅威です。地面が大きくえぐられてヤシの木が倒れてしまった波打ち際のすぐそばで、2本の木の間にはられたハンモックに腰掛ける少女に何気なく「気候変動や異常気象の影響はありますか?」と尋ねてみると、「もちろん。子どものころは、もっと先まで砂浜が広がっていたわ。井戸の地下水を使っていたけれど、しょっぱくなって、使えなくなってしまいました」という答えが返ってきました。

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16歳のハスナさん

「それは心配ですね。水はどのように確保しているんですか?」と聞くと、島民議会の副議長が「国連の関わる支援プログラムの一環で島内の30家庭に淡水化浄水器を取り付けて、そのおかげできれいな水が飲めるようになりました。彼女の家もその恩恵を受けています」と説明してくれました。16歳のハスナさんに真新しい装置が設置された家の台所を見せてもらったのですが、地下水を淡水化浄水器に通して出てきた水は、私にも普通に飲めるものでした。台所にはエビアンのマークの入ったリユースのガラスのびんが多数置かれていました。「浄水器と一緒にガラスの水差しももらったんです。使い捨てペットボトルのミネラルウォーターは使わないようにしています」とハスナさんは少し得意そうです(プラスチックごみなどについては、次回以降に報告します!)。小さなステップかもしれませんが、プラスチック容器のポイ捨てが目立つモルディブで、若い人たちから意識が変わってきているのかもしれません。国連の支援が人々の暮らしを改善している実例を思いがけず見ることができましたが、これを組織的に行うのには政府や自治体の強いコミットメントが必要になるでしょう。

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淡水化浄水器とともに、ガラスのびんも配られた

この質問は16歳には酷な質問かもしれないと思いつつ「この島にずっと住み続けられると思いますか?それともどこかほかの場所に移住することも考えていますか?」と尋ねると、「ここには住み続けられないと思っています。大人になったら、近くのもっと大きな島に移って、そこで仕事に就きたいと思っています」と冷静な言葉が返ってくるではありませんか。少しずつ、しかし着実に忍び寄る海面上昇の脅威を前に、達観した表情が印象的でした。

ここにはかつて砂浜が。立ち退いた住居跡も 撮影:根本かおる

ハスナさんの家を出て、近所の海のすぐ脇の空き地には日用品の残骸が転がっていました。「この海岸線にあった家は、島の北部に移転したんですよ」国連開発計画(UNDP)モルディブ事務所 の常駐代表で、国連諸機関を取りまとめる国連常駐調整官(UN Resident Coordinator) を務める野田章子さんが説明してくれました。

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野田国連常駐代表は人々との直接の対話を欠かさない

マーメンドホー島には昨年10月、アメリカのテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」に出演するデンマーク人の俳優のニコライ・コスター=ワルド―さんがUNDP親善大使として訪問 し、様々なリスクにさらされながら生きる人々の実情に直接触れています。

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UNDP親善大使のニコライ・コスター=ワルドーさん 

副議長によると、浸食がひどいし、波をかぶることもあるので、住民は先祖代々暮らしてきた家を泣く泣く手放し、島の反対側への移転を決めたというのです。「問題は、移転した先もかならずしも大丈夫とは限らないということです。こんな小さな島では、生活圏がどんどん狭められてしまって」

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海の上にコテージが並ぶ「シックスセンシズ ラーム」

マーメンドホー島からスピードボートで15分のリゾートアイランドにある高級リゾート「シックスセンシズ ラーム」 にも足を運びました。このエコ・リゾートでは、サステナビリティー担当官や研究者チームを置き、海と陸の生態系の保全・周辺の島々のコミュニティーへの環境教育活動・漁師たちとの協力関係の構築(地域の漁師たちが獲った魚の直接買い入れや、生態系保護への協力の呼びかけ)・宿泊客に提供する野菜の自家栽培(モルディブでは通常野菜・肉類・卵などはほぼ全てにわたって輸入)、ごみのバイオマス化・ガラスやキャンドルのリサイクルなど、徹底してサステナビリティーに配慮したリゾート運営 を行っています。

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左:野菜をリゾート内の農園で栽培  中央:キャンドルを再利用  右:宿泊客を対象にしたエコ体験プロジェクトも。古くなったタオルで植木鉢に

ここでは使い捨てのプラスチック容器は原則使用禁止で、宿泊客に提供する水にはすべてリユースのビンを使用しています。海水を淡水化してビン詰めが行われている作業場を視察すると、何と美しいクラシック音楽が流れているではありませんか。一体なぜ?「クラシック音楽の振動が水をおいしくすると日本人の研究者が発表して、それを取り入れているんですよ。私たちの身体の60パーセントが水でできているのですから、少しでも水にとっても『いいこと』ができれば、と考えてのことです」とサステナビリティー担当官のメガンさん。 いろいろな水に対する考え方があるものですね。

クラシック音楽で水にいいバイブレーションを 撮影:根本かおる

モルディブの水事情に触れて、水道の蛇口をひねればきれいな水が手に入れられることのありがたさを痛感しました。持続可能な開発目標(SDGs) の17のゴールの中では、ゴール6 がきれいな水を掲げる個別目標ですが、水は貧困撲滅、健康、農業、気候変動、海と陸の生態系などの他のゴールとの関係性の強い重要な要素です。2050年までに、世界人口の過半数と、世界の穀物生産の半分が水ストレスによるリスクにさらされることになると見られ、まさに水こそ命の基本であり、繁栄の源と言えるでしょう。

今週、3月22日の国連の定めた水の記念日「世界水の日」 と時を同じくして、3月19日から23日まで国際機関や各国の代表、研究者らが出席する国際会議「第8回世界水フォーラム」 が、「水の共有」をテーマにブラジルの首都ブラジリアで開催されています。水問題をライフワークとされていらっしゃる皇太子殿下が世界水フォーラムにご出席になり、「水と災害」に関する会合で「繁栄・平和・幸福のための水」と題する基調講演に臨まれました。

「21世紀は水の世紀であるといわれていますが、その言葉が一つ進み、21世紀は繁栄、平和そして幸福の世紀であったと後世の人々に呼ばれることになるよう願っています」と述べられるとともに、「地球規模で発生する自然の脅威に対抗するため、国際社会は結束して対処していく必要があります」と呼び掛けられました。

現時点の推計では、2030年までに淡水資源が必要量の40パーセントも不足することが見込まれ、深刻な水不足で2030年までに7億人が避難民となる可能性があります。世界の人口が急増し続け、世界はグローバルな水危機への道を一直線に進んでいます。その直撃を受けるのは、モルディブの離島の人々のように脆弱な立場にある人たちです。課題がますます大きくなりつつある中、私たちの水管理方法の転換を支援するアクションが必要だと、2018年の「世界水の日」(3月22日)から2028年を「水の国際行動の10年(Water Action Decade)」 としてキックオフします。

UNIC Tokyo Kaoru Nemoto
ラーム環礁での夕日

水は豊かさを高めるとともに、貧困撲滅・生活改善・環境保護・格差是正・健康や食料の安定確保、持続可能なエネルギーなどの面で、その付加価値は計り知れません。モルディブをはじめとする水不足の問題を抱える人々が、技術や意識改革で少しでも平穏に暮らしていけることを願っています。