シリーズ「今日、そして明日のいのちを救うために ― 世界人道サミット5月開催」(6)

緊急援助の最前線で活躍されている江崎さんに、国際官民連携による国際緊急援助活動について寄稿していただきました。

世界人道サミット(2016年5月23 - 24日 トルコ、イスタンブール)

シリーズ第6回は、国際協力機構(JICA)国際緊急援助隊事務局の江崎晴香さんです。JICAは地震や津波といった自然災害や、事故をはじめとした紛争に起因しない人的災害に対して国際緊急援助を行っています。

大規模な自然災害発生後に現地で迅速に支援を提供するには、被災国の駐日大使館やJICA事務所を通じた、迅速なニーズ把握や被災国政府との調整が行われるほか、様々な国や機関の、それぞれの支援が重複してしまわぬように、様々な努力や調整が必要です。緊急援助の最前線で活躍されている江崎さんに、国際官民連携による国際緊急援助活動について寄稿していただきました。

第6回 JICA 国際緊急援助隊事務局 江崎晴香さん

~様々なフィードバックを効果的な緊急援助へ~

江崎 晴香(えざき はるか)

1985年8月16日生まれ。2009年東京外国語大学卒業後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所法務部でインターンシップを行う。その後、イギリスのノッティンガム大学法学部で修士号取得。2012年より外務省大臣官房ODA評価室にて経済協力専門員を勤める。2014年より国連災害評価調整(UNDAC)要員としてバングラデシュ人民共和国で活動。2013年より、JICA国際緊急援助隊事務局緊急援助第二課専門嘱託にて業務調整要員として、2015年にサイクロン被害を受けたバヌアツへ国際緊急援助隊医療チームとして派遣。同年、地震被害を受けたネパール連邦民主共和国で国際緊急援助隊救助チームと同医療チームの一次隊として派遣。

世界人道サミットでは効果的な人道支援の実現がテーマの一つとして挙げられています。日本も人道支援の一環として、国際緊急援助を実施しています。援助の実施に際しては一刻も早く必要な支援が被災者に届くよう、災害発生直後から被災国の日本大使館やJICA事務所を通じた迅速なニーズ把握や被災国政府との調整が行われます。

国際緊急援助は被災国政府からの要請に基づき2国間の支援として実施されますが、支援内容については他の支援国や機関とも調整を行い、それぞれの支援に重複がないよう、また必要な支援が本当に必要としている被災者の元に届くようドナー間の連携がなされています。

加えて、支援の受入れが被災国への追加的な負荷にならないために、このような連携枠組みの中で国際支援が取りまとめられています。JICAは、より効果的な支援を実現するために、緊急援助実施の際だけでなく国際連携体制の運営や構築に対しても積極的に貢献しています。

ネパール国際捜索救助活動調整セルで国際チーム活動方針を協議する様子

JICAによる国際緊急援助

世界で発生する様々な災害のうち、JICAは地震や津波といった自然災害や、事故をはじめとした紛争に起因しない人的災害に対して国際緊急援助を行っています。具体的には、日本政府が派遣する国際緊急援助隊派遣の事務局機能や緊急援助物資の供与が挙げられ、災害の規模によって単独もしくは複数の組合せで対応しています。

また、国際緊急援助活動に関連して、国連人道問題調整事務所(OCHA)が運営する国連災害評価調整(UNDAC)システムにも人材を派遣し協力しています。UNDACメンバーは、事前に訓練を受け登録されたOCHAスタッフや各国の緊急災害支援要員から構成されており、被災直後に迅速に被災国に入り、主に被害の初期評価や国際支援の受入れや調整を担います。日本からも、大規模災害発生時にはOCHAからの要請に答える形でUNDAC要員を派遣しています。

ネパールでの捜索救助活動の様子(国際緊急援助隊救助チーム)

ネパール地震に対する国際緊急援助

2015年4月25日にネパール共和国で発生した地震は、国内に甚大な被害をもたらしました。日本は、発災当日に国際緊急援助隊救助チームの派遣を決定し、引き続き医療チームの派遣、自衛隊部隊の派遣や物資供与の実施と様々な支援を行いました。また、UNDACメンバーも派遣し、国際支援全体の調整にも貢献しました。

ネパール国際捜索救助活動調整セルにおけるチーム間の情報共有

発災直後の混乱する被災国において円滑な国際支援を実施するために、現地の調整はUNDACが運営するOn-Site Operation Coordination Centre(OSOCC)において、それぞれの支援分野毎に行われます。

OSOCCは国際支援を一括で調整することで支援受け入れに当たる被災国政府の負担を軽減するとともに、限られた支援やリソースを効果的に配置するよう調整することによって国際支援を最大限に生かすことを目的としています。国際緊急援助隊もネパール政府からの支援要請に加え、それぞれの枠組みの中で他チームと連携しながら活動を展開しました。

救助チームの調整は、各国の救助チームから成る国際捜索救助諮問グループ(INSARAG: International Search and Rescue Advisory Group)が作成するガイドラインに則り実施されます。この調整手法は約20年前に導入され、UNDACチームが全体調整を担うよう整備されてきましたが、昨今の大規模派遣の反省から国際ルールと救助活動両方の知見を持つチーム自らが調整要員を出すことによってより効率的な活動調整ができるよう見直しが行われてきました。

このような方針は2年ほど前から徐々に国際演習に取り入れられてきましたが、ネパールでは初めて実際の現場で国際捜索救助活動調整セル(USAR Coordination Cell)が各チームの調整要員によって設置されました。これまで繰り返し実施された演習の効果もあり、セルでは計76の国際チームに対し、各チームの規模や能力に沿った活動地域の割り当て、日々の活動状況の共有、ネパール政府や他の支援分野の窓口となる等、円滑な調整活動が展開されました。

患者に対して薬剤を処方する日本人隊員(国際緊急援助隊医療チーム)

医療チームに関しても、近年、活動調整枠組みの検討が進んでおり、ネパールでは救助チームと同様に医療チームの活動調整セルが初めて設置され、海外から派遣された149の医療チームがこの調整の下で活動しました。

セルでは、これらの医療支援を効果的に活用するために、規模や能力が異なる各医療チームの配置の最適化が図られました。例えば、日本は今回初めて手術や透析ができる大規模なチームを派遣しましたが、日本チームの活動拠点は周辺地域に展開する他の医療チームから重症患者を受け入れるハブとしての機能を担いました。

患者の血圧を測る国際緊急援助隊医療チーム隊員

私は、今回この医療チーム調整セルの立ち上げにも携わることができました。ネパールには国際緊急援助隊救助チームとして派遣され国際チームの調整支援に当たっていましたが、後半は国際緊急援助隊医療チームの一員として、他国チームの調整要員、UNDAC、WHO、そしてネパール政府と一緒にネパール保健人口省に初めて調整セルを立ち上げました。

次々と医療チームが入国していく中、混乱を避けるためにも迅速に効果的な調整システムをセットアップする必要がありましたが、私は日本チームの一員である立場を活かし、チームが活動上抱えていた課題に対し国際調整セルとして解決策を提供していくことによって、日本チームだけでなく国際チーム全体の活動環境の改善に努めました。

次々と入国するチームの問い合わせに追われる中での短期間での体制整理はとても忙しく、食事を取る時間も無いほどでした。活動候補地や医療用酸素ボンベの入手方法等、チームからの確認内容は多岐に及びましたが、其々丁寧に対応に当たりました。

チームの利便性や満足度を高めるよう対応に努めることにより活動開始直後から多くのアクターを調整システムに巻き込むことができたため、結果として、被災国の負担を大幅に軽減することができました。

医療チーム活動調整セルの立ち上げメンバーと保健人口省の前で

より効果的な支援のために

ネパール地震の国際支援調整については、緊急支援フェーズ終了直後から評価が開始され、今でも関係者間で改善に向けた協議や取組みが続けられています。日本も、支援チームとして、また国際調整に携わったチームとして、継続的に議論に参加しています。このように、一つの組織として様々な観点から評価やフィードバックを提供することによって、より現場活動の実態に則した国際枠組みづくりに貢献できるだけでなく、より効果的な緊急援助の実施に繋がると考えています。

私自身、現地での教訓やこのような国際的な流れを緊急援助隊の研修訓練企画に反映することによって、緊急援助隊の強化にも繋がるよう努めています。こういった積極的な取り組みを通じて、日本は国際緊急援助の実施者として、また国際調整枠組み策定のパートナーとして、今後も効果的な援助実施のために広く貢献することができると考えています。

関連リンク: JICA国際緊急援助

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