会議を活性化させる『ゲームストーミング』とは?

人事システム改善プロジェクトを任され、そのための斬新なアイデアを求めて、ゲーミフィケーションの世界で有名なスミスを訪ねた人事部課長の木山と若手社員の井島。前回は、ゲーミフィケーションの具体例と、それを職場に適用する難しさについて説明を受けた。ただし、スミスによれば、企業内でゲーミフィケーションを活かす方法もあるという。

<前回のあらすじ>

 人事システム改善プロジェクトを任され、そのための斬新なアイデアを求めて、ゲーミフィケーションの世界で有名なスミスを訪ねた人事部課長の木山と若手社員の井島。前回は、ゲーミフィケーションの具体例と、それを職場に適用する難しさについて説明を受けた。ただし、スミスによれば、企業内でゲーミフィケーションを活かす方法もあるという。

会議に活かす『ゲームストーミング』

スミス:人事制度全体にゲーミフィケーションを導入すると、それは「好きな時に参加できる気軽なゲーム」ではなく、「強制的なストレスフルな成果主義」になってしまいます。

たとえば、一つは、人単位の評価にしないで、部署全体での評価にしましょう、というやり方が一つですね。あと、ネガティヴ・フィードバックを与えるのではなくて、ポジティヴなフィードバックだけをなるべく可視化するようにすることも重要ですね。

木山:たしかに、モチベーションを下げないことに気をつかうとなると、ポジティヴなフィードバックが重要になるのはわかる気はします。

スミス:はい。もちろん、意味もなく褒めすぎても、張り合いがなくなってしまいますので、あんまりわけのわからない褒め方とかはしないほうがいいですが。

木山:褒める側の怯えが出ると、確かに見破られますね。

スミス:アジャイル開発と呼ばれるようなソフトウェア工学の一分野で、そういったノウハウが非常に発達しているのですが、なるべくチーム全体がアクティブに、楽しく開発しながら、かつプロジェクトのリスクを減らしていくような洗練された開発手法が出てきています。そして、アジャイル開発のサポートツールは、多くの場合ゲーミフィケーションツールと呼ばれる状況がありますね。

あまり、難しいものではなく、たとえば会議のやり方一つとってもいろいろな手法があったりします。

木山:おお、たとえば、いまこの場でも、何かできたりするんですか?

スミス:できますよ。たとえば、今は木山さんと私が主にしゃべっている状況で、井島さんはもしかするとちょっと退屈になってしまうかもしれない状況ですよね。井島さんの資質というよりも、立場的に発言しづらい人が増えてくる会議だと、どうしても退屈な会議というのは増えてしまいます。

会議のはじまる前であれば、まず会議の参加者数そのものを減らしてやるということができますね。

木山:井島、いま退屈か...?

井島:...あ、いえ...

木山:退屈そうだな(笑)。スミスさん、会議の人数が多いというのは、日本の大企業の悩ましい問題ですね。参加者を減らせない場合はどうすればいいですか。

スミス:会議の最中であれば、途中で退屈になりそうな人にはあらかじめ役割を与えてやるということもできます。例えば、いま、話していることを議事録にとってもらって、議事録をとっているPCの中身をプロジェクターに投影してみんなで見ながら、議論をしてみる。

それで、議事録の重要なところに太字を引いたり、議事録の魅せ方をリアルタイムで工夫しながら、議事録係をやってみると、議事録をとること自体に工夫のしがいのある役割が生まれますね。

または、ブレストのやり方などでも、本当に沢山の手法があるのですが、これは『ゲームストーミング』という、会議の方法にゲームの要素を加えるアイデア集のような本があるので、ぜひご興味があれば、読んでいただければ、と思います。

ツールの利用率をどこまで上げられるか?

スミス:また、社内コミュニケーションを活性化するために、社内SNSなどを導入してみたけれども今ひとつうまくいかない、というケースで、ゲーミフィケーションである程度の問題解決が図れる可能性があります。

木山:お、そういう話をぜひお聞きしたいですね。

スミス:たとえば、次の二つの社内SNSを比べて実験したとしましょう。

まず、あるコミュニティでは、5年ぐらい前に流行ったシンプルな社内SNSを使ってもらいます。別のコミュニティでは社内SNSの中で活発に活動しているユーザーにバッジだとか、ユーザーランキングだとかをつけて、活発なユーザーを褒めてやるとします。 すると、どちらの社内SNSがよく使われると思いますか?

木山:あー、活発なユーザーを表彰してやるような仕組みがあったほうがいいような気もしますね。

スミス:そうなんです。IBMの行った調査によれば、社内SNSの活用度をあげるためにこういったシステムを導入してやることで、二倍程度も活性化に成功したそうです。本当に簡単なバッジや、ランキングをつけただけである程度効果があがったようです。

木山:それは、ぜひうちでも試してみたいですね。

井島:でも、本当にうちで導入してうまくいくかどうか、その話、むしろちょっと不安になったのですが。うちの社が保守的なのかもしれませんが、そういうこと反発されることのほうが多そうな気が...

木山:臆病だな、井島(笑)

文化差をどう考えるか

スミス:いえ、井島さんのご指摘は重要だと思います。IBMの実験の話はいろいろと注意点もあるんですね。

まず、この実験では、アメリカの従業員と、インドの従業員を比較して調査しているのですが、アメリカの従業員はゲーム的な要素をつけたことでかなりはっきりと利用率が上がっているのですが、インドの従業員はむしろモチベーションが下がってしまっているんですね。

同じ仕組みがどこまで世界共通で通じるかというと、ちょっとわからないところは、正直あります。

木山:日本との比較はどうなんでしょうか。

スミス:まだ、社内SNSでの比較実験を行った結果はありませんが、文化心理学などで、自発的選択を行うことの満足度の文化差を調べる実験などでは、やはりアメリカ人のほうが日本人よりも自発的選択に対する満足度が高いようですね。

木山:うーん、なかなか悩ましいですね。

スミス:また、別の実験では、利用者のゲーム的な仕掛けに対するモチベーションだとか、コミュニティに対して互恵的なアクションをしようという振る舞いがみられる人たちかどうかとか、そもそもコミュニティの人数が一定以上いるかといった、そういったコミュニティそのものの性質が、ゲーム的な仕掛けの継続率に影響を与えているというデータも出ています。

つまり、ゲーム的な仕掛けの導入に適したコミュニティと適していないコミュニティがあるということですね。

ゲーミフィケーションに適したコミュニティとは?

木山:どういったコミュニティが向いている、といった傾向などはあるのでしょうか。

スミス:これについては、まだそこまではっきりとしたデータは出ていないのですが、現状で個人的に感じていることをまとめさせていただきますと、(1)雇用の流動性が高い業界、(2)ITリテラシーが高い業界、(3)比較的、社員が若い会社、(4)業務の評価を定量化しやすい、などの条件がそろうと、かなり適性が高いように思いますね。

木山:具体的に言うと、たとえばITベンチャーでしょうか。

スミス:そうですね。ITベンチャー企業などは、国内でもすでにシンクスマイル社などが、人事の制度にゲーミフィケーションをとりいれて、ある程度うまくいっています。シンクスマイルさんの場合は、独自にCIMOSという社内システムを構築しています。ソーシャル・ゲームの企業さんなどでは、すでに社内に取り入れてかなりうまくいっているというのはよく聞きます。

図:シンクスマイルのCIMOS

他には、たとえば学習塾の先生なら教え子の成績で評価ができますし、コールセンターや営業では契約数といったところでゲーム的な仕掛けをつくるだけならば問題なくやりやすいでしょう。

ただ、先ほど申し上げたように、上からの強制といった形になると、ゲームではなく、ストレスになってしまいますので注意深くやらなければいけません。あとは、アジャイル開発型のケースですね。アメリカだけで効果的というわけではなく、日本でも効果的だということは十分にあるわけです。

木山:なるほど。羨ましいという気もしますが、うちとは、そもそもの事情が違いますね。

スミス:もちろん、すべての条件を兼ね備えていないとまったくだめ、というわけではなくて、いくつかの条件を兼ね備えたところであればあるほど、効きやすいというグラデーション状の効果がある、と考えていただければいただければと思います。

たとえば、部署単位で、「うちの社のこの部署ならば、効きやすいのではないか」といったようなやり方は十分にあるだろうと思います。

木山:井島みたいな若い人間が多い部署なら良さそうですが...

井島:いや、私も年齢的な問題はともかくとして...ノリが合わない人とやるとちょっと...むしろ、盛り下がるかもしれません...。

スミス:そうですね。「ノリの共有ができるかどうか」というところだと、やはり雇用の流動性が高い環境下のほうが、ノリの近い人が集まりやすく、仕掛けもしやすいというアメリカ的な事情はやはりありますね。

木山:なるほどなるほど。しかし、そうなるとアメリカ的な雇用の流動性の高い状況下というのを目指せということになってしまうのでしょうか。

スミス:いえ、日本的なゲーミフィケーションというのはもちろん、別にありうるのだと思います。AKBが成功しているのも日本に固有の状況ですよね。

アメリカのベンチャーなどであれば、「こんなゲーム、やだよ」と思った人は、どんどんと辞めていって、社風に合う人が最終的に会社に残っているという淘汰プロセスが早く、その中で「みんな、こういうゲームやろうぜ!」って言った時に、社内のノリがよくなりやすい。

一方で、日本の企業の場合はよくも悪くも、企業のなかにいろいろな方がいらっしゃって「チッ、なんだよ、これ」という反応をする方が多いというところは確かにあります。

木山:企業内の人材の多様性は、それ自体は悪いことではないとは思ってはいるんですけれどもね...。ただ、おっしゃるように足枷になるという側面もありますからね。何か、対処法はないのでしょうか。

スミス:そうですね、少し休憩をとって、次はそのことについてお話しましょうか。

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