気候変動が私たちに及ぼす影響と解決策の提案

地球温暖化がこのまま進めば、数百年に一度しか発生しないような熱波など極端な気候現象が「新たな標準的気候」となり、リスク上昇と社会不安を招きます。

地球温暖化がこのまま進めば、数百年に一度しか発生しないような熱波など極端な気候現象が「新たな標準的気候」となり、リスク上昇と社会不安を招きます。今後の影響としては、農作物の生産高減少、水資源確保への脅威、海面上昇などが考えられ、数百万人の暮らしが脅かされるだろう、と世界銀行グループが11月23日に発表した新報告書「温度を下げろ:新たな標準的気候に立ち向かう」(英語)は指摘しています。

今世紀半ばまでに地球大気系の気温が産業革命前のレベルより1.5℃上昇することが確実となっている以上、極端な熱波といった気候変動の影響は今や回避できないかもしれないと、同報告書は論じています。さらに、大規模な緩和策を今すぐ講じたとしても、状況は変わらないだろうと続けています。

同報告書によると、劇的な気候変動と極端な気候現象は既に世界中の人々に影響を及ぼし、農作物や海岸線に損害を与え、水の安全保障を危うくしています。しかし、気温上昇を2℃未満に抑えることで、気候変動に伴い予想される影響の多くは回避可能だと、同報告書は指摘しています。

ジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は、「希望は残っています。気候変動の速度を落としつつ経済成長を促進することも、また最終的にこの危険なシナリオにストップをかけることもまだ可能です。世界のリーダーや政策担当者は、炭素価格制度など現実的な解決策の採用、さらにクリーンな公共交通、クリーン・エネルギー、工場や建物、電化製品の省エネ化への投資転換に向け、政策選択を進めるべきでしょう。」と提言しています。

世界銀行は2012年に発表した報告書(英語)で、今すぐ協調した行動をとらなければ今世紀末までに世界の気温は産業革命前のレベル(0.8℃)より4℃上昇するだろうと示唆しました。今回の報告書はさらに踏み込んで、2℃上昇と4℃上昇のパターンを想定し、ラテンアメリカ・カリブ海地域、中東・北アフリカ地域、そしてヨーロッパ・中央アジア地域の一部について、農作物、水資源、生態系サービス、沿岸部の脆弱地帯が被るであろう影響について分析しています。

同報告書は、世界銀行グループの依頼により、ポツダム気候影響調査・気候分析論研究所が作成したもので、温暖化により最も脆弱な人々の健康や暮らしが益々脅かされ、現在各地域が直面している問題を深刻化させるという現実を明らかにしています。

上記3地域全般に共通する脅威は、熱波のもたらすリスクです。同報告書は、最先端の気候モデリングを用いて、2012年に米国を、2010年にロシア・中央アジアを襲った熱波のような「極めて稀な」極端な猛暑が、気温の4℃上昇に伴い急速に増えると示唆しています。

また、この3地域においては、気温の1.5℃~2℃以上の上昇に伴い、農産物生産量の減少リスクも増大するとしています。さらに、農業生産性低下の影響は、主たる生産地域にとどまらず、食糧安全保障に深刻な影響をもたらすことになり、ひいては経済成長と開発、社会的安定、人々の暮らしにも悪影響を与える可能性があると指摘しています。

地域別概要:

ラテンアメリカ・カリブ海地域: 熱波と降雨パターンの変化が、農業生産性、水の循環や分布、生物多様性に悪影響をもたらすとされています。ブラジルでは、適応が進まないまま気温が2℃上昇した場合、2050年までに大豆で最大70%、小麦で最大50%、生産量の減少を招く恐れがあります。海洋酸性化、海面上昇、熱帯低気圧、気温変化が、特にカリブ海地域で、沿岸部の人々の生活、観光業、保健、食糧と水の安全保障に影響を与える可能性が指摘されています。また、氷河が融解すれば、アンデス地域の都市が大きな危険にさらされることになります。

中東・北アフリカ地域: 熱波の頻発により平均気温 が上昇すれば、それでなくても乏しい水資源がさらに大きな脅威にさらされるでしょう。その結果、人々の消費と域内の食糧安全保障が深刻な影響を被ります。ヨルダン、エジプト、リビアでは、気温が1.5℃~2℃上昇した場合、2050年までに農産物生産量が最大30%減少すると見られます。また、人々の移動と、気候変動による水資源や食糧の不足に伴い、紛争のリスクが高まる可能性もあります。

西バルカン・中央アジア地域: 気温上昇幅が4℃に近づくにつれ、一部では水不足が発生するでしょう。中央アジアでは、氷河が融解して河川に水が溶け出す時期がずれ、夏季の水不足や集中豪雨のリスクを高める恐れがあります。またバルカン諸国では、干ばつのリスクが高まり、農作物生産量、都市の保健衛生、エネルギー生産に影響を与えるでしょう。マケドニアでは、気温が2℃上昇した場合、2050年までにメイズ(白トウモロコシ)、小麦、野菜、ぶどうの生産量が最大50%減少すると見られます。

同報告書はまた、地球温暖化がこのままのペースで続けば、大規模な変化が誘発され、修復不可能な事態を引き起こしかねないと警告しています。ロシア北部では、森林の立ち枯れと永久凍土の融解により、貯蔵されている二酸化炭素とメタンガスが大気圏に放出されて地球温暖化がさらに進み、悪循環が自己増幅する危険があります。気温が2℃上昇した場合、ロシア全土のメタンガスの排出は、2050年までに20%~30%増加する可能性があります。

「報告書は、増加の一途を辿る温室効果ガスの排出をこのままにしておく訳にはいかないと明確に指摘しています。世界のリーダーたちは、クリーンな成長と気候変動に強い開発に向けて、いかに経済の舵取りを行なうか決断を下さなければなりません。現在の状況を反転させるためには、技術、経済、組織・制度、行動の各分野において実質的な変化が緊急に求められています。経済開発と気候保護は互いに補完し合うことが可能です。その実現に向けて、政治的意思が求められています。」と、世界銀行グループのレイチェル・カイト副総裁兼気候変動特使は述べています。

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