エボラ出血熱の経済的影響――感染を恐れる人々の「恐怖心」も大きな要因

世界銀行グループは9月17日、エボラ出血熱の経済的影響に関する報告を発表しました。報告は、最も深刻な影響を受けているギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で、集団感染がさらに続いた場合、各国経済に及ぼす影響は8倍に膨れ上がると指摘しています。
World Bank Group

世界銀行グループは9月17日、エボラ出血熱の経済的影響に関する報告を発表しました。報告は、最も深刻な影響を受けているギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国で、集団感染がさらに続いた場合、各国経済に及ぼす影響は8倍に膨れ上がると指摘しています。

また、同報告は、感染の中心である3カ国の経済に及ぼす影響を2つのシナリオを用いて推計しています。「感染率低位推計」シナリオは、封じ込めが迅速に行われた場合、「感染率高位推計」シナリオは、封じ込めが遅れた場合の推定値です。

分析では、エボラ出血熱による経済への短期的影響は、ギニアではGDP成長率が2.1%ポイント減(成長率は4.5%から2.4%に低下)、リベリアでは3.4%ポイント減(同5.9%から2.5%に低下)、シエラレオネでは3.3%ポイント減(同11.3%から8%に低下)としています。こうしたGDPの損失額は総額3億5,900万ドルに相当します(2014年価格基準)。一方、エボラ出血熱の封じ込めが遅れた場合のGDP損失額は3カ国合計で推計8億900万ドルに上ると予測されています。最も大きな打撃を受けたリベリアは、「感染率高位推計」のシナリオでは、2015年のGDP減少率が11.7%ポイントに及ぶ(6.8%のプラス成長から4.9%のマイナス成長へと転落)と推計されています。

GDPに与える損失額:各国別および3カ国合計

感染を恐れる人々の「恐怖心による行動」が起因

同報告はまた、今回の危機がもたらしている最大の経済的影響は、直接的要因(死亡率、罹患率、看護、さらにこれに関連して喪失した労働日数など)ではなく、むしろ感染を恐れる人々の「恐怖心による行動」に起因しているとしています。これは、他者との接触を恐れるあまり、就労率が低下し、さらには職場の閉鎖や輸送への影響が広がり、ひいては一部の政府関係者や民間企業による港湾・空港の閉鎖を誘発するといった連鎖反応を引き起こすからです。こうした人々の行動による影響は、感染症が及ぼす経済への影響のうち、最大80~90%を占めると分析されています。

世界銀行グループのエボラ出血熱対策

世界銀行グループは、エボラ出血熱の影響を最も受けた3カ国に対して、これまでに4億ドルの支援を表明しています。これには、医療従事者の増員や物資購入といった感染封じ込めのための緊急援助の他、保健医療システムの強化など中長期的な支援が含まれます。また、これまでにユニセフと共にリベリア、シエラレオネに、保健用品、医療従事者のための防護服や器材、衛生用品などを空輸しています。

自らも感染症の専門家であるジム・ヨン・キム世界銀行グループ総裁は、ハーバード大学 国際保健社会医学部のポール・ファーマー教授とともにワシントンポストに寄稿(日本語)し、エボラ出血熱の流行を食い止めるためには適切な緊急対応が不可欠だとして、世界保健機関(WHO)のエボラ出血熱対策ロードマップに沿った協調的な支援を国際社会に呼びかけています。

支援の最前線では、日本人職員も活躍しています。馬渕俊介アフリカ地域総局保健スペシャリストは、エボラ出血熱拡大を阻止する世界銀行プロジェクトのチームリーダーとして、現在ワシントン本部で日々奮闘しており、一番大きな課題は、「限られた資金を最も効果的・効率的に、そして最も早く提供するための見極めと政府やドナーとの調整、実施体制の構築だと述べています。 詳しくは、「エボラ出血熱に対する世界銀行の支援」をご覧ください。

・世界銀行のエボラ出血熱への支援ファクトシート(英語)

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