原油安が新興国に恩恵をもたらし、財政政策実施や構造改革推進の好機に

原油安は2015年も続き、石油輸出国から石油輸入国へと実質所得が大幅に移ることが予想されています。
世界銀行グループ

世界銀行グループは、毎年1月と6月に「世界経済見通し(GEP)」を発表し、世界経済成長率や途上国への影響を予想していますが、本日、1月14日(日本時間)に刊行される最新版に含まれる原油安についての分析を発表し、石油を輸入する途上国は、力強い世界的成長の下支えが伴えば大きな恩恵を享受できるだろう、と指摘しました。

原油安は2015年も続き、石油輸出国から石油輸入国へと実質所得が大幅に移ることが予想されています。多くの石油輸入国にとって原油価格の低下は、成長に寄与すると共に、インフレ圧力や外圧の軽減、厳しい財政状況の緩和にも役立ちます。

一方、主な石油輸出国にとって原油安は、成長鈍化の恐れ、財政悪化、対外資産残高の低下など、深刻な弊害をもたらします。また原油安が続いた場合、新規の石油探査や開発のための投資にも悪影響を与えかねません。特に、一部の低所得国向け投資や、シェールオイル、タールサンド、深海油田といった非在来型資源への投資に水を差すことになるでしょう。

「石油輸入途上国の政策担当者にとって原油安は、財政政策の実施や構造改革の推進、社会プログラムへの資金供給の好機をもたらします。他方、石油輸出国は、原油価格の急落により、経済活動が単独のセクターに極度に集中した場合につきものの深刻な脆弱性や、石油に依存しすぎず中・長期的に経済を多角化する取組み促進の必要性を改めて痛感する事となるだろう」と、世界銀行のアイハン・コーゼ開発見通し局長は述べています。

今回のGEPには、原油価格に関する分析の他、世界貿易と送金フローの動向が途上国にどのような影響を与えているかについても盛り込まれています。

■世界貿易-景気循環要因と長期的要因が共に脆弱

2012年と2013年、世界貿易の伸び率は、世界金融危機以前の年間平均成長率7%を大きく下回る3.5%未満にとどまり、途上国の成長の足かせとなっています。

特に投資需要の低迷は、消費者需要の低迷と共に、貿易拡大を失速させた主原因の一つです。世界の輸入の約65%を占める高所得国の経済が危機から5年経ってもなお低迷している現状は、需要低迷が世界貿易の回復に引き続き悪影響を及ぼしていることを示唆しています。一方、貿易と所得の相関関係の変化といった長期的動向も貿易拡大失速の原因に挙げられます。具体的には、グローバル・サプライチェーンの拡大減速と、貿易特化度の高い産業から貿易特化度の低い民間・公共消費への需要シフトを受けて、世界貿易が世界所得の変化とこれまでほど連動しなくなっていることが挙げられます。

本分析は、貿易を左右するこうした長期的要因が今後の貿易の流れを決定する、と指摘しています。仮に、予想通り世界的に成長が回復しても、危機以前のような貿易フローの急拡大は考えにくいでしょう。

■ 送金が消費安定化をもたらす可能性も

もう一つの特集である送金フローについては、多くの低・中所得国に対する送金フローは、対GDP比で大きな割合を占めるだけでなく、海外直接投資(FDI)や対外援助に匹敵する額に上る、としています。2000年以降、途上国向けの送金は、海外直接投資総額の平均約60%を占めてきました。多くの途上国にとって、送金は単独では最大の外貨獲得源となっています。

分析によると送金は、かなりの金額に上るだけでなく、金融市場が不安定な時にも、他の資金フローよりも安定しています。例えば過去に、資金フローが突然平均14.8%激減した際にも、送金は6.6%増加しました。送金フローはこのように安定しているため、マクロ経済のボラティリティに見舞われがちな途上国において消費の安定化に役立つだろう、と本分析は結論付けています。

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