ラモス瑠偉の血を騒がす『伝統の一戦クラシコ』のみどころ

果たして運命の一戦をものにしてリーグ優勝へと突き進むのは、どちらのビッグクラブなのか。

今季、リーガ・エスパニョーラの優勝争いに直結する重要な曲面で迎えることになった"クラシコ"を目前に控え、WOWOWでは以前にも増してパワフルになって、大病からの復活を遂げたラモス瑠偉氏をお招きし、伝統の一戦のみどころを存分に語って頂いた。

長足の回復を遂げているとはいえ、「過度の興奮はNG」とドクターストップのかかっているラモス氏だが、ひとたびサッカーの話が始まると、熱血漢の目は爛々と輝きを増し、その口調は次第に興奮の度合いを増していった。

時期的にも状況的にも、『天王山』の様相を呈してきた今回のクラシコについて、ラモス氏は「今のバルセロナを見ていると、この試合に対する意識がものすごく高い。絶対、レアルに勝って優勝してやるという雰囲気がある」と、バルセロナの士気の高さをポイントに挙げた。

一方、レアル・マドリードについては、「試合に勝ってはいるけれど、内容は全然良くない。そんな状況でジダンがどこまで"クラシコ"へ向け立て直せるかがみどころ」と分析。

「今回はレアルのホームゲームだし、もちろん、サポーターの作り出す雰囲気にも注目していますよ」と、スタジアムを包む"クラシコ"特有の空気もみどころのひとつであると指摘した。 月並みながら、「注目選手は?」という質問をぶつけると、「バルセロナはマスチェラーノ。レアルはカゼミーロ」と、即答で玄人目線のチョイス。

「バルセロナの3バックはよっぽど頭の良い選手でないと成立しない。ラインの上げ下げのタイミングやスライドのタイミングが素晴らしい。特にマスチェラーノはゲームの読みがすごいと思います。彼はボランチでもプレーできるし、1対1も強いし、とにかく頭の良い選手ですね。バルセロナは前の3人に目が行きがちだけど、後ろの3人の動きや守り方に注目すると、この"クラシコ"はより楽しく観戦できると思いますよ」。

一方、「3、4年前から、間違いなくブラジル代表入りする逸材と見ていた」と語るカゼミーロについては、「去年、ジダンが彼を真ん中にドンと置いてからレアルは安定したけれど、彼のポジショニングと1対1の強さは、多分、今世界でナンバーワンじゃないかと思いますね」と激賞。

「彼はレアルの心臓です。彼がいるかいないかで、レアルは全然違うチームになる」と中盤の番人の重要性を強調した。 仮に、「この"クラシコ"で誰かに乗り移ってプレーできるとしたら」、という問いには、「間違いなくカゼミーロです」と間髪入れずに断言。

「今のメッシは誰にも止められないというけれど、何のためにファウルがあるの?何のために『削る』という言葉があるの?確かにスペースを与えたらメッシは誰にも止められない。だから、抜かれても次の選手が止めてくれるだろうという意識では駄目なんです。私だったら(カゼミーロに乗り移って)メッシを潰しにいきますね」と、ピッチ上で目の前に対峙するメッシを想像してか、トークは俄然、熱を帯びる。

中盤の選手としてメッシを『使う側』ではなく、ガチンコで『対戦する側』の目線で語るラモス氏の眼差しは真剣そのものだ。そして、話は自身の現役時代の経験に及ぶ。 ラモス氏の現役時代、日本サッカーで"伝統の一戦"といえば、即ちヴェルディ(読売ク)対マリノス(日産自動車)だった。

特にライバル意識の高かった対戦についてラモス氏は、「お互い認め合っているクラブ同士で、日本のサッカーを引っ張っているのは自分たちだという自負があったから、とにかく負けたくない試合だった」と当時を振り返った。

「選手同士もお互い仲は良かったし、認め合っていたけれど、だからこそ絶対に負けたくなかった。私もマリノス戦となると、中心選手だった『(木村)和司を潰せ』とか言っていましたね(笑)。それに自己管理は半端なかった。1週間前から外にも出なくなる。そこまで意識してやっていましたね」。

言うまでもなく、ラモス氏がカゼミーロに乗り移って"クラシコ"でプレーすることはない。となると、カゼミーロ自身、経験値の低い"クラシコ"で、どこまでラモス氏の熱く語る"意識の高さ"を持っていけるかが、レアルにとって重要な鍵を握ることになりそうだ。

また、ラモス氏といえば監督としての顔も持っているわけだが、『監督・ラモス瑠偉』にとって、クラシコで対戦する両指揮官はどのように映っているのだろうか。

「ジダンは結構、選手たちに自由を与える監督。ルイス・エンリケはどちらかというと戦術にこだわるタイプですね。(バルセロナは)前の3人がファーストディフェンダーになって、後ろのボランチが高い位置に上がって4人でポーンとボールを取りにいく時もあるし、ネイマールが引いて守ったりする時もあるし、そういうところから、戦術にこだわっている部分が見えます。ジダンは個人の能力を活かそうとするタイプです。どちらも魅力的な監督だと思いますよ」。

では、自身はどちらのタイプなのか。 「ジダンです。ただ、選手に自由を与えるといっても、古い言葉になりますが、『約束事』は大切ですね。どこで網を張るとか、下がるべき時は下がって守るとか、そういう約束事は守ってもらわないと困る。自分を犠牲にしなければならない時もありますから。ただ、そういう約束事さえ前提にあれば、選手には自由にやらせたい。ルイス・エンリケはそういう自由度が(ジダンに比べると)少ないですね」。

そんな両指揮官が相見える天王山。ラモス氏は、「ファンとしては3-3みたいな(拮抗した)試合が見たいけれど、バルセロナの意識の高さや、最近のレアルのパフォーマンスを考えると、バルセロナが勝つのでは」と、バルセロナ優位の"クラシコ"を予想。「ここのところ、レアルは全体的にパフォーマンスが落ちていて、中盤でミスが多い。それにベイルやベンゼマは何もやっていない」と首位を走る"エル・ブランコ"を厳しく評した。

「前半30分までにバルセロナが1点取れば、4-1でバルセロナが勝つと思います」。 では、その勝敗予想を前提に、自身がレアルを率いるのではあれば、どのようなゲームプランでバルセロナに立ち向かうのかと聞くと、「柱谷にメッシを削らせて、ハーフタイムで交代させます」と笑みを浮かべながら大胆なプランを提示したラモス氏。

「冗談ではなく、勝ちたいのであれば、そういう駆け引きは大事。私はこのクラシコではコヴァチッチを使うべきだと思います。カゼミーロとコヴァチッチを同時起用してメッシを潰しにいきます」。

相手のストロングポイントを如何に無効にするかを起点として、勝利を逆算する方法論は、サッカーの戦術におけるスタンダードのひとつである。それを踏まえた上で、ラモス氏はカゼミーロとコヴァチッチの同時起用でインテンシティを高めようと言うのである。この対メッシを見据えた中盤の構成で、ジダンがピッチ上にどのような解答を出すのかは見物といえそうだ。

さて、"クラシコ"でのバルセロナ優位を予想するラモス氏は、シーズン自体もバルセロナが逆転で優勝すると考えている。

「ジダンは試合内容の良くない今の状況を立て直すだけの能力は持っていると思うけれど、レアルはコヴァチッチを抜かすとベンチに誰もいない。(スタメンと控えの)差が激し過ぎると思います。センターバックのどちらかが欠けてペペが入ると、凄い差が出る。それにマルセロがいないと左サイドは大変なことになります」とラモス氏は、レアル・マドリードベンチの層の薄さに、バルセロナ逆転優勝の筋書きを見出している。

このインタビューが行われた数時間後、レアルがアトレティコとのマドリード・ダービーを引き分け、バルセロナがマラガ戦を落としたことにより、優勝争いの形勢はバルセロナが更に不利な状況で今度の"クラシコ"を迎える展開となった。

今回、クラシコの勝敗予想に際し、「私の勘はよく当たる」とにこやかに言い切ったラモス氏。早く皆に元気な姿を見せたいという信念のもと、厳しいリハビリを克服し、短期間で我々の前に再び姿を現した男の言葉には、不思議な説得力があった。果たして運命の一戦をものにしてリーグ優勝へと突き進むのは、どちらのビッグクラブなのか。キックオフの時間は迫っている。

■『伝統の一戦クラシコ』はWOWOWにて現地より生中継!

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