元日本代表・大畑大介が語る五郎丸歩がフランスで活躍できる可能性

テストマッチ通算69トライの世界記録を持つ、日本が誇る「世界の翼」WTB大畑大介。なぜ、絶頂期にあった大畑氏はフランスを選択したのか。

テストマッチ通算69トライの世界記録を持つ、日本が誇る「世界の翼」WTB大畑大介。そんな大畑氏も、フランス1部リーグへのチャレンジを試みた日本人選手の一人だった。

なぜ、絶頂期にあった大畑氏はフランスを選択したのか、そしてフランスで何を得たのか。また、現在の「TOP14」の状況や、日本代表FB五郎丸歩選手が活躍できる可能性など、日本のラグビー界を長い間、牽引してきた大畑氏が多岐に渡って熱く語ってくれた。

■ポジションを保証されない新しい環境を求めてフランスへ

――2002年、大畑さんは「TOP14」で昨シーズン、リーグ戦1位となったクレルモン・オーヴェルニュ(以下クレルモン)でプレーしました。どうしてフランスでプレーしようと思ったのでしょうか?

大畑:1999年ワールドカップで1勝もできず悔しい思いをして、次の2003年ワールドカップは、自分のラグビー選手としてのピークになると考えていました。だから、この4年間を有意義に使おう、環境を変えようと思いました。それで、オーストラリアに行ったのですが、1年を通してラグビーがしたかった。もちろん、プロのチームでやりたいというのもありましたね。

今みたいに、日本人選手が海外に行く環境が整っていなかったので、自分で探して、知人に連絡してもらったりして、まず「練習に行かせてほしい」とお願いしたんです。人気チームだったクレルモンは、タイヤメーカーのミシュランの本拠地ですが、小さな街でした。だからラグビーに対する熱をすごく感じました。ファンの声援もすごかったですが、その分調子が悪いと厳しかったですね。

――手探りの状態でフランスに行かれて大変な思いはありましたか

僕は自ら新しい環境を求めてフランスに行きました。そういったものに適応できなければ行くべきでないと思っていたので、その点では苦労したことはありません。オーストラリアにいたこともあって、数少ないコミュニケーションでもやっていけるとわかっていましたし、文化が違うのも当然だと思っていました。

ただ、当時はなかなかビザの関係もあってプロ契約ができず、試合に出られなくて「しんどいな」と思ったことはあります。それでも、いい経験でした。日本にいたときはポジションが確約されていたので、ケガじゃなければレギュラーで試合に出れていました。それが簡単に試合に出られなくなって、また新しいモチベーションが出てきましたね。

■練習からトッププレーヤーたちと肌を合わせられる恵まれた環境

――具体的にフランスのどんな経験が、ご自身にとってプラスになりましたか?

自分はずっとラグビーをやってきたので、スキルとか、そういう部分ではなかったです。ただ、今もそうですが、クレルモンは強豪なので、フランス代表選手も多く在籍してチームのレベルが高かった。そういう環境でやりたかったので、練習ひとつで張りを感じましたね。

若いときの僕は、プレーのデキに幅がある選手でした。だけど、フランスに行けば僕のことを知らない状況に置かれます。常に高い水準で気持ちを作って、ラグビーを100%やらないといけない環境でした。

周りは当たり前ですが、みんなプロ、つまりラグビーで飯を食っているという緊張感がありました。常にセレクションされているみたいな感じだったので、精神的にも幅が出なくなり、その後のプレーの安定に繋がったんじゃないでしょうか。そういうところも楽しかったですね。

――実際に肌で感じたフランスのラグビーの特徴はどんなことがありますか?

一言で言うと、純粋に激しいラグビーです。選手の気性も荒いし、練習の時もテンションが高く、良い時悪い時の波が激しく、気持ちを前面に押し出していました。フィジカルも強いですが、熱くなってしまって、相手を引っ張ったり、足を出したり、言ってみれば少しダーティなことを練習の時からやっていましたね。

――改めてご自身の経験を振り返ってみるとどうお感じですか。

やはり、フランスに行って良かった。当時はなかなか日本のラグビーが評価されていなかったので、自分が日本代表を背負っているということを改めて感じることができました。だから日本に戻ってきて、さらに日本代表に対する意識も高くなったし、自分が選手として必要とされることに喜びを感じるようになりましたね。

■クールな五郎丸が熱く戦ってくれることに期待

――今シーズンから日本代表FB五郎丸歩選手がRCトゥーロンに加入しました。

僕らの時代はワールドカップが選手としてひとつの区切りという感じでしたが、去年のワールドカップが終わって、今、日本人選手には海外でプレーするという新しいモチベーションができたのではないでしょうか。すごく羨ましいし、ありがたいことですよね。

RCトゥーロンは世界のトップ選手が集まるチームで、そのメンバーに入ることは大きなステータスです。そういう意味では、五郎丸選手は、選手として一定の評価を得て、ヨーロッパのトップレベルのチームという環境でプレーできる初めての日本人とも言えると思います。

五郎丸選手の活躍が日本人選手の評価に繋がっていくと思いますし、彼に続く選手も出てくると思うので、いいパフォーマンスをして、次の世代のモチベーションを上げてほしいと思う。さらにラグビーだけじゃなくて、日本のスポーツ選手全体の可能性を上げてくれれば嬉しいですね!

――そんな五郎丸選手にアドバイスするとしたら何かありますか?

僕がいた時のクレルモンには、WTBオレリアン・ルージュリーをはじめ、バックスのほとんどがフランス代表というくらいのハイレベルでした。そんな選手たちと毎日練習でぶつかれる、こんな素晴らしい環境はなかったですね。

だから、五郎丸選手が加入するRCトゥーロンも同じだと思います。今や、オールブラックス(ニュージーランド代表)やワラビーズ(オーストラリア代表)の選手も多く在籍し、そこからハイレベルな選手が試合に出る。

五郎丸選手が日本にいた時は、当然のように試合に出られたのが、またポジションを取りに行かなければならない環境なので、新たなモチベーションになるのではないでしょうか。純粋にラグビーに集中できると思います。普段の練習でもタフな戦いを感じられる環境にいるので、猛者を倒してレギュラーになってほしいですね。

――五郎丸選手が「TOP14」で活躍するためのポイントは何だと思いますか?

FBに求められるものが南半球と違うので、北半球の方が五郎丸選手のスピードが生かせると思います。また、気候の面もありますが、キッキングゲームが増えることも彼にとって向いていると思っています。試合数も多いので、カップ戦含めて出場機会も増えるのではないでしょうか。

――ただ、本人も険しい道と言っている通り、同じポジションにはウェールズ代表のリー・ハーフペニーがいます

その通りです。ハーフペニーは体が大きくないですが、アグレッシブで、キック、ラン、ハイボールのキャッチ、それにディフェンスもいけるし、FBとしての総合点の高い選手です。五郎丸選手のライバルではありますが、日本の子どもたちに見てほしいし、僕自身もWTBとして一緒にやってみたいと思うFBの一人です。

一方で五郎丸選手のFBとしての長所は安定感だと思います。後ろで構えながらプレーしてチームの信頼を勝ち得ることが必要です。ひとつのビッグプレーで黙らせるような選手ではないですが、キッキングや、相手のキックに対して後ろを取られないポジショニング、そして何と言ってもプレースキックの得点力があります。

少し時間はかかるかもしれないですが、そういうことを積み重ねてベースを作っていけばいい。日本にいた時と違って追いかける立場なので、プレッシャーを感じず、チャレンジできる余白があります。普段はクールな五郎丸選手ですが、フランスに行って熱くなれば、魅力も上がるし、より選手として幅も広がると思います。

――そんな五郎丸選手も在籍する「TOP14」の試合が、いよいよ日本でも放送されます。注目すべき点、みどころを教えてください。

何と言っても世界のトップレベルの選手が集まっています。こんなチームにこんな選手がいるのか、と思いながら見るのが楽しいのではないでしょうか。

それから、ラグビーのプレーもそうですが、北半球、南半球、あるいは国によってラグビーを見るファンの環境に違いがあることを知ってほしいですね。日本ではラグビー観戦は静かにおとなしく見るものというイメージがありますが、フランスは熱狂的で、鳴り物を鳴らしながら応援しています。そういうファンやスタジアムの雰囲気にも注目してほしいですね!

いよいよ8月20日(土)に開幕する「フランスリーグ TOP14」はWOWOWにて五郎丸歩選手が所属するRCトゥーロンの試合を中心に年間57試合放送予定。

■詳しくは、WOWOWラグビーオフィシャルサイトをチェック!

http://www.wowow.co.jp/sports/rugby/top14/

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