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2017年12月28日 10時05分 JST | 更新 2017年12月28日 10時05分 JST

セミナー報告:ASC認証の今と企業に求められる役割とは

ASC(水産養殖管理協議会)認証とその広がり

2017年11月16日、中央大学駿河台記念館において、「ASC認証の今と企業に求められる役割」と題したセミナーを開催しました。ASCは、海の環境保全に配慮して行なわれる養殖業を認証する、国際的な制度。2014年にノルウェー産サーモンが国内の大手量販店で販売されたのを皮切りに、2016年には宮城県南三陸町のマガキ養殖がASC認証を取得するなど、日本でも認証取得に向けた取り組みが進んでいます。今回のセミナーでは、その現状と今後の拡大の可能性、そしてさらなる普及のための課題や取り組みについて意見交換が行なわれました。

ASC(水産養殖管理協議会)認証とその広がり


世界の食を支えるシーフード(水産物)などの養殖業。 今、その規模は、世界の水産物の半分を供給するほどまで規模が拡大しています。

しかしその一方で、養殖魚の餌として利用される天然魚の乱獲や、薬品、食べ残しの餌、廃棄物などによる海洋の汚染、さらに逃げ出した養殖魚などが外来生物となり、在来の自然環境を脅かす問題が、各地で引き起こされています。 そうした問題を改善してゆくため2010年、「ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)」が、設立されました。 ASCの認証とは、自然環境への悪影響を最小化し、労働者の人権や周辺地域との連携に配慮し、厳格な審査に合格した養殖場に与えられる第三者認証で、その養殖場で生産された水産物には「責任ある養殖管理のもと育てられた」証としてASCマークが表示されます。

今回、WWFジャパンが主催したセミナーでは、このASC認証の現状と今後の普及拡大に関係する4題の話題提供を踏まえ、関係者の協力を得ながらどのように現状を改善していくのかについて意見交換を行ないました。 当日は、ASCジャパンの担当のほか、養殖の改善に取り組む学識経験者、さらに海外で環境に配慮した養殖魚などに与える飼料製造に携わる企業の関係者など、さまざまな立場で今後の養殖に関わる方々が登壇。

最後のパネルディスカッションでは、ASCの国内でのさらなる普及をどのように実現していくのかについて、議論を行ないました。 養殖は日本としても重要な産業の一つであり、環境への影響という視点からも今後、改善の取り組みが強く求められる分野です。

WWFジャパンでは、多様な関係者とさらなる協議をしながら責任ある養殖の普及とASC認証取得の拡大を支援していきたいと考えています。

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●ASCの現状と今後の方針 ASCジャパン 山本光治氏

ASCが設立されたのは2010年(本部オランダ)で、これまで日本語での対応窓口は限定的でしたが、今年9月より正式にASCジャパンが発足。ジェネラルマネージャーの山本光治さんに、ASCの現状と今後の展開についてお話いただきました。

山本氏によると、2017年11月1日現在、36ヶ国539の養殖場で認証が取得されています。特にサケ類の増加が著しく、世界のサケ類生産量の24%を占めるまでシェアが拡大しています。認証製品を取り扱うCoC認証の取得企業数も増加しており、日本は47社で258商品が登録され、昨年度同時期と比較しても増加しています。 ASCではマーケットや関係者の需要に応じ、2017年中に新たに海藻(天然も含む)、マダイ、ヒラメ、ハタ類などの基準が確定、公開される他、2018年までにはマグロについても基準策定に着手する予定です。

さらにはASC基準が定める要件の中でも課題が多いとされる飼料原料の持続可能性や産地証明については、飼料製造企業向けの認証基準で対応することとしています。

●ブリ類ASC認証取得に向けた国内生産者の動き 愛媛大学 井戸篤志氏

ASCブリ・スギ類基準は2013年に東京と鹿児島で開催された関係者円卓会議を通じて、2015年に発行されましたが、現在の養殖生産工程と基準との間には複数の課題があることが判明したため、関係企業団体も含めたイニシアチブの発足が関係者間で合意されています。

イニシアチブのコーディネーターを務める愛媛大学の井戸篤志さんに現在の状況をお話いただきました。 井戸氏によると、ASC認証取得に向けた重要課題のひとつが、飼料に含まれる魚粉魚油の使用率です。ASC基準では飼料原料用に漁獲されるカタクチイワシなどの過剰漁獲を防止するため、それらの天然魚由来の魚粉魚油の使用率に関する要件を設定していますが、段階的に厳しくなり、対応は更に困難になると予測されています。

日本でもすでに2社がASCの認証審査に入っている他、4社も認証取得に向けた準備または検討を開始していますが、当面の出荷量は少量と予想されています。ASC認証取得拡大のためにも、生産者同士が連携して課題解決を進める必要があります。

そこで参考にしたのがグローバル・サーモン・イニシアチブです。これは世界の12のサケ養殖企業が中心となる共同体です。関連企業や団体の協力を得て、養殖事業の持続可能性を向上させるとともに、社会的貢献や養殖サケの普及拡大を目指し、2013年に発足しました。現在サケ類でASC認証を取得した養殖場の約6割がこのイニシアチブメンバーによるものです。現在、日本のブリ生産者が中心となった類似の枠組みの設立準備を進めており、5社の参加が決まっています。

●ニュートレコ/スクレッティングにおけるサステナビリティ管理 ニュートレコ ホセ・ヴィラロン氏

飼料製造における持続可能性はASC基準の中でも重要な要件となっています。養殖産業の持続可能な発展のため、先駆的な取り組みを進める飼料製造企業のひとつが、ニュートレコグループのスクレッティング社です。

ニュートレコでサステナビリティの統括管理を行うホセ・ヴィラロン氏に取組状況をお伺いしました。ヴィラロン氏によると、ニュートレコは35ヶ国に100ヶ所以上の製造拠点を持つ、水産飼料および畜産栄養の製造企業で、近年の天然資源の枯渇と食料需要の増大に対し、革新的で持続的な栄養ソリューションを提供し続けることをミッションとしています。 近年では、情報化社会の発達から企業活動には高い透明性が求められています。環境汚染や資源枯渇への取り組みだけはなく、薬剤耐性菌問題や労働者の人権問題や児童労働など企業としての在り方により厳しい目が向けられており、責任を果たせない企業は糾弾されその業績を大きく悪化させる可能性があります。ニュートレコではサステナビリティをひとつの柱と位置づけ、ヒト、環境、経済的成果に関する明確な目標とそれらの達成度を測定するための基準を定めています。

●責任ある養殖の普及に向けた企業の役割 WWFジャパン 三沢行弘

国際的な法規制の強化、サプライチェーンでの強制労働問題、持続可能な水産物への消費者意識の向上を受け、水産関連企業の社会的責任は年々高まっています。そのような中、ASC認証をツールとして使い、水産物の調達企業が認証取得を支援する例が出てきました。WWFジャパンで企業コミュニーケーションを担当する三沢行弘が紹介しました。

一定期間を目処にASC認証を取得するため、自然や社会環境に配慮して計画的に生産工程を改善させる活動を、AIP(Aquaculture Improvement Project:養殖業改善プロジェクト)と呼んでいます。AIPの推進には、生産者に加え多様な関係者が参加することが必要で、特にサプライチェーン上の企業からの参画が期待されています。 調達企業が生産者に認証取得を働きかけることは、生産者の改善意欲を促し、長期的な取引へのコミットや人的・資金的サポートが得られれば改善プロセスは加速します。

AIPの導入は環境や社会的リスクを削減しつつ、生産者と調達企業双方にビジネス上の便益をもたらすことで、事業の継続性を向上させます。AIPにはいくつかの要件があります。期限を定めて養殖業がASC認証取得レベルの持続可能性に達するためのワークプランを立て、進捗報告も含め対外的に公表すること、そしてサプライチェーン上の参加企業の参加と投資です。

インドネシアのブラックタイガー養殖の事例では、現地調達企業であるMMA社がASC認証を目指した際、取引関係にあったニチレイフレッシュがAIPに参画し、労働条件を含めたエビの生産工程の改善やマングローブ林の保全活動に加えて、トレーサビリティシステムの確立などを行い、2017年8月にインドネシアとしては初となるASCブラックタイガーが誕生しました。

パネルディスカッション「ASC認証の普及拡大のために求められる取り組み」


日本国内でもASC認証への関心は高まっており、認証製品を取り扱う企業数、品目数も年々増加しています。認証を取得した国内養殖場は未だ宮城県南三陸町のカキ養殖のみですが、ブリ類でも3件が審査・申請中と今後拡大すると予想されています。

しかしながら関係者からは様々なASC認証に関する課題が指摘されていることから、それらと向き合いつつもどのように対処し、責任ある養殖業への転換を果たしていくのかについて意見交換を交わしました。 愛媛大/井戸氏「生産現場では、認証取得かかるコストに対する付加価値・利益が少ないということ、そして認証基準に合わせると、現状では成長効率や美味しさといったものを犠牲にしてしまうリスクがあります。ただし、2016年ASC認証を取得したサケ養殖場を訪問した際、『多大なる費用はかかっているがASC認証からそれ以上の利益を得ている』との話を聞いており、責任ある養殖に対する実施体制が整っている地域では状況が異なるようです。

日本でも生産者だけではなく、販売店、飼料・医薬品メーカーも含め、今までの役割範囲を超えた協力体制が重要だと思います。」 ニュートレコ/ヴィラロン氏「海外のサーモン養殖では、一定の区域内の生産者同士が連絡協力体制を強化し、例えばある生け簀で魚病が発生した場合はその日のうちに関係者に通達され対策をとれるようにしています。また魚病の発生防止のために、ストレスの低減、養殖密度の低減、健康的な飼料などを協働して改善する包括的なアプローチを採用しています。

サーモン養殖では長い歴史の中で失敗を繰り返し、高密度大量生産型から低密度で健康的な養殖生産へと切り替えることで利益を得るようになったのです。」 ASC/山本氏「ASCは認証制度を通じて環境と社会の問題を解決することを目標としています。ASC基準は不変のものではなく、関係者からの意見を参考に定期的に改定しているので、意見や情報を積極的にASCに届けることが重要です。

また科学的に証明されれば、基準の柔軟な解釈も採用しています。」 WWF/三沢「水産物を取り扱う企業との話し合いの中で、認証制度の認知度に加え、持続可能な水産物を求める消費者ニーズが低いことが、日本でのマーケットニーズの低さにつながっていると考えます。

しかしながら企業の社会的責任の範囲は自社だけにとどまらず、調達・販売先のサプライチェーン全体に及ぶようになってきており、リスク管理の側面からも認証制度を活用いただけたらと考えています。

必要性については多くの企業で感じられていると思うので、オリンピックなどを契機に実行へと移していただきたい。」 会場からは「ASCやMSC認証を取得した水産物がその地域や国のシンボルとなり、将来的にその地域の活性化につながることを期待したい」とのコメントも頂きました。

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