2016年を通じて、大きな話題となった世界各地でのサンゴの大規模な白化現象。世界でも屈指の豊かさを誇る沖縄の海でも、広くその現象が確認され、サンゴ礁環境への影響が懸念されました。石垣島の白保にあるWWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」でも、周辺の海の状況をはじめ、各地のサンゴの白化状況について情報を集めるとともに、国士舘大学と協働で白化現象の調査を実施し、その結果を日本サンゴ礁学会などでの発表。また、石垣島では地域の関係者や地元のメディアを対象とした勉強会を開催し、白化についての最新の知見を発信しました。
世界各地で起きたサンゴ礁の白化現象
2016年3月、地球上でもっとも大きなサンゴ礁の一つ、オーストラリアのグレート・バリア・リーフで、大規模なサンゴの白化現象が生じている、というニュースが世界を驚かせました。
南北2,000キロにわたって広がるこのサンゴ礁で起きたこの白化現象は、過去に例のない規模で拡大し、一時は北部の9割を超える地域のサンゴが白化したともいわれました。
一見するときれいに見えるサンゴの白化は、高い水温に長くさらされたサンゴが強いストレスを受け、文字通り色が白くなって、弱ったり、死滅したりする現象です。
このグレート・バリア・リーフをはじめとして、2016年はその後も世界各地のサンゴ礁で白化現象が拡大。長期にわたるその影響が懸念されました。
日本の最西端に位置する八重山諸島、特に広大なサンゴ礁があることで知られる石西礁湖(石垣島と西表島の間の海域)とその周辺でも、この白化現象がサンゴを襲いました。
前年の冬が暖かかったこともあり、海水温が下がらないまま夏を迎えたこの一帯で、サンゴ礁白化の話が聞かれるようになったのは、7月中旬のことです。
さらに、9月に入るまで台風の接近がなく、表層の海水が撹拌されなかったため、長期間にわたって高水温の状況が続き、8月、9月には白化した状態から死んでしまったサンゴも多くみられるようになりました。
行動する海の事業者たち
この状況を受け、石垣島と宮古島では9月、海の事業者たちが集まり、独自に情報を発信するプロジェクトが始まりました。
「八重山地域2016年夏のサンゴ白化情報発信プロジェクト」と「宮古地域2016年夏のサンゴ白化情報発信プロジェクト」です。
手掛けたのは、白化の事態を憂慮した、ダイビングショップなどサンゴ礁の海を生業とする関係者たちです。
このプロジェクトでは、参加業者が八重山諸島周辺海域と宮古諸島周辺海域で撮影した白化の様子の写真とコメントを集め、普及用のポスターを作製。
さらに、12月1日~4日に那覇で開催された第19回日本サンゴ礁学会でも、このポスターを使った発表を行ない、地域が主体となった発信に取り組みました。
石西礁湖などでの白化の状況を観察していたWWFでも、そうした地元の取り組みの経緯を地域のメディアなどに紹介。
併せて、学会で報告された各地の白化現象の状況や研究発表ついても情報発信を行ないました。
また、12月12日には、同じく石垣島にある、環境省国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターにおいて、NPO法人石西礁湖サンゴ礁基金と共催した「八重山地域2016 年夏のサンゴ白化情報発信プロジェクト サンゴ礁学会報告と白化現象勉強会」を開催しました。
これは、今夏に起きた白化現象の発信と、サンゴ礁学会で発表された最新の白化現象に関する情報を共有することを目的とした取り組みで、地域の方々を中心に、2016年に年八重山諸島周辺の海で起きた、白化現象のについてともに学び、考える機会としました。
サンゴの白化は食いとめられるか
残念ながら、白化したサンゴを短時間で回復させる手立てはありません。
白化したサンゴは、海水温が下がれば回復しますが、海水温が高い状態に長くさらされたり、繰り返し白化すると、サンゴ自体が衰弱するため、他の病気にかかったり、白化しやすくなります。
このことからもわかる通り、サンゴを白化から守るためには、サンゴを脅かす他の要因、たとえば陸上から流れ込む赤土や排水による海水の汚染、またサンゴ礁に害を及ぼすような観光利用の防止などに、日常的に取り組む必要があります。
さらに、高水温や異常気象の大きな原因になっていると考えられる地球温暖化のような問題を解決してゆくことも、欠かせない活動となります。
長年にわたりグレート・バリア・リーフの保全に取り組んできたWWFオーストラリアも、オーストラリア政府に対し、サンゴ礁保全計画の改善を求めると同時に、水質汚染の防止や、温暖化を防ぐために再生可能な自然エネルギー100%を実現するよう要請してきました。
何よりもサンゴ礁は、海の熱帯林と呼ばれるほどに、生命豊かな場所。 サンゴの衰弱や死滅を防ぐことは、そこに生きるより多くの野生生物を守ることでもあります。
2016年夏の高水温により、石西礁湖では広範囲でサンゴが白化現象が確認されました。
しかし冬になり、一部では白化現象は収束しつつありますが、回復に至らず死滅する多くのサンゴが認められます。
それでも、2017年の夏にまたも白化の脅威に見舞われるような事になれば、前年にも大きなダメージを受けた各地のサンゴは、危機的な事態に追いやられるおそれがあります。
WWFは引き続きサンゴ礁の専門家や、地域でその保全に取り組む関係者と協力しながら、現状の観察とサンゴ礁保全のための取り組みを進めてゆきます。