能登半島、ミゾゴイの生きる里山の保全を要請

自然の恵みを受けた人の暮らしと日本の原風景が残る、石川県の能登半島。

海辺に面した里山が広がる能登半島の石川県輪島市。ここで今、産業廃棄遺物処理場「門前クリーンパーク」を建設する事業が進められようとしています。予定地は、能登の景勝地の一つ高爪山の山腹で、現地調査の結果、国際的な希少鳥類であるミゾゴイをはじめ、サンコウチョウ、ハチクマ、サシバ、などの野生生物が生息していることが明らかになっています。事業計画に違法性はないものの、WWFはこの事業が地域の自然と希少種に及ぼす影響を懸念し、2017年8月22日、石川県に対して事業の認可を見合わせるよう要請しました。

日本の原風景の危機

自然の恵みを受けた人の暮らしと日本の原風景が残る、石川県の能登半島。

その里山や里海には、棚田やため池で作り上げられた里山の景観が今も広がり、海女(あま)漁、揚げ浜式製塩などの伝統技術が受け継がれているなど、世界的にもその価値が認められ、重要な農林水産業の仕組みとして、FAO(国連食糧農業機関)の「世界農業遺産」にも指定されています。

しかし、この能登半島の輪島市では今、産業廃棄遺物処理場「門前クリーンパーク」の建設計画が持ち上がり、問題になっています。

この建設事業は限界集落を抱えた地元の自治体が、過疎化・高齢化を背景に誘致したものですが、事業は能登を代表する景勝地の一つで「能登富士」とも呼ばれる高爪山(341m)の山腹を大きく削って行なわれることになっており、地域の生物多様性にも大きな影響が及ぶことが心配されています。

実際、事業予定地で行なわれた環境影響評価(環境アセスメント)でも、豊かな生物多様性の現状が明らかにされています。

その調査では、里山生態系の上位種である、ミゾゴイ、サンコウチョウ、ミサゴ、ハチクマ、サシバの5種の鳥類を確認。

とりわけ、日本でのみ繁殖し、国際的にも絶滅が危惧されているミゾゴイの貴重な生息地があることもわかりました。

そのため、周辺の市町村および「輪島の産廃処分場問題を考える会」をはじめとする地域の市民団体からは、反対の声も上がっています。

問われる石川県の判断

「門前クリーンパーク建設事業」自体には、手続き上の問題や違法性は今のところなく、着工は目下、石川県の認可を待っている状況です。

そうした中、この建設事業について、WWFジャパンは日本自然保護協会、日本野鳥の会と共同で、石川県に対し意見書を、2017年8月22日に提出。

「石川県生物多様性戦略ビジョン」を掲げ、これまでにも里山や里海を含む、豊かな自然を保全する努力を傾けてきた石川県が、事業を認可することの無いよう、強く求めました。

また一方、WWFジャパンでは従来も求めてきた通り、日本の生物多様性を保全するための、抜本的な法整備の実現が必要と考えています。

こうした問題への対応を考えるとき、現在の日本の法制度では、あくまで事業推進のプロセスに存在する手続法(てつづきほう)に過ぎない「環境影響評価法」では、限界があります。

「手続きさえ問題なければ認可できる」現行の制度では、真に価値のある自然を守ることができなません。

今回の建設事業も、石川県庁が開発許可の申請を受け入れれば、着工の運びとなり、それ以降は事業を中止、見直しすることができなくなります。

生物多様性保全に対する石川県の姿勢が問われています。

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