象牙と犀角 縮小する日本の市場について報告

WWFジャパンは2016年4月25日、日本で犀角と象牙の市場が縮小を続ける現状と、その要因について調査した新しい報告書を発表しました。

1970~1980年代にかけて世界最大の野生生物の消費国であった日本。野生生物の国際的な取引監視機関であり、WWFジャパンの取引調査部門であるトラフィック イーストアジア ジャパンは、2016年4月25日、その日本で、犀角(サイの角)と象牙の市場が縮小を続ける現状と、その要因について調査した、新しい報告書を発表しました。

日本の野生生物取引の歴史は、どのように歩み、そして今、どのような課題を抱えているのか。その知見と提言は日本のみならず、経済活動と共に市場が拡大を続ける、アジア諸国の野生生物取引問題の解決にも貢献するものです。

日本における象牙市場縮小の歴史

トラフィック イーストアジア ジャパンは今回、この報告書『Setting Suns:日本における象牙および犀角の市場縮小の歴史』の中で、日本が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」に加盟した1980年以降以降、日本で犀角と象牙の市場が縮小を続けてきた経緯と、その原因を考察しました。

それによれば、象牙については、1983年と1984年に行なわれた、合計で950トンの未加工象牙の輸入をピークに、輸入量が減少。

現在の生産量は、ピーク時の10%程度まで低下しています(*密猟によるものではないことがワシントン条約事務局によって認められた合法的な象牙)。

この背景には、まず、1989年にワシントン条約でアフリカゾウが「附属書Ⅰ」に記載され、全面的な商業取引が世界的に禁止されたこと。

そして、野生生物取引をめぐる当時の日本政府の危機感の欠如に対する、国際的な非難と、国内意識の高まりがあったと考えられます。

さらに、1990年代以降の景気の後退や、象牙を豊かさやステータスのシンボルとみる風潮の衰退など、社会的な要因も重なりました。

現状、日本国内で使われている象牙の80%は、印鑑としての需要ですが、この印鑑市場も縮小を続けており、今後さらにその傾向は強まるものと予想されます。

サイの角の取引は?

アフリカやアジア諸国でサイの密猟の最大の要因になっている「犀角(さいかく)」については、日本ではさらにその市場規模が小さくなっていることが分かりました。

300年以上前から伝統薬の成分として用いられてきた犀角は、1980年に日本がワシントン条約に加盟するまで、毎年輸入が続けられていました。

1973年のピーク時には年間1.8トンが輸入された記録があり、その後、価格が高騰したことも分かっています。

しかし、その後は消費自体が抑えられ、現在の利用については、製薬会社が在庫品(輸入禁止前から保持していたもの)を年間で、合計1キロ以下という量で消費するにとどまっています。

薬の利用者の犀角に対する関心も2%以下で、薬の原料としての認知自体が、低くなってきたことがうかがわれます。

これらの事実が示す通り、国際的な取引の規制が、国内需要の圧力となり、結果的に日本の市場を縮小させる大きな要因の一つになってきたことが考察されます。

今も残る問題、そして密猟

近年、アフリカやアジア諸国では、ゾウとサイの密猟が激化しており、深刻な社会問題にもなっています。

今回の報告書にまとめられた調査結果の限りでは、現状の日本の市場が密猟を助長につながっているとは考えにくいといえますが、一方で、日本の象牙の国内取引の管理体制には、まだ不十分な点も残されています。

現在、象牙や犀角の主な市場になっているのは、急激な経済発展を遂げ、豊かさを手にしつつあるアジア諸国であり、その多くは規制のゆるい東南アジア諸国を経由して密輸されていると考えられています。

ところが中国やタイでは最近、日本から違法に輸出された象牙の押収が相次いでいます(*国内販売は合法でも、国外への持ち出しは違法なため)。

日本への密輸がない一方で、現行の法制度やその執行体制の不備がこうした問題につながり、違法象牙を含めた世界のブラックマーケットを拡大させる一因になっている可能性がある、ということです。

犀角についても、日本ではその代替品として絶滅危機種であるサイガ(中央アジアに生息するアンテロープ類)の角「羚羊角」が長年使われており、消費の継続には大きな懸念があります。

世界の違法取引や、野生動物の密猟の増加に、日本の市場が直接関与していないとしても、取引の影響はさまざまなところに影を落とし、事態を悪化させることにつながりかねません。

トラフィックでは、今回の報告書の発表に合わせ、法整備と法執行の両面で改善が必要であることを指摘。

現在国内で義務付けられていない個人所有の象牙の登録やアジア地域の法執行機関を連携するプラットフォームの確立などを含めた提言を行ないました。

日本にとっても野生生物取引の問題は決して過去の話ではありません。

かつての野生生物消費大国として、日本にはアジア諸国が自国と同じ道を辿らぬよう、ワシントン条約の枠組みを通じた関係諸国への支援・協力を積極的に行なう責任があります。

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