希少種アユモドキの生息域保全を

京都府では亀岡市に「京都スタジアム(仮称)」を建設することを決定しました。しかし、この建設予定地での開発事業は、世界でこの亀岡周辺と岡山県の2カ所にしか分布していない、希少な固有種アユモドキの生息水域に影響を与えるおそれがあります。

2012年12月26日、京都府では亀岡市に「京都スタジアム(仮称)」を建設することを決定しました。しかし、この建設予定地での開発事業は、世界でこの亀岡周辺と岡山県の2カ所にしか分布していない、希少な固有種アユモドキの生息水域に影響を与えるおそれがあります。これまでにも各学会や多くの自然保護団体が、計画の見直しを求めてきましたが、京都府では現在までのところ、計画の見直しを表明していません。

■ アユモドキのふるさと

日本固有種の淡水魚であり、絶滅が心配されているアユモドキ。

その名前は、アユ釣りの「おとり」としてこの魚が使われていたことに由来するといわれ、かつては琵琶湖淀川水系と岡山県の水系に広く分布していました。

しかし、大規模な河川改修や護岸、産卵場所である水田の土地改変など、生息環境の悪化によって大きく減少。現在、地球上に残されたアユモドキの生息地は、岡山県の2ヶ所と、京都府の亀岡盆地のみとなっています。

1977年には国はアユモドキを天然記念物に指定。

環境省も1999年以降、発表を重ねてきたレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)の中で、絶滅の可能性が最も高いランク「CR(絶滅危惧IA類)」にリストアップするなど、種の存続の危険性が指摘されてきました。

さらに、「種の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」でも、アユモドキは法的な保護が義務付けられた「国内希少野生動植物種」にも指定されています。

京都府でも、2008年4月、府の条例である「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」の中で、アユモドキを「指定希少野生生物」に指定。「アユモドキ保全回復事業計画」も策定していました。

2004~2006年にかけて、WWFジャパンも京都府の「絶滅の恐れのある野生生物の保全制度に関する研究会」の委員として、この条例の制定に深く関与してきましたが、その内容は、諸外国の制度も参考にしており、希少種を保全する「条例」としては、他の地方自治体の模範ともなるべきものです。

■ 日本固有の希少種の保護を

しかしながら、2012年12月26日に京都府が決定した亀岡市での「京都スタジアム(仮称)」の建設を含む都市計画案は、このアユモドキの生息に悪影響をおよぼすことが懸念されています。

この都市計画案の進め方や保全策の不確実さについては、すでに日本生態学会、日本魚類学会をはじめ、国内の多くの自然保護団体が、問題の指摘と、計画案の見直しを繰り返し要望してきました。

また、2014年1月21日には、京都府と亀岡市に対し、府と市が設置した環境保全専門家会議の意見を十分に聴取し、環境保全措置を実施計画に反映するよう、環境大臣からも意見が提出されています。

WWFジャパンでも、2014年4月23日、都市計画手続きの中断と、スタジアムの建設を、根本から見直すよう求める要望書を、京都府知事および亀岡市市長あてに提出。

生物多様性基本法の基本原則に基づいた事業の再検討と、アユモドキの野生の環境下での生息環境の優先的な保全、さらに環境保全専門家会議の検討結果を尊重することや、継続的な保全につながる地域の社会的な合意を通じた手続きを目指すべきことを求めました。

WWFジャパンは、スタジアムを建設するな、と言っているわけではありません。ですが、貴重な自然を犠牲にし、これまでの保護の努力と、研究者の知見を無にするような計画は、行なわれるべきではないと考えます。

希少なカエルの生息地を守って開催されたシドニー・オリンピックや、オオタカやシデコブシが生きる里山を守って成功した愛知万博の時のように。今回の計画が見直されることを期待します。

【関連情報】

種の保存法政令指定種アユモドキの生息地における亀岡市都市計画および京都スタジアム(仮称)の計画に対する要望書(WWFジャパン)

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