国連気候変動リマ会議(COP20・COP/MOP10)閉幕:国別目標案の準備が本格化へ

2014年12月1日から、南米ペルーの首都リマにおいて開催されていたCOP20・COP/MOP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)が、会期を延長した14日未明、終了しました。

2014年12月1日から、南米ペルーの首都リマにおいて開催されていたCOP20・COP/MOP10(国連気候変動枠組条約締約国会議第20回会合・京都議定書締約国会議第10回会合)が、会期を延長した14日未明、終了しました。全体として、成果の乏しい会議となりましたが、まがりなりにも国別目標案の要件が決まったことにより、今後各国は、そのための準備を本格化させていくと考えられます。

COP20 COP/MOP10 3つの論点

現在の国連交渉は、「2015年12月に気候変動に関する新しい国際枠組みに合意すること」を目指して進められています。

今回の会議では、3つの主要論点がありました。特に重点が置かれたのは、1つ目と3つ目の論点です。

  1. 新しい国際枠組みの中での国別目標案(温室効果ガス排出削減目標等)のあり方
  2. 新しい国際枠組み全体の「要素」(elements)
  3. 新しい国際枠組みがスタートする2020年までの取り組みの底上げ

とりわけ1つ目の論点は、今回の会議で必ず結果を出さねばならなかったため、期日を延長するほど交渉が長引いた主な原因となりました。

各国の対立が激しく、最終的には、各国が国別目標案として出すべき中身の最低限の情報要件と、かつ、各国が国別目標案を出した後に、それらをまとめた統合報告書をまとめるということになりました。

今回の会議で決まることが期待されていた国別目標案を評価する事前協議は、一部途上国の反対によって非常に弱められました。

3つ目の論点である2020年までの取り組みの底上げについても、目立った成果を挙げることができず、成果の乏しい会議となりました。

しかし、まがりなりにも国別目標案の要件が決まったことによって、各国とも、いよいよ国別目標案の準備を本格化させていくと考えられます。

日本も、着実に準備を進め、せめて2015年6月の補助機関会合のタイミングに間に合わせなければなりません。

以下では、それぞれの論点における今回の会議の成果について、簡単に解説していきます。

新しい国際枠組みの中での国別目標案(排出削減目標等)のあり方

(1)削減目標を出すタイミングについて

2013年のCOP19で決まったことが改めて確認され、2015年の3月までに出せる国は提出するように促されています。

(2)削減目標に入れるべき情報について

削減目標の中身について明示し、透明性を持って、わかりやすく出すことが求められており、目標の基準年や約束期間、範囲や対象ガス、目標を計画するプロセス、人為的温室効果ガスを計量可能な形で提示するための前提や手法、それに吸収源などについて、情報が挙げられています。

また自国の目標案が、各国の事情を考慮しながらも、公正で衡平なものになっているか、危険な温暖化を防止する条約の目的に貢献するかなどについての説明も挙げられています。

(3)事前に進める協議について

提出された各国の目標案は条約事務局のウェブサイトで公開され、2015年10月1日までに提出された各国の目標案を11月1日までに、各国の目標案を足し合わせた効果について統合した報告書が準備されることになりました。

(4)適応について

目標案として、適応への取り組みを提出することが奨励されています。

全体として目標案については、途上国のグループ間での意見の相違が目立ち、先進国との対立が相まって、当初の議長案に書かれていた内容よりも弱くなってしまいましたが、それでも多様化している途上国を含む多国間で合意して、2020年以降の取り組みをすべての国が行なっていくことを前提にした仕組みが動き出していることは間違いありません。

2015年の年末に行なわれるCOP21に向かって、今回決まった内容にとどまらない多国間の対話が望まれます。

新しい国際枠組みがスタートする2020年までの取り組みの底上げ

国連環境計画(UNEP)のThe Emission Gap Report によれば、2020年時点での、現在の各国の削減目標の総和と必要な削減量との差は80~100億トンにものぼります。しかし、各国とも、2020年目標を引き上げることは政治的に難しいのが実情です。

この状況を受けて、2013年のCOP19で、削減のポテンシャルが高い分野に関する専門家を集めての「専門家会合(TEMs; Technical Expert Meetings)」を会議と並行して開催し、その議論の中で、国連気候変動会議の場がどのように現場レベルでの削減の取り組みを後押しできるかを議論することになりました。2014年の3回のADP会合に合わせて実際に議論がされてきました。

このTEMsと呼ばれるプロセスは、概ねどの国にも好評でした。

その理由は、TEMsが、通常の国連気候変動交渉ではなかなかやりにくい、自由な議論を可能にしたことでしょう。

国益を代表して喋らなければならない交渉官でも、比較的自由に議論ができる場を設定したことが功を奏したようです。

COP20にとっての主な課題は、このような専門家会合の中で見出されたさまざまな政策オプションの実施を後押しする仕組みを作ることでした。

しかし、結果としてみると、COP20は、そうした仕組みを十分な形で作ることはできませんでした。

1つのアイディアとしてあったのは、9月の国連気候サミットでのモデルを踏襲し、制度化するというものでした。

9月の国連気候サミットでは、国、企業、自治体、NGOなど、さまざまなイニシアティブを持ち寄り、各国首脳が集まるイベントの中で発表することで、ある種の勢い(モメンタム)を作り出しました。

この方式を取り入れ、TEMsで議論されたアイディアや、その他の国際的なイニシアティブを閣僚級会合で打ち出し、その進展をその後も確認していくことで、各国が個別に掲げている目標に加えて、各国・各地域の削減努力を底上げできないかを模索するというものでした。

しかし、閣僚に議論をしてもらうテーマを2020年までの削減努力に限定することに異論がある国や、TEMsでの政策議論ではなく、もう一度削減目標そのものについての議論をするべきと考える国など、意見がまとまらず、他の論点(特に国別目標案)における議論の方が優先されたこともあり、閣僚級の会合を毎年開くということのみの決定となりました。

この2020年までの削減努力の引き上げという議論は、単に排出量削減を早期にしなければならないという観点から重要であるだけでなく、「先進国がこれまで十分に削減してこなかった分を、途上国に責任転嫁しようとしている」という途上国の不満を解消するためにも重要な議論です。

今回の議論では、残念ながら十分な成果が出ませんでしたが、少なくとも、TEMsの議論は引き続き行なわれることが決まり、閣僚級会合を意味あるものにしていく可能性もまだ残されています。

2015年に入ってから、そのような方向に議論を進展させることができるかどうかは、2020年以降の国際枠組みの議論にとっても、上述のような信頼醸成の観点から極めて重要です。

新しい国際枠組み全体の「要素」(elements)

2015年に新しい国際枠組みに合意するために、現在の交渉スケジュールでは、5月に「交渉テキスト」と呼ばれるものを準備することになっています。

「交渉テキスト」とは、いわば2015年合意の下書きに当たるもので、文字通り、各国がそれをベースにして交渉を行なう公式な文書です。

今回の会議では、それに向けて、新しい国際枠組みの「要素」、つまり、新しい枠組みの骨格作りを議論するのが当初の予定でしたが、ややその予定を前倒しにして、「要素」をある程度確定しつつ、具体的な交渉テキストの草案に当たるものを作ろうとしていました。

いわば、「2015年合意」の下書きの、そのさらに下書きです。

190カ国が集まる多国間交渉では、こうした形で、慎重に合意ができていることを確認しながら議論が進められてゆきます。

この交渉は、ADPの共同議長が準備した草案に基づいて行なわれていました。

これが、最終的には、「交渉テキスト草案の要素」という名前で、今回の決定文書の附属書として添付される形になりました。

今後は、2月にもう一度開かれる作業部会において議論が行なわれ、その後、いよいよ交渉テキストとしてまとめられていく予定です。

現在の「交渉テキスト草案の要素」は、「緩和(排出量削減)」、「適応および損失と被害」、「実施のための協力と支援」、「資金」、「技術開発と移転」、「キャパシティビルディング」といった分野に分けられています。

これらの項目が、「要素」と呼ばれるものに相当します。

会議では、それぞれの分野ごとにセッションが設けられ、各国がそれぞれ意見を述べていく、という形式がとられました。

今回の会議では、まだ最終的な結論が必要なものではなかったため、第1週目から第2週目の始めにかけて、各国の意見を一通り集めて、議長草案を改訂したものが第2週目の水曜日に出されただけで、それ以上の議論はありませんでした。

この「要素」という論点は、2015年合意に含まれるべき内容、つまり、新しい国際枠組みに含まれるべき内容を一通り含んでいるので、そこで議論された内容は多岐に渡ります。

代表的な論点としては、大きく以下の点があります。

  • 2050年や2100年といった長期に向けての目標を設定するのかどうか
  • 緩和だけでなく、適応に関する世界的な目標を設定するのかどうか
  • 2015年合意の中で、最終的に削減目標を義務的なものにするのか、守れなかった時の罰則を設けるのか
  • 国々が掲げるべき目標を、気候変動に対する責任や能力によって差異化するべきか
  • 途上国支援については、公的資金を中心に考えるべきか、民間資金の活用にもっと重点を置くのか

日本にとって

今回、国別目標案についての情報要件がまがりなりにも決まった事で、各国の準備も本格化することが予想されます。

アメリカ、中国、欧州といった国々は既に目標を発表しているので、それらを正式に提出する国内手続きに入ると考えられます。

日本も、世界第5位のCO2排出大国として、国別目標案の提出を急ぐ必要があります。

それができなければ、ただでさえ不満を募らせている途上国の不満を買い、2015年合意への交渉加速の足を引っ張ることになりかねません。国内での着実な議論の進展が望まれます。

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