気候変動対策No.1の医薬品関連企業は?「企業の温暖化対策ランキング」第7弾

脱炭素社会の実現に向けて、国家だけではなく、企業や自治体といった非国家アクターの役割が期待されています。

2018年6月12日、WWFジャパンは、「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトの第7弾の報告書を発表しました。これは、各企業の温暖化対策を点数化したもので、今回の調査対象となったのは「医薬品」に属する日本企業23社。第1位となったのは、第一三共(73.6点)で、アステラス製薬(71.2点)、エーザイ(69.4点)、塩野義製薬(69.0点)と続きました。本業種は特に「情報開示」の面で取り組みレベルが非常に高く、総合得点の平均点も過去最高点となりました。

医薬品の上位企業は?

温暖化の進行を防止することを世界が約束した「パリ協定」。 2015年12月、フランスで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択され、2016年11月に発効した「パリ協定」は、温暖化の原因となる温室効果ガス(CO2:二酸化炭素など)の排出量を21世紀後半には実質ゼロにし、地球の平均気温の上昇を2度未満(できれば1.5度未満)に抑えることを目標としたものです。 脱炭素社会の実現に向けて、国家だけではなく、企業や自治体といった非国家アクターの役割が期待されています。今や、世界は脱炭素社会へ向けて動きを加速しています。再生可能エネルギーの主流化、一方で石炭に対するダイベストメントなどの脱炭素化への動き、ESG投資の拡大、SDGsへの貢献など、ビジネスの世界でも「持続可能性」の概念を組み入れることが求められるようになっています。 WWFジャパンは、早くから企業の役割に注目してきました。日本政府の温暖化防止の取り組みが停滞する中、日本企業の取り組みを促すため「企業の温暖化対策ランキング」プロジェクトを展開。2014年以降、6回にわたり業種別の調査報告書を発表してきました。 そして、2018年6月12日、その第7弾として、「医薬品」に属する23社を調査した「『企業の温暖化対策ランキング』 ~実効性を重視した取り組み評価~ Vol.7『医薬品』編」を発表。 23社のうち、2017年に環境報告書類を発行していた21社の温暖化対策の取り組みを評価しました。 その結果、偏差値60以上の上位企業4社は、次のようになりました。

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取り組み評価の基準と今回の評価

このプロジェクトでは、各社が発行した環境報告書やCSR報告書などを基に情報を収集し、温暖化対策の取り組みの実効性を最大限に重視しながら評価しています。 採点に関しては、企業として温暖化対策の「目標」を設定し、その実績を評価・分析しているかを問う『目標および実績』。取り組みの状況や進捗などに関する情報開示を行なっているかを問う『情報開示』。WWFジャパンではこれまで、この2つの観点から、21の指標を設け、評価を行なっています。 なかでも、特に重要な指標は次の7つです。

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評価の結果、『医薬品』業種の平均点は54.4点となり、これまで調査した業種(『電気機器』編48.7点、『輸送用機器』編46.7点、『食料品』編44.8点、『小売業・卸売業』編34.1点、『金融・保険業』編34.9点、『建設業・不動産業』編47.2点)と比較して、最も高いスコアとなりました。 この理由のひとつに、業界団体の取り組みがあげられます。つまり、日本製薬団体連合会が「2020年度の製薬企業の二酸化炭素排出量を、2005年度排出量を基準に23%削減する」という野心的な総量目標を掲げていたため、会員企業がここに準拠することで、業界全体の取り組みが一定レベル以上に担保されていると考えられます。また、スコアのばらつきの程度を示す標準偏差も比較的小さい事から、本業種の環境取り組みは企業間で大きな偏りが生じる傾向が少なく、業界全体で取り組みが進んでいることが明らかとなりました。 ただ一方で、最上位の企業でも総合得点が70点台前半と、最高得点がやや伸び悩みました。この主な要因としては、重要7指標である「長期的ビジョン」と「再生可能エネルギー目標」を持つ企業が一社も見られなかった事があげられます(図2)。業界団体の目標には取り組む一方で、残念ながら更なる追加性を持ったアクションが見られず、横一列の目標設定から頭ひとつ抜きんでる企業が現れませんでした。

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SBTが世界の新しいスタンダードに

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第5次評価報告書」によると、世界が追加の温暖化対策を取らない場合、地球の平均気温が今世紀末に4度前後も上昇することが予測されています。これにより、海面上昇や多くの種の絶滅、食糧生産への影響等、深刻な問題が発生する事が懸念されています。そこで国際社会は2015年にパリ協定を採択し、気温の上昇を「2度未満(または1.5度)」に抑える事を約束しました。従って、温室効果ガスの主要な排出主体である「企業」には、今後一層の削減努力が求められます。 企業がパリ協定と整合した排出削減目標を策定する手法として、既にアステラス製薬、第一三共、武田薬品工業等が取り組んでいる「Science Based Targets」があげられます。WWFとCDP、WRI(世界資源研究所)、国連グローバル・コンパクトが共同で立ち上げたSBTイニシアティブ(SBTi)では、パリ協定が目指す「2度」目標に向けて、科学的な知見と整合した自社の削減目標を立てることを推進しています。また、中長期的なタイムスパンでの目標設定を推奨しており、そのためのガイダンスやツール等を準備しています。SBTiでは当初、「参加企業を2018年までにグローバルで300社に」という目標を設定していましたが、その想定を大幅に上回り、2017年9月の時点で300社を達成。現在は既に400社以上の企業がSBTに取り組んでいます(2018年6月時点)。 日本政府も、SBTへの取り組みを推奨しています。環境省は2017年7月に、SBTiの承認取得に向けた、企業の目標策定を支援する事業を開始しました。SBTが、日本の削減目標にくわえてパリ協定の達成にも有効であると考えられたためです。初年度は、募集枠の30を大きく超える63社からの申し出があり、本業種からも大塚ホールディングスと塩野義製薬が参加しました。また、外務省においてもパリ協定の実施に向けた産業界の取り組みを重視しています。2017年12月の気候変動サミットで、河野外務大臣は「2020年までに日本のSBT認定企業数を100社に」と宣言しました。行政による企業の取り組みを後押しする機運は、一層高まっています。

国際社会が企業に求める真に持続可能な事業経営

現在、機関投資家の間では「ESG投資」が急速に拡大しています。投資先の企業の選定に、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の非財務情報を含めるというESG投資では、企業の短期的な収益だけではなく、将来にわたり事業経営が持続可能であるかが問われるため、企業は中長期的な視点で気候リスクとその機会に備える事が求められます。 『医薬品』業種は主に情報開示の面で優れており、平均点は過去最高点を記録しました。ですがその一方で、「長期的ビジョン」及び「再生可能エネルギー目標」を設定している企業は一社も見られませんでした。世界のESGの潮流を考えると、今後企業にとって、超長期の視点で環境戦略やビジョンを策定することは不可欠で、上記2つの指標はまさに今、国際社会に求められていることです。今後企業は、2050年やそれ以降の自社の「あるべき姿」を描き、気候リスクを明らかにするとともに、その対応を事業戦略へと落とし込んでいくことが重要で、更には機会の洗い出しも大変重要になります。こうした検討は、脱炭素に向けた潮流の中で、将来にわたる持続可能な経営に欠かせないプロセスです。 このようなプロセスを実施する際に、先述のSBTは極めて有効です。SBTでは、IPCCやIEA(国際エネルギー機関)などの最新の知見に沿って、企業が中長期的な視点の下で「2度シナリオ」と整合した削減目標を策定することを促しており、SBTを実践する過程で、上記のプロセスにおける主要な部分を併せてカバーすることも可能となります。 なお、SBTでは目標策定に先立ってScope 3排出量の算定が必要となります。ですが本業種は、既に多くの企業がScope 3の各排出量の見える化に取り組んでおり、SBTに踏み出す基礎は整っていると考えられます。今後は、科学的な知見と整合した自社の削減目標の策定に踏み込んでいくことが期待されます。 WWFはこれからも、業界ごとに異なる温暖化対策の実情を明らかにしながら、産業界による温暖化防止の取り組みが推進されるよう、今後も積極的に提言を続けていきます。

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