スマトラで象牙の密猟者が逮捕される

2015年2月10日、インドネシアのスマトラ島中部に位置するリアウ州にて、象牙を運搬途中の密猟者8名を、警察が現行犯で逮捕しました。

2015年2月10日、インドネシアのスマトラ島中部に位置するリアウ州にて、象牙を運搬途中の密猟者8名を、警察が現行犯で逮捕しました。押収された象牙は、絶滅が心配されている野生のアジアゾウのもので、その現場も特定されました。同地における象牙の密猟者の逮捕は実に10年ぶりで、警察当局が野生生物犯罪の取り締まりを強化している姿勢の表れといえます。

押収された1.5メートル長の象牙

東南アジアを代表する熱帯林を擁したスマトラ島の中でも、リアウ州は低地熱帯雨林が残されたほぼ最後の場所といわれます。

この森はトラやマレーバクといったさまざまな野生生物の貴重な生息地であり、とりわけ、絶滅危惧種であるアジアゾウの生息場所としては東南アジアでも屈指の重要な森です。

1999年にリアウ州内に700頭と推定されたアジアゾウは、2006年には半減したと見られています。原因は複数ありますが、象牙を狙った密猟もそのひとつの要因となっています。

そうしたなか、2015年2月10日、5人の密猟者と1人の密売人、2人のアシスタントで構成される密猟グループが、リアウ州の州都であり最大の都市であるプカンバルへ象牙を運ぶ道中、警察当局により現行犯逮捕されました。

この密売集団は、最大で1.5メートルにもなる象牙を保有していました。 所持品からは銃が見つかり、この銃はほんの数日前、ブンカリス県のマンダウ地域でオスのゾウが殺された際に使われたことがわかっています。

明らかになる一連の犯罪

また、密猟者たちはごく最近、テッソ・ニロ国立公園内でも3頭のゾウを殺したと明かし、警察とともに現場を訪れました。そこには、1頭のメスと2頭のオスの死体が牙を切り取られた状態で倒れ込むように並んでいました。

さらに密猟者たちは2014年9月にも、リアウ州の南東に位置するジャンビ州でも密猟を働いたと供述しており、警察は現在、この3件に関して立件する方向で調べを進めています。

WWFはこの件に関し、ゾウの死骸の位置特定や犯罪の証拠収集において、捜査に協力しました。WWFインドネシアの自然保護室長、アーノルド・シトンプルは次のように述べています。

「私たちは、この大規模で組織的な密猟の追及をリアウ州警察に託しました。今回の逮捕は、当局が組織的な野生生物犯罪を優先課題と位置づけて取り組んでいることを示しています。しかし、容疑者を逮捕するだけでは不十分です。しっかりと罪の裁きを受けさせねばなりません」

リアウ州では2005年にも象牙の密猟者が逮捕され、3人の容疑者が死刑、また12年半の実刑判決を受けています。

WWFの野生生物専門家のスナルト博士は次のようにコメントしています。

「過去10年の間に、多くのゾウが犠牲になりました。いまだ逮捕を免れている密猟者は、法の裁きを受ける日が近いことを覚悟するべきです。今回の逮捕を端緒に、より広範な象牙密売ネットワークが明るみに出、さらなる逮捕に向け当局の調べが加速することを望みます」

多発するゾウと住民との衝突

しかし、アジアゾウを絶滅の縁に追い込んでいる要因は、密猟だけではありません。

何よりも深刻な問題になっているのは、ゾウと地域住民の対立です。

かつて島全体が熱帯林に覆われていたスマトラ島は、紙の原料となるアカシアや、パーム油を採るためのアブラヤシを植林したプランテーションを開発するため、天然林が広く伐採されてきました。リアウ州もこの例外ではありません。

熱帯林の破壊は、野生生物からその貴重なすみかを奪ってしまいます。とりわけ、大量の食物や広い生息域を必要とするアジアゾウのような大型動物が受ける影響は深刻です。

こうして追いつめられたゾウの群が、森だった場所に作られた集落や農園に現れ、アブラヤシの実などの農作物を食い荒らしたり、住民との遭遇事故を起こしたりする例が多発。住民の側も、罠や毒などを使ってゾウを殺したり捕まえたりする、そんな悪循環が起こっています。

WWFはその設立に尽力してきたリアウ州のテッソ・ニロ国立公園をはじめとする地域で、野生のゾウと地域住民との衝突を減らす取り組みを続けてきました。

2004年からは、集落に出没する野生のゾウを森に戻すため、使役ゾウとゾウ使いによる「エレファント・パトロール」を開始。WWFジャパンも10年以上にわたってこの取り組みを支援し、成果を挙げてきました。

また、横行する違法伐採取り締まりの強化を政府に働きかけつつ、自然の森を大規模に伐採し、周辺に悪影響を及ぼす製紙企業や、パーム油の生産企業に対しても、保全すべき場所を確実に守るよう強く求めています。

WWFは、将来にわたってスマトラの森が守られ、野生生物が生き続け、人間の暮らしとも共存していけるよう、取り組みを続けていきます。

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