2017年5月31日、徳島県鳴門市で鳴門市や地元関係団体とWWFジャパンが中心となり進めてきた、陸上風力発電のゾーニングプロジェクトの結果が公表されました。地域環境と調和した自然エネルギーの導入が可能な「場所」を見つけていくゾーニング。
この取り組みでは、地元の自然や文化をよく知る住民や有識者が協力することで、「地域」に受け入れられる陸上風力発電の適地を明確にしています。今回の取り組みは、地域のより良い自然エネルギーの普及を図る観点から、今後各地で進むゾーニングの取り組みに示唆を与えるものです。
自然エネルギーを広げよう!「ゾーニング」普及への期待
「ゾーニング」とは、地球温暖化の防止につながる、風力などの自然エネルギーによる発電設備の設置に「適切な場所」を明確にする取り組みです。
こうした設備は、温暖化防止の観点からは望ましい一方で、地域の自然環境や野鳥をはじめとする野生生物、また住民の生活に、悪い影響を及ぼす場合があります。
そこで、設備を導入するにあたり、その影響を多様な観点から評価し、設置に適した場所を選定する取り組みの必要性が指摘されてきました。
実際、影響を最小限にとどめなければ、温暖化対策としては有効な発電施設の導入も、地域の人たちの理解を得て推進することが難しくなり、反対が起きてしまうこともあります。
一方で、自然エネルギーの導入には、温暖化対策としてだけでなく、地域活性化の政策として期待が寄せられるケースも少なくありません。
しかし、地域においては、特に風力など規模の大きい開発について、その導入適地を見つけ出すノウハウを有する事業主体が少なく、実施が難しいことが課題となっています。
現在、各地で規模の大きい自然エネルギーの発電に関する開発を手掛ける企業や資本の多くは、その地域に根差したものではなく、外部に拠点を置いています。
つまり、事業が完成しても、そこから派生する経済的な恩恵が、地域には還元されづらい事態が生じているのです。
これもまた、各地域で開発への反対につながっている一因と考えられています。
このため、地域をよく知る関係者、とりわけ自治体関係者やNPOをはじめとする地域の活動主体が中心となり、環境負荷が少なく、地域の理解と賛同が得やすい立地場所を見つけ出す「ゾーニング」が、注目されるようになりました。
地域におけるゾーニングの取り組みには、国レベルでも期待が寄せられており、2017年4月には、政府閣僚級会合で、今後、各地でゾーニングを普及拡大させていくことが示唆されています(※1)。
また、環境省もゾーニングのマニュアルを発行する予定を明らかにしており、実施に向けた整備が急加速しています。
鳴門市での「ゾーニング」の結果
そうした中、2017年5月31日、WWFジャパンは、約2年半にわたり、徳島県鳴門市で進めてきた、陸上風力発電のゾーニングプロジェクトを完了し、その結果を公開しました。
このプロジェクトは、ゾーニングが大きく注目されるようになるのに先立ち、高い関心を持っていた鳴門市、および(一社)徳島地域エネルギー、(特非)エコみらいとくしま、との協働で進めてきた、地域が主体となったゾーニングの試みです。
従来は、こうした事業は推進する企業などが主体となって行なわれてきましたが、この鳴門市のプロジェクトでは、自然環境に配慮し、地域の理解が得やすい立地を明確にする目的から、地域の関係者が主体となり検討を行なってきたことが大きな特徴です。
特に鳴門市では、その風況の良さから「陸上風力発電」を対象にしたゾーニングが行なわれました。
この取り組みでは、風車を建設するにあたり想定される影響を10項目あげ、それぞれの影響について議論を尽くし、風車の立地の可能性がある場所を明確にしています。
今回公表された成果報告書は、そのプロセスと結果をまとめた内容となります。
鳴門市と関係者の方々は、事業を推進するだけでなく、地域の自然や暮らしを守りたい、というそれぞれの気持ちを強く持ち、時に意見や主張が時に異なる場合がある中、いずれもこの課題に熱心に取り組んでこられました。
実際、明らかになったゾーニングの結果には、自然保護区である国立公園のエリアや「お遍路」のルートに近い市内南部で、開発を望まない声を反映。
一方で、市内の山岳部では、渡り鳥保護などの観点から、慎重な検討が必要であるとしながらも、適地の可能性を残す結果を明らかにしています。
取り組むことで得られるメリット
また、こうした一連の取り組みと成果は、地域にとっても、大きなメリットをもたらすことが期待できるものとなりました。
たとえば今回の鳴門市でのゾーニングで期待されるのは次の2点です。
●(1)市内での環境負荷の高い地域における開発を抑制すること
●(2)適地で地域内外の関係者による開発を促すことが期待できること
また、何より大きなメリットは、自治体を含む関係者が、発電を検討した自然エネルギーについて、具体的に開発できそうなポテンシャル(開発の可能量)が、どの程度あるか「見通し」が得られた点にあります。
これにより、他の自然エネルギーの開発を追加的に検討するかの判断に、つなげることが可能となります。
鳴門市でも、今回の検討がきっかけとなり、洋上風力など陸上風力以外の自然エネルギーについて、すでに新たな検討を開始。
市がこれから策定していく地域の再生可能エネルギー導入計画を、より具体的かつ現実的なものすることが出来ます。
問われる自治体での取り組み
地球温暖化の防止に欠かせない、化石燃料(石油や石炭など)から、再生可能な自然エネルギー(風力や太陽光など)へのエネルギー源の転換は、決して国や企業にだけ求められている取り組みではありません。
むしろ、温暖化による環境への深刻な影響を直に受ける可能性のある地方や地域にこそ、積極的に取り組んでいくことが求められています。
2015年12月には、温暖化防止に向けた世界の新しい約束「パリ協定」が採択されたことにより、今後は各国内の各地域においても、こうした脱炭素社会に向けた、二酸化炭素(CO2)の削減対策が強く求められていくことになります。
WWFジャパンが2017年に行なった試算では、日本が脱炭素社会に向けて自然エネルギーを導入する場合、省エネルギーを徹底した上でなお、太陽光で4億kW、風力で1億kWのスケールでの開発が必要となることが分かっています。
これは、日本の各地域の自治体が、今後も急速に広がっていく自然エネルギーをうまく活かし、共存しながら、地域の発展につなげていくのかを、強く問うものでもあります。
WWFジャパンでは、今回のプロジェクト報告の発表にあたり、地域の発展にも貢献しうる、持続可能な自然エネルギー(※2)の普及拡大に向けて、積極的に行動を起こしていく自治体が増えることを期待するとともに、そうした意思を強く持つ自治体をこれからも応援していきたいと考えています。