ペットショップの爬虫類はどこから来たか?―国内市場調査から―

事業者や愛好家は絶滅のおそれの高いペットの取り扱いや飼育を、自主的に控えることが重要です。
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日本は世界第4位の生きた爬虫類の輸入国です。WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるトラフィックは、2017年に行なったペットショップやエキゾチックペットの展示即売会の市場調査で、606種、5,491頭の販売を確認。この606種のうち、18%が特に絶滅のおそれの高い絶滅危機種で、39%はワシントン条約により国際取引が規制されている種でした。さらに、生息国で捕獲や取引が禁止されているはずの種も記録されました。こうした爬虫類をペットとして大量に取引している日本市場のあり方が今、問われています。

野生生物を取引が脅かす

現在、世界中で絶滅の危機が懸念されている野生生物は、動物、植物合わせて2万5,000種以上。 その危機の要因の一つが、ペットや蒐集 などの愛玩・鑑賞目的で行なわれる捕獲や採取です。 珍しいペットの中には、人間が飼育下で繁殖させているものも少なくありませんが、野生の状態で生息していた個体を捕獲し、国境を越えてそれが取引されるケースも少なくありません。 こうしたペットの消費や、それを支える取引行為が、野生生物を追いつめる大きな原因の一つになっているのです。 そのため、国際条約である「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)」では、加盟国同士の間で行なわれる野生生物の国際取引を規制。 また各国も自国内の法律で、こうした動物や植物の捕獲はもちろん、取引や販売などを禁止したり、許可制にするなどの規制措置を取り、野生生物の保全に努めています。 しかし、そうした取り組みにもかかわらず、今も過剰な採取、違法性が疑われる取引や売買は、後を絶ちません。 WWFジャパンの野生生物取引調査部門であるトラフィックが、2017年に日本のペットショップなどで行なった爬虫類の調査でも、そうした事実の一端が明らかになりました。

日本へやってきた爬虫類たち

今回行なった調査では、ペットショップなどで売られていたトカゲやカメ、ヘビなどの爬虫類の実に94%が、海外に生息する種でした。 こうした個体の全てが、原産地で野生から捕獲されたものとは限りません。 捕獲した個体を海外で飼育下繁殖させ、複数の国を経由して日本へ輸入されるケースもあります。 また、国内のペットショップやブリーダーが、繁殖させて販売することも珍しくありません。 しかし、こうしてペットとして販売される爬虫類の多くは、どこで、どのように捕獲され、輸入されてきたのか。また、累代飼育したものなのか、分からない場合がほとんどです。 また一方でペット取引も、厳しく管理できているとは言い難く、日本人による密輸事件やペット事業者による違法行為が報告されています。 爬虫類を含めたペットの違法な取引行為により、事業者が逮捕・送検された事件は、2005年から2016年の間だけでも28件に及びます。

日本の爬虫類ペット市場

2017年、トラフィックは、ペット事業者の多い東京、神奈川そして大阪でペットショップ16店舗と展示即売会1カ所を訪れ、販売されている爬虫類を調査しました。 その結果は、次のような内容となりました。

●販売されていた頭数:5,941頭

●販売が確認された爬虫類の種数:606種(亜種を含む)

●うちレッドリストに掲載された絶滅危機種:108種(18%)

●うちワシントン条約で取引が規制されている種:238種(39%)

●北米、アフリカ、東南アジアなど原産地は世界各地に分散

調査からわかった問題

●絶滅危惧種やワシントン条約附属書掲載種が無規制に販売されている

●生息国での違法捕獲が疑われる種が公然と取引されている

この問題を顕著に示すのはレイテヤマガメ(Siebenrockiella leytensis)の事例です。このカメはフィリピン中部のレイテ島にのみ生息し、野生の個体数は数百頭と推定されています。IUCNレッドリストでは近絶滅種(CR)と評価され、ワシントン条約の附属書Ⅱに載せられています。もちろんフィリピンの国内法によって保護されていますが、野生捕獲個体(Wild-Caught, WC)として2頭、販売されていました。 また、9頭の販売を確認した、南アフリカに生息する危急種(VU)のオオヨロイトカゲ(Smaug giganteus)は、繁殖率がとても低く、人工繁殖技術が確立していません。ペット市場で「繁殖個体」として販売されているものは、野生で捕獲したものである、つまり由来を偽っている可能性が高いとされています。

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ペット取引の問題の起こるワケ

しかし、レッドリストに記載された生物が、保護の対象になっているとは限りません。 レッドリストの評価は、あくまで危機のレベルを示すものであり、保護を義務付けるには、法的な根拠が必要となります。 売買などの取引についても同様で、たとえレッドリストの掲載種であっても、販売を規制する法律や条例が無ければ、取引行為があっても違法にはならないのです。 実際、今回のトラフィックの調査で販売が確認された606種の爬虫類うち、日本国内の法律で取引が規制されている種は、9種(全体の2%)にとどまりました。 それらを除く90%以上の爬虫類については、国内での取引規制が無いのが現状です。 密輸であれ何であれ、その動物を一度、上手く日本国内に持ち込んでしまえば、その後はほぼすべて、合法的に販売できる、ということです。 さらに、ペットショップなど販売業者や輸入業者に対し、トレーサビリティ(追跡可能性:捕獲から販売までの追跡が可能な状態/仕組み)の確保を求める法律もありません。 ですから、その場で販売されている種がどのように入手されたのかを判断することもできないのです。 生息国での違法な捕獲や密輸出が疑われる爬虫類であっても、日本国内で公然と取引されている事例が、多数確認されたこの調査の結果は、そうした問題の大きさを物語るものといえるでしょう。

世界の爬虫類を守るために

今、世界に分布する多くの爬虫類は、こうしたペット目的の捕獲に加え、生息地の消失や劣化、外来生物の侵入などさまざまな脅威にさらされています。 そうした中で、輸入大国である日本の政府と関係者、そして飼育者・愛好者には、ペット取引が、野生の爬虫類をこれ以上脅かすことのないよう、行動する責任があります。

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そのためには、まずペットとして取引される動物のトレーサビリティーを明らかにするルールを導入すること。 違法性が疑われる個体や、絶滅のおそれが高い種については、取引を厳格に管理する新たな法整備を行なうこと。 さらに、そうした法律や仕組みの整備を待つまでもなく、事業者や愛好家は絶滅のおそれの高いペットの取り扱いや飼育を、自主的に控えることが重要です。 問題解決のためには、政府、事業者、愛好家それぞれの取り組みと、国際的なレベルでの協力が欠かせません。 WWFジャパンとトラフィックはそうした取り組みの一環として、今後もペット取引についての調査と、保全のための提言を続けてゆきます。

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