空から草食動物の調査を実施! 極東ロシアのトラ保護活動

極東ロシアの森に君臨する大型の肉食獣、シベリアトラとアムールヒョウは、長年にわたる森林破壊や密猟の影響を受け、絶滅の危機に追い込まれてきました。

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2016年の冬、極東ロシアの沿海地方で、ヘリコプターを使った草食動物の調査が行なわれました。これは、シベリアトラ(アムールトラ)やアムールヒョウの獲物となるシカやイノシシなどが、どのエリアに、何頭ほどいるかを調べるものです。

7年ぶりに行なわれたこの調査の結果は、WWFが取り組むアムールヒョウの野生への再導入プロジェクトをはじめとした、さまざまな保護活動を支える、重要な知見となるものです。

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トラの獲物となる動物たちを追う

極東ロシアの森に君臨する大型の肉食獣、シベリアトラ(アムールトラ)と、アムールヒョウ。

近年は保護活動の成果により、わずかながらも数を回復していますが、いずれも長年にわたる森林破壊や密猟の影響を受け、絶滅の危機に追い込まれてきました。

現在ロシア国内にすむシベリアトラは推定で最大で540頭、アムールヒョウは70頭程度。

それぞれIUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト」で絶滅危惧亜種(EN)と近絶滅亜種(CR)に指定されています。

その生息を支えているのは、豊かな森が育むさまざまな大小の野生動物です。

特に、イノシシや二ホンジカなどの草食動物は重要な獲物で、過去にも大雪でこれらの動物が大量に死んだ時には、トラが栄養不足や餓死に追い込まれる例がありました。

この極東ロシアの生態系を支える上で欠かせない草食動物が、どこに、どれくらい生息しているのか。

これを調べる7年ぶりの大規模な調査が2016年に、実施されました。

この調査は、木々の葉が落ちて地表の様子がよく見える冬の間に、空からヘリコプターを使ってシカやイノシシの個体数を数えるもので、今回は2004年と2009年に続く第3回目の実施となりました。

選ばれた調査地

WWFロシアとアムールトラセンターの協力の下、調査を実施したのは、ロシア沿海地方の野生生物・狩猟管理局とラゾフスキー自然保護区と、ゾフ・ティグラ国立公園の管理事務所です。

この2つの保護区に、ヴァシルコフスキー野生生物保護区を加えた地域は約2,380平方キロメートルにも及びます。

合わせると東京都よりも広いこの3つの保護区は、沿海地方からハバロフスク地方にまたがって広がるシホテアリニ山脈の南側に位置し、特に植生と野生動物が豊かな場所として知られています。

2015年2月に実施されたシベリアトラの個体数調査でも、ここを中心としたシホテアリニ南麓には、トラの総個体数523~540頭のうち6分の1が生息していることがわかっています。

さらに、今回の調査地域には、WWFが1996年に提案して以来、実施計画が準備、推進されてきた「アムールヒョウの再導入プロジェクト」の予定地も含まれています。

この計画は、世界各地の動物園などの飼育施設からアムールヒョウの仔をもらい受けてトレーニングを行ない、かつてヒョウが生息していた地域に再び放し、野生の個体群を復活させよう、というプロジェクトです。

もちろん、肉食動物であるアムールヒョウを再び放す予定の地域に、獲物となる草食動物が十分にいなければ、プロジェクトは成り立ちません。

そこで、今回の調査対象地域は2004年と2009年の調査時と同様、シホテアリニ山脈の東側斜面の保護区と、隣接した狩猟許可区も含めた地域で行なわれることになりました。

このエリアは、シベリアトラの保護においても、きわめて重要な場所にあたります。

トラやヒョウの保護に欠かせない調査

草食動物の個体数調査については、2015年のシベリアトラの総個体数調査の折にも、同時に行なわれました。

しかし、調査員が自ら足で山野を跋渉して、足跡などを収集したこの時の調査では、分布や個体数についての大まかな傾向しかつかめませんでした。

その点について、元WWFロシアのスタッフで、現在アムールトラセンターの代表を務めるセルゲイ・アラミレフ所長は、次のように指摘しています。

「今回の調査では、前回のトラ調査の時のデータの不足を補完する結果が得られると思います。ヘリコプターを使えば、きわめて簡単に素早く、動物の姿を観察することができるからです。

歩きでは60日かかる調査が、ヘリコプターであれば4、5日で、60カ所もの区画を回ることができるのですから」

また、この調査には、周辺地域の3つの狩猟会も協力しています。これらの狩猟会では、過去15年にわたり、この地域の近くの草食動物の狩猟管理と、野生動物にとって大きな脅威である密猟の防止活動に力を入れてきました。

一連の協力に基づいた、この調査について、WWFロシア・アムール支部の野生生物プログラム・コーディネーターを務めるパヴェル・フォメンコは、次のように話しています。

「7年前の調査では、たくさんの草食動物の生息が確認されました。これは保全活動にあたる保護区のレンジャーと、ロシア沿海地方の野生生物・狩猟管理局が活動の上で残した大きな成果だと言えるでしょう。今回の調査でも前回と同様、シベリアトラと狩猟ライセンスを持った猟師たちが、十分に共存できるくらいの草食動物が、空から確認できることを期待しています」

調査の結果は現在分析されており、最終的にまとめられたデータが、今後の保護活動に役立てられることが期待されます。

日本からも取り組みの支援を

絶滅が心配されているトラやヒョウの生きる森は、日本の消費者にも深いつながりがあります。

極東ロシアで違法に、また森を壊すようなやり方で伐採された木材が、中国での加工などを経て、日本に木材製品として輸出され、売られている可能性があるためです。

こうした木材製品を、日本が多く輸入し、消費すれば、それだけロシアの森は痛手を受け、トラやヒョウも追いつめられることになります。

そこで、WWFでは森林の環境や先住民などを含めた地域社会に配慮して生産された木材を、第三者の立場から厳しく審査して認証する、FSC®(森林管理協議会)のマークがついた木材製品を、日本でも利用するように呼び掛けています。

日本でも近年増えつつある、このマークのついた木材や紙製品を選ぶことで、生活の中で、トラやヒョウのすみかを守る活動を支援することができるのです。

WWFでは、これからも日本とロシアの両事務局が協力して、現地でトラやヒョウの保護活動に取り組むとともに、日本の企業や消費者に対してFSC®認証材の調達・購買を働きかけていきます。

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