ワシントン条約第69回常設委員会開幕:「国内象牙行動計画(NIAP)」と日本の動向

日本がNIAPに参加すべき理由

2017年11月27日、ワシントン条約の第69回常設委員会が開幕します。条約の運営を担うこの重要な年次会議で、大きな焦点のひとつとなるのが「国内象牙行動計画(NIAP)」です。今回、アフリカ諸国からは、このNIAPプロセスに日本も参加するよう求める議案が提出されました。象牙の違法取引に厳しく対処するため、トラフィックも条約事務局に提言してきた、日本のNIAPへの参加。その意味と重要性をお伝えします。

ワシントン条約第69回常設委員会(SC69)

ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)をはじめとする国際条約では、「締約国会議(COP)」がよく知られています。

ワシントン条約のCOPは、約3年に一度開催されますが、そこでは、絶滅の恐れのある野生動植物の取引を規制する「附属書」と呼ばれるリストを改定する作業をはじめ、条約の指針にかかわる大きな決定が行なわれます。

一方で、COP以外にも、条約が機能するうえで重要な役割を担う委員会がワシントン条約にはいくつか存在します。

その中核にあたるのが、「常設委員会(SC: Standing Committee)」。「常設」とあるとおり、COPが開催されない年にも毎年開催され、条約の運営を担っています。

常設委員会の正式な参加者は、締約国の中から「地域代表」に指名された一握りの国々。その他の締約国やNGOは、オブザーバーとして参加し、日本政府も今回オブザーバーとしての参加します。

そして、この常設委員会の第69回目の会合(SC69)が、2017年11月27日、スイスのジュネーブで開幕します。

常設委員会では、条約の遵守状況やCOPの決定事項の進捗などが詳しく議論されますが、今回、日本に大きくかかわる議題のひとつが「象牙」の問題です。

国内象牙行動計画(NIAP)

アフリカゾウは1989年から商業目的の国際取引が全面的に禁止されています。しかし、世界には国内に象牙の合法市場を持つ国がたくさん存在します。

これは、ワシントン条約が規制するのは、あくまで「国際取引」であって、国内取引には及ばないからです。また、輸出入の規制、水際での密輸の取り締まり、国内取引の管理もすべて、各国政府が責任をもって行なうことが求められます。

そんな中、2000年代後半から、中国を筆頭としたアジア諸国での需要の増加が引き金となり、象牙の違法取引が急増しました。近年では、年間2万頭を超えるアフリカゾウが象牙目的に密猟される事態となっています。

この危機的状況を打開するため、2013年に開催された第16回締約国会議(COP16)で、「国内象牙行動計画(NIAP: National Ivory Action Plan)」というしくみが導入されました。

この「NIAPプロセス」のポイントは、次の2点です

●象牙の国際的な違法取引に関与している国々を最新の押収データの分析から特定する

●その国ごとに、必要な国内での対策を進めるための「行動計画」の策定の必要性を決定し(NIAPプロセスへの参加)、その実行をワシントン条約でレビューする

実は、NIAPプロセスのこの2つの点は、とても画期的です。

まず、客観的なデータ分析(ETIS:ゾウ取引情報システム)により、各国の違法取引への関与度合いが評価され、それにもとづきNIAPプロセス参加の必要性が検討されること。実際には、この評価をもとに、追加情報の精査や対象国との協議をへて、常設委員会で参加の有無が決定します。

もうひとつが、NIAPの策定から実施、完了までを、常設委員会で厳しくレビューし、改善や変更が必要な場合は、それを求める、というサイクルが組み込まれている点です(表1)。

つまり、参加国は、自国の責任においてだけでなく、ワシントン条約の他の締約国に対しても、NIAPプロセスの各段階で説明責任を負います。

表1:NIAPプロセス概要

タイの成果

このNIAPプロセスで、これまでに着実な成果を上げた事例が、タイです。

以前、タイは、世界最大の違法市場を持つ国と言われ、2013年に開催されたCOP16でNIAPの対象国となりました。

しかし、その後の不十分な対策に加え、タイの国内市場が拡大したことがトラフィックのモニタリング調査で明らかになったことから、2014年に開催された第65回常設委員会でタイ政府に非難が集まりました。

これを受け、タイでは、国内の象牙市場を規制するための法律を制定。アフリカゾウの象牙の国内販売を禁止したほか、象牙所持の義務登録を実施しました。

こうした対策の結果、タイの象牙市場は著しく縮小。トラフィックの継続したモニタリング調査でも、2014年から2016年にかけて、バンコク市場で確認された象牙製品の数が、96%も減少したことが示されています。

タイのほかに、2016年にそれぞれ国内市場の閉鎖を宣言した中国や香港も、NIAPプロセスに参加しています。

これらの国・地域でのNIAPの進捗状況が、第69回常設委員会でレビューされることになっています。

日本はNIAPに参加すべき

日本はこれまでのこところ、NIAPへの参加を求められていません。なぜかというと、違法取引の関与度合いが低いと評価されているためです(表2)。

表2:COP17時点のETIS評価と第69回常設委員会(SC69:2017年11月)開催前の時点のNIAPプロセスの参加の有無

しかし、違法取引の相対的な関与度合い以外に、国内市場や管理の状況に問題が認められる場合には、それも、NIAPプロセスへの参加の必要性を示す重要な根拠になります。

特に、日本の場合は、1980年代に最大の象牙輸入国だったことや、1989年の国際取引禁止以降も、2度の「1回限りの取引(ワンオフセール)」で計90トンにのぼる象牙を輸入していることから、国内に存在する大量の在庫と市場の管理を適切に行なうことが大前提として求められます。

しかし、日本の国内市場の管理制度には、長年改善されない問題が残ったまま。近年では、日本から中国へ向けた違法輸出が増加したことも明らかになっています。密猟の最大の要因となっている中国の市場に象牙の流出を許すのは、あってはならないことです。

WWFジャパンとトラフィックは、こうした状況を受けて、日本でも、管理できない取引を停止し、厳格に管理できる狭い例外を特定するなど、健全化に向けて厳しい決断を下すべきと考えています。

こうした対策を一歩ずつ前に進めるためにも、常設委員会は日本のNIAPプロセス参加を求めるべきです。

トラフィックでは、今回開催される常設委員会会合に先駆け、日本の違法輸出の動向と最新の市場調査(12月発表予定)から得られた結果を示し、日本のNIAP参加の必要性を訴える文書をワシントン条約事務局に提出しています。

さらに、ブルキナファソ、コンゴ、ケニア、ニジェールの4か国が提出した議案でも、日本をNIAP不参加としたこれまでの常設委員会での決定の見直しが提案されています。

その根拠には、2017年のトラフィックの調査で示された日本のオンライン市場の問題などが引用されています。こうした日本の象牙取引の問題に対し、アフリカゾウの生息国の政府も強い懸念を抱いているという状況を、日本政府は重く受け止める必要があります。

ここまで、日本政府は、2017年6月に公布された種の保存法の改正をはじめ、幅広い国内関係者を集めた「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」での取り組みなどで、一部の対策を進めてきています。

しかし、これらの対策の範囲は未だ限定的で、現在、象牙の国内市場を持つ他の国々がワシントン条約で求められる厳格な対応とは大きな隔たりがあると言わざるを得ません。

11月27日から開かれる常設委員会で、日本がNIAPプロセスへの参加を求められ、それが決定事項となるかどうかは、まだ予断を許さない状況です。

WWFジャパンとトラフィックでは、引き続き、日本のNIAPプロセスへの参加を求めていくとともに、国内では、2017年12月発表予定の報告書と合わせて、具体的な政策変更の提言を行なってゆきます。

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シリーズ:象牙とアフリカゾウ

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