ジャイアントパンダの飼育繁殖と保全の最前線

「いずれは野生復帰プログラムに貢献出来るようなパンダを輩出したい」
TOKYO, JAPAN - FEBRUARY 01: Giant panda cub Xiang Xiang plays on a tree at Ueno Zoological Gardens on February 1, 2018 in Tokyo, Japan. The seven-month-old panda cub went on view for the general public on February 1, 2018, a month and half after she debuted to the limited public with tickets obtained via a lottery process. (Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)
TOKYO, JAPAN - FEBRUARY 01: Giant panda cub Xiang Xiang plays on a tree at Ueno Zoological Gardens on February 1, 2018 in Tokyo, Japan. The seven-month-old panda cub went on view for the general public on February 1, 2018, a month and half after she debuted to the limited public with tickets obtained via a lottery process. (Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images)
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2018年2月12日、恩師上野動物園のジャイアントパンダのリーリーとシンシンが来日してから7周年を迎えることを記念し、ジャイアントパンダ「リーリー&シンシン」来園7周年シンポジウム「上野動物園の限りない挑戦」が開催されました。シンポジウムでは、動物園関係者より、飼育繁殖やそのための研究、2017年に生まれた仔パンダ「シャンシャン」の誕生秘話を交えた貴重なお話があったほか、絶滅危機種である野生のパンダの保全やWWFの活動についても紹介されました。

29年ぶりに誕生した「シャンシャン」の背景にある取り組み

WWFのシンボルマークにもなっているジャイアントパンダは世界中で広く愛されている動物です。 日本でも2017年6月12日に恩賜上野動物園で29年ぶりにパンダの仔「シャンシャン」が誕生してからほぼ毎週のようにその愛らしい姿が報道されるほどの人気ぶりです。 しかし、その愛らしい姿や仕草だけが注目をされてしまいがちですが、野生に生息するパンダの頭数は、わずかに1,864頭。 IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでも危急種(VU)に指定され、絶滅の危機が心配されています。 限られた険しい山地の森に棲み、タケという特定の食物に頼って生きるパンダにとって、開発などによる生息地の減少は深刻な問題。 さらに近年は、タケの生育に影響を与える地球温暖化も、脅威になっていると考えられています。 また、発情期の短さや、生涯で育てる仔が3頭ほどといわれる繁殖率の低さも、数がなかなか増やせない原因の一つ。 この繁殖の難しさは、保護施設などにおいて試みられている飼育下繁殖でも、大きな困難となっています。 そんなパンダの生態や現状について話を聞く催しが、2018年2月12日に東京国立博物館平成館大講堂において、恩賜上野動物園の主催により開催されました。 このシンポジウム「上野動物園の限りない挑戦」は、ジャイアントパンダ「リーリー&シンシン」来園7周年を記念して開催されたもので、これまでの上野動物園の飼育繁殖における取り組みや、国際的に取り組まれている野生のパンダの保全について、動物園ご関係者よりお話しがありました。 また、WWFジャパン事務局長の筒井隆司もパネリストとして参加。国際的な環境保全の取り組みを紹介する機会を頂きました。

講演内容

ジャイアントパンダが来園するまで

恩賜上野動物園長 福田豊氏

まず、恩賜上野動物の福田豊園長より、リーリーとシンシンの来日に際してのペア個体選定から輸送方法まで、さまざまな苦労話などのお話しがありました。 上野動物園で取り組まれている自然繁殖を前提にしたときのペア個体の選定では、パンダ同士の相性はもちろんのこと、若い個体であると繁殖の経験が少ないため選ぶときは慎重になるとのこと。 こうして選定されたリーリーとシンシンは、リーリーの来日直前の体調不良など心配されたこともありましたが、2014年2月、およそ20時間をかけて無事中国から上野動物園へ来園しました。

上野動物園におけるジャイアントパンダの飼育繁殖の取り組み

恩賜上野動物園 飼育展示課 東園飼育展示係 徳田雪絵氏

続いて、上野動物園飼育展示課東園飼育展示係の徳田雪絵さんより、飼育の現場ならではのパンダ飼育繁殖の取り組みについて、貴重な動画を交えお話がありました。 パンダの繁殖期は一般的に年に1回、さらにはメスの妊娠の可能性が高まるのはほんの数日間だそうです。 上野動物園では自然交配による繁殖を目指しており、陰部の腫れなどの外見的変化や、尿から測定される性ホルモンの生理学的変化、そして繁殖相手を探したり、尾を上げる「テイルアップ」呼ばれる行動変化から雄と雌の同居の時期を見極めるそうです。 こうして交尾を経て妊娠した後も行動観察や性ホルモンの測定は継続的に行なわれ、2017年6月12日、シャンシャンの誕生に至りました。 特に印象的だったのが、パンダたちそれぞれの性格でした。徳田さんによると、リーリーは決して無理強いをさせない包容力を持ち、シンシンはまっすぐで強気な性格、そしてシャンシャンはまだ小さいのではっきりとした性格はわからないけれど、シンシンに似て物怖じしない仔に育っているようです。

ジャイアントパンダ保全の国際的な取り組みについて

恩賜上野動物園 副園長兼飼育展示課長 渡部浩文氏

上野動物園の渡部副園長からは、パンダ保全の国際的な取り組みについて、ご紹介いただきました。 ジャイアントパンダの生息域外保全における野生復帰プログラムや、動物園が取り組む繁殖、そして、生息域内保全におけるパンダ生息地の国立公園の整備など、国境を越えたさまざまな取り組みが現在行なわれています。 また、渡部さんによると、飼育下における繁殖は、昨今の研究の成果から確立されつつあるそうです。 妊娠判断や血統管理、人工授精、出生仔の育成など繁殖に向けて押さえておきたいポイントが幾つかあり、その中でも繁殖期のタイミングの見極めと相性の良いペアの形成が重要であるとお話しされました。 パンダの野生復帰プログラムにおいては、順化施設で野生に近い生息環境にて竹を探し採食する訓練などを行ない、野生環境下でのトレーニングとその行動調査など段階的な訓練を経て野生へと戻されるそうです。 また、パンダが野生復帰後にも生息できるように国立公園の整備や、分断されてしまった生息地と生息地を繋ぐ「緑の回廊(コリドー)」の整備も重要とお話しされました。 最後に渡部さんは遺伝的多様性を保つ上で、動物園の使命として繁殖や野生復帰プログラムへ積極的に貢献してゆきたいと締めくくりました。

パンダ保全の将来 動物園、地域社会、環境保全NGOの視点から

プログラムの最後では、上野観光連盟の茅野雅弘事務総長、WWFジャパン事務局長の筒井隆司を加えた5名で「上野動物園におけるジャイアントパンダ保全の将来」をテーマに、参加者から事前に集めた質問に回答するトークセッションが行なわれました。 筒井からは、人間活動や経済発展と、自然保護活動の双方を、バランスよく続けてゆけるような、地域に根ざした活動が重要であること。 そして、地球の生態系に配慮し、管理、生産された製品を消費者が選ぶ行動変革が、パンダをはじめとする絶滅危惧種の保全につながってゆくことを説明しました。 実際、パンダを守るためには、「パンダかわいい」だけではなく、繁殖への取り組みや野生の状況などの情報をメディアに伝えたり、上野というパンダと共に歩んできた地域からの発信といった、積極的な取り組みが求められます。 また、環境保全を積極的に行なっている企業や団体を支援するなど、個人のそれぞれが貢献できることの積み重ねも、パンダたちの明るい将来をつくってゆく上で欠かせません。 福田園長は、動物園として今後も飼育下でのパンダ保全の研究を進めるプロジェクトに参加し、将来的にはシャンシャンも子孫を残し、いずれは野生復帰プログラムに貢献出来るようなパンダを輩出したい、と最後を締めくくりました。 WWFとしても、今回のような機会が、ジャイアントパンダや絶滅の危機にあるさまざまな野生生物の問題に、多くの人が目を向けるきっかけとなるように、動物園や地域社会の関係者の皆さまと、協力してゆきたいと考えています。 また、今回のイベントでは当日、WWFジャパンの活動紹介と募金活動を行なう機会もいただきました。関係者の皆さまには、この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。

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