5分でわかる「高血圧」入門:血圧の仕組みから予防のポイントまで【予防医学の最前線】

高血圧の病態には、遺伝要因や環境要因が複雑に影響しています。

この記事は2018年5月10日サライ.jp掲載記事「5分でわかる「高血圧」入門:血圧の仕組みから予防のポイントまで【予防医学の最前線】」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

文/中村康宏

高血圧は35歳以上の40%にみられる非常に身近な病気で、重大な合併症を引き起こします(※1)。しかし高血圧自体ではほとんど自覚症状がないため、血圧コントロールの重要性を理解していただくのには苦労することが多いのが実情です。

事実、高血圧があっても認識していない人は50%に迫ると言われており、健診で指摘される高血圧患者数と高血圧を治療している人数とには大きな乖離があります(※2)。 そこで今回は、血圧の仕組みについてご説明するとともに、高血圧予防の重要性・ポイントを解説します。高血圧の正しい理解と予防のポイントをぜひ押さえてください。

高血圧の判定基準とは

まず高血圧とは、病院や健診などで測定した血圧が、収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上の状態のことを言います。自宅で測定する家庭血圧では、それより低い135mmHg以上または85mmHg以上が高血圧とされています(※3)。

血圧が高くなる2つの仕組み

血圧は、心臓から送り出された血液が血管に与える圧力のことです。この血圧の仕組みを理解するには、庭に水をまくホースをイメージすると良いでしょう。

ホースから勢いよく水を出すためには、どうすればいいでしょうか? ホースをつまんで細くするか、蛇口を強くひねって水の量を増やすかのどちらかというのは、経験的におわかりになるでしょう。

ホースをつまむと、そこを通過する水にかかる圧力が高くなるため、水が勢い良く出ます。これは動脈硬化で血管径が細くなり、高血圧が起こる病態に似ています。

また、水の量を増やすとその分だけ勢いよくホースから水が出ます。これは塩分の取りすぎなどで体の血液量が増え、高血圧に至る過程と同じです。

高血圧の主たる3つの原因

高血圧の病態には、遺伝要因や環境要因が複雑に影響しています。中でも下記の3つは主要な高血圧の原因と考えられています。

(1)血管が細くなる(動脈硬化):加齢や脂質代謝異常症、高血圧などの生活習慣病によって、血管が狭くなったり、詰まったり、弱くなって膨らんだりする動脈壁の変化が起こります。そして、内腔が狭くなると、血圧が更に上昇してしまいます。さらに、高血圧により動脈の内壁が傷つくと、その部分がさらに狭くなり(粥状硬化)血圧上昇に拍車をかける、という悪循環が起きるのです(※4)。

(2)塩分:高血圧患者さんの中には、継続して塩をたくさん取ることにより、高血圧になってしまうタイプの人がいます。これを「食塩感受性高血圧症」といい、日本人は特に食塩の感受性が高い人が多いと言われています。臨床現場では、このタイプの患者さんが入院すると、塩分の少ない病院食を食べている間に塩分が体から抜けて、1週間もすれば降圧薬がいらなくなるケースにしばしば遭遇します(もちろん退院後の生活習慣を改善しなければすぐに元に戻ってしまいます)(※5)

(3)ホルモン・交感神経系:レニン・アンジオテンシン系という体内の酵素・ホルモン系や交感神経系が高血圧、特に朝に血圧が高くなる「早朝高血圧」の発生に深く関係していると言われています。統計学的に心筋梗塞、狭心症発作、突然死、脳卒中などの心血管疾患は早朝に多発しますが、これらの疾患の発症との関連においてホルモン・交感神経系の働きが注目されています(※6)。

高血圧が引き起こす様々な病気

高血圧症にはほとんど自覚症状がありませんが、実に多くの影響を体に及ぼしているのです。厚生労働省の死因順位によると、高血圧は死因の実に25%(心臓病・脳血管障害・動脈解離など)に関わっていることがわかります。

◎動脈硬化:高い圧力に対応するため血管の壁は厚く硬くなり内腔が狭くなります。(※4)

◎狭心症・心筋梗塞・脳卒中:動脈硬化が進行すると、血管が詰まりやすくなり、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などが起きます。さらに血管が脆く破れやすくもなり、脳内出血やくも膜下出血を引き起こします。(※7)

◎動脈瘤・大動脈解離:高血圧による動脈硬化の影響は太い血管にも現れ、動脈瘤や大動脈解離の原因となります。(※8)

◎認知症:高血圧が持続すると、自覚症状のないレベルで脳梗塞が起き、次第に認知症が現れます(血管性認知症)。さらに、これとは別の原因で起こるアルツハイマー型認知症の発症にも高血圧が関与することが数多く報告されています。(※9)

高血圧を予防・改善するための3つの心得

(1)肥満にならない:太っている人は皮下脂肪が多く,末梢血管を絞めつけるため高血圧になりやすくなります。皮下脂肪だけでなく、内臓脂肪もたくさんついていると、糖尿病、脂質代謝異常症などの他の生活習慣病も合併させてしまう恐れがあり、動脈硬化が進みやすく、さらに血圧コントロールが難しくなります。

(2)適度な運動をする:ウォーキングなどの有酸素運動は、継続することで血圧を下げる作用があるとされています(※10)。さらに、肥満解消や血中脂質の改善にも運動は有益です。

(3)規則正しくバランスの取れた食事をする:肥満を予防するためにも食べ過ぎには注意しましょう。そして、食事の量だけでなく、質にも注意しましょう。特に良質な脂質をたくさん取るように心がけ、悪い脂質は上限を設定するようにします。また、塩分は極力控え、ハーブなどで代用します。塩分を排泄する働きがあると言われるカリウムを多く含む野菜や果物を積極的に摂取しましょう。

血圧測定の3つのポイント

(1)毎日同じ時間に測る:血圧は1日の中でも時間帯によって変化するので、日々の変化をつかむためには同じ時間に測る必要があります。

(2)リラックスしてから測る:血圧測定前にはイスに座って1-2 分ほどゆっくりします。帰宅後すぐなどに測定すると血圧が高く表示されることがあります。

(3)座って測定する:血圧は、「心臓の高さにある上腕の血圧を座って計測した値」が基準になるため、必ず座って測定します。

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以上、血圧の仕組みから高血圧の予防の重要性・ポイントまでを駆け足で解説しました。

高血圧の管理には、持続可能な健康的な生活の実践が必須です。そのためには、医者から言われてやる、というのではなく能動的に高血圧と向き合い個人のライフスタイルにあった改善を心がけましょう。

高血圧に対する意識づけ・正しい理解があれば、より行動に移しやすくなります。まずは定期的な血圧チェックから始めてみませんか?

【参考文献】

※1.WHO 2014.

※2.Susan A Oliveria et al. 2005.

※3.高血圧治療ガイドライン2014.

※4.国立循環器病研究センター.

※5.Ogiyama Y, et al. J Renin Angiotensin Aldosterone Syst 2013 J Renin Angiotensin Aldosterone Syst. 2014 Sep; 15: 316–318.

※6.的場 宗敏. 日老医誌 2009; 46: 436-9.

※7.片山 茂裕. 他. 糖尿病 2014: 57; 501-3.

※8.Roberts WC, et al. Am J Cardiol 2011; 108: 1639-44.

※9.Skoog I, et al. Lancet 1996; 347: 1141-5.

※10.高齢者の生活習慣病管理ガイドライン.

※11.Nakashima Y. Bull. Soc. Sea Water Sci.2015: 69; 3868.