本当は怖い!本当に怖い!メタボリックシンドロームの基礎知識【予防医療の最前線】

メタボとは、生活習慣病に進展する前段階の状態です。

この記事は当院院長執筆の2017年11月22日サライ.jp掲載記事「本当は怖い!本当に怖い!メタボリックシンドロームの基礎知識【予防医療の最前線】」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

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文/中村康宏

「メタボリックシンドローム」や「生活習慣病」という言葉は、健診の時などに耳にする程度かもしれません。でもこれらの病気は、たとえ症状がなくても、現在進行形で病状が悪化していることがあります。

そして、ある日突然死んでしまったり、寝たきりになってしまうという、恐ろしい病気の前段階でもあるのです。

今回は、生活習慣の悪化からメタボリックシンドローム(以下、メタボ)になり、生活習慣病に至るまでの経過について、ご説明しましょう。

■成人病と「メタボリックシンドローム」の発祥

生活習慣と病気との関連性は、約100年前から指摘されていました。さらに研究が進み、1947年にはフランス人医師ジャン・ヴァーグ(Jean Vague)が、肥満が動脈硬化や糖尿病・腎臓結石・痛風と関連していることを指摘しました(※1)。日本で生活習慣と関連する病態のことを「成人病」と呼ぶようになったのは、この頃のことです。

そして1977年に、ドイツ人医師のヘルマン・ハラー(Herman Haller)により「メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)」という言葉が初めて科学誌で使われました。その後、1998年にWHO(世界保健機関)が「メタボリックシンドローム」という名称で診断基準を発表した事をきっかけに、健康診断でも広く取り上げられるようになったのです(※2)。

■メタボリックシンドロームの基準とは

現在の健康診断では、メタボリックシンドロームの項目があります。これらは腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)、血圧(最高血圧:130mmHg以上、最低血圧:85mmHg以上)、血中中性脂肪値・コレステロール値(中性脂肪値 150mg/dl以上、HDLコレステロール値40mg/dl未満)、血糖値(空腹時血糖値 110mg/dl以上)の4項目から構成され、「メタボ」とは腹囲を含む2つ以上の症状が一度に出ている状態をいいます(※3)。

この状態は、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる動脈硬化を急速に進行させてしまうため、それらが2つ以上重なっている場合は、「すでに手を打たなければならない状態」と考えられているのです。

■人はどうして「メタボ」になっていくのか

悪い生活習慣が人を「メタボ」へと導くことは、科学的に証明されていますが、その細かいメカニズムについては現在も不明な点が少なくありません。

その中で、メタボの有力な原因の一つと考えられているのが「酸化ストレス」です(※4)。喫煙や飲酒、高脂血症、高血糖によりタンパク質や細胞核の変性の原因となる「活性酸素 (ROS)」や「フリーラジカル」が体内で生成されると(※5)、これらが体内で「酸化ストレス」として作用し、血管のダメージや老化に深く関与し、動脈硬化や高血圧を引き起こすのです(※6)。

しかし、これらは自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行してしまいます。そして、ある日突然、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの致命的な病気に至るのです。

■「生活習慣病」とメタボの違い

メタボとは、生活習慣病に進展する前段階の状態です。厚生労働省は生活習慣病に至るレベルを5段階に分けており、メタボはそれの「レベル3」に位置付けられています(※7)。

メタボから生活習慣病へ。厚生労働省は生活習慣病に至るレベルを5段階に分けており、「メタボ」はそれの「レベル3」に位置付けられている。

生活習慣病は、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを意味しており、具体的には、糖尿病や歯周病、ガン、高血圧、肺気腫などが挙げられます。

さらに、生活習慣病が他の臓器に影響を与え、さらに多様な病気を引き起こすこともあります。これらは「生活習慣病関連疾患」と呼ばれ、骨粗しょう症や腎不全などが含まれます。

このように、非常に多くの病気が生活習慣を基にして起こるのです。言うまでもなく、心筋梗塞や脳梗塞などの致命的な病気が起こってからでは手遅れです。メタボと診断されたら、たとえ症状がなくても、現在進行形で病状が悪化していることに注意してください。

そして、食事や運動など生活習慣を見直し、早期に治療介入することが、メタボの進展そして生活習慣病予防に効果的であることも、知っておいてください。

【参考文献】

※1 Christa M, et al. Clinical Chemistry. 2006; 52: 897-8

※2 WHO

※3 日本内科学会雑誌 第94巻 第4号, 平成17年4月10日.

※4 Li M-C, et al. Folia Pharmacol. Jpn.2014; 144: 281-6

※5 Halliwell B, et al. Br J Pharmacol. 2004; 142: 707-22

※6 Lee M-C. Springer 2014. p.3-14

※7 厚生労働省

文/中村康宏